今回は広島大学での取り組みについてご紹介します。
文責
- 広島大学医学部 地域医療システム学講座
松本 正俊 教授 - 広島県地域医療支援センター
二井 秀樹 部長 - 広島大学病院 総合診療医センター
東條 環樹 センター長 - 広島大学医学部長
志馬 伸朗 教授
広島県の地政学的特性、医師養成の枠組み
広島県は人口271万人(全国12位)であり、政令市である広島市、中核市である福山市、呉市を有する比較的人口規模の大きな都道府県である。また、県土面積は8,478.16km²(11位)と比較的広く、沿岸部の平野、北部の山間地域、島嶼部など、地理的バラエティも有する、ある意味「日本の縮図」のような都道府県である。地域医療については、県内唯一の医育機関である広島大学医学部卒の医師に加えて、自治医科大学卒業医師、他大学出身で県内に就業した医師が一体となって県内の隅々まで支えている。しかしその一方で無医地区の数は全国の都道府県で2番目に多く、県内市区町間で単位人口あたり医師数に10倍以上格差があるなど、多くの課題を抱えている。ちなみに日本国憲法25条に規定された基本的人権である「生存権(すべての国民が健康で文化的な生活を営む権利)」は、憲法制定時に広島県選出の衆議院議員であり、後に広島大学初代学長となった森戸辰男が自ら発案しGHQとの交渉の末に入れたものであり、本県および本学と地域医療との間には長くて深い歴史がある。
キャリア形成プログラム、医局による教育支援
広島県、広島大学、自治医科大学、岡山大学が共同して、「広島県キャリア形成プログラム」「広島県キャリア形成卒前支援プラン」を策定し、ウェブ上に公開している。これは県内の医師不足地域における医師確保のため、医師の能力開発、向上、円滑なキャリア形成を目的としたものである。このプログラムの対象となるのは、広島県が人事に関わる事のできる広島大学医学部ふるさと枠(地域枠)医師(定員18名)、自治医科大学医師(定員2-3名)、岡山大学広島県地域枠医師(定員2名)、広島県医師育成奨学金受給医師(定員4名)である。
キャリア形成プログラム、キャリア形成卒前支援プランにおいて、卒前教育において地域医療教育に関してどのようなカリキュラムが用意されているかが記載されており、また卒後の地域への配置方法、地域赴任時の再教育のための機会保証、子育てや介護等での休業期間の扱い、知事指定診療科を選択した場合の進路などが詳細に説明されている。さらに、ネット上に公開はしていないが、広島大学および岡山大学については「診療科別キャリアプラン」を用意しており、各診療科に入局した際の一般的な進路や、専門医取得時期、学位取得時期などがモデルケースと共に示されている。
広島大学および岡山大学の各診療科(医局)も、地域勤務中の入局者(地域枠もそれ以外も含めて)に対する教育に積極的に関わっている。具体的には医局と関連施設によるカンファレンス、勉強会、全国学会参加へのサポート、論文執筆や専門取得へのサポートなどがある。
地域医療支援センター
広島県地域医療支援センターでは、医師の確保・就業支援のほか、女性医師や若手医師の活躍支援など、広島県から委託される様々な業務を行っている。
医師確保に当たっては、県内の医療機関で初期臨床研修を受けた若手医師は県内での就業率が高いことから、いかに臨床研修先として県内病院を選んでもらえるかが重要となってくる。このため、県内の臨床研修病院を対象とする助成金事業「指導医講習会受講支援事業」を実施し、臨床研修医の増加と臨床研修の充実を図っている(令和6年度実績:14病院、3,263千円助成)。
また、広島大学や基幹病院の指導医等のグループが実施する、複数の医療機関の若手医師を対象とした研修会等の経費を助成する「若手医師等育成支援事業」により、若手医師の知識・技術の向上と、他病院の医師とのネットワーク構築の機会を支援している(令和6年度実績:10団体、2,405千円助成)。
総合診療医センター
地域医療を支える医師には総合的な診療能力が求められる。総合診療専門医の新規育成、継続教育に加えて、領域別専門医の診療範囲拡大のためのリカレント教育に関わる組織として広島大学病院内に総合診療医センターが設置されている。厚生労働省の「総合的な診療能力を持つ医師養成の推進事業」によるもので、令和5年10月に開設された。現在センターで実施している事業として、①県内の主要医療機関(専門研修プログラム基幹施設含む)に個人情報に対して安全性の高い遠隔診療支援、コンサルティングシステム(通称ORIZURU)設置・活用、②研修医、専攻医、指導医を対象とした講演会、勉強会の企画・実施、③行政、県内総合診療専門研修8プログラム(責任者)との定期的な情報共有を行なっている。今後は医学生・研修医教育、さらに他県、他専門領域から広島県の地域医療・総合診療に従事を希望する医師のリスキリングなどにも力を入れていきたい。
まとめ
広島県では県民すべての生存権を守るため、行政、大学、地域医療支援センター、総合診療医センターなどが一体となって地域における医師確保、地域医師の教育、キャリア支援に取り組んでいる。今後もさらにこれらの連携を深め、よりきめ細かい、成熟した教育・支援システムを構築してゆく所存である。
