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【秋田大学】第2回 世界トップの高齢化社会での挑戦 ―地域とともに育つ医療人材―

今回は秋田大学ででの取り組みについてご紹介します。

文責:秋田大学大学院医学系研究科 総合診療・検査診断学講座 植木 重治 教授

はじめに

秋田県の65歳以上の老年人口比率は、全国平均29.4%(令和7年)を大きく上回り、40%を越えています。これは全国で最も高い高齢化率、すなわち世界一の高齢化社会で、地域医療現場では、医師・看護師不足や多疾患併存を抱える高齢患者への対応など、多様で複雑な問題が山積しています。このような課題への対応策のひとつとして、秋田大学医学部は2020年度から「総合的な診療」を提供できる医師を養成する拠点として、総合診療医センターを設置しています。このセンターは、高校生、自治医科大学や東北医科薬科大学の秋田県枠を含む医学生、専攻医やリカレント教育まで幅広く教育の機会を提供するとともに、県内の医療機関との連携によって地域医療を支える人材育成を推進しています。
さらに地域自治体と大学が連携し、新たな教育モデルの構築を図って設立されたのが「男鹿なまはげ地域医療・総合診療連携講座」および「仙北ウェルビーイング地域医療・総合診療連携講座」です。

設立の背景と目的

秋田県の地域医療は長らく「制度化された総合診療医」ではなく、「本来は専門医の立場にある医師」が地域ニーズに合わせて診療の幅を広げることで支えられてきました。しかし、これは属人的であり、組織的に地域医療の安定した維持を図っていく必要があります。その中心となる総合診療医の教育体制の整備は、秋田県全体の課題でもありました。設立された連携講座では、地域と大学を繋ぐ若手医師と指導医により、地域の教育拠点化に加え、その継続と循環を目指しています。
男鹿市は人口約2万4千人、「なまはげ」で有名な男鹿半島を有する風光明媚な土地ですが、高齢化率53%で、急速な人口減少に直面しています。唯一の総合病院である男鹿みなと市民病院も病床縮小を余儀なくされ、地域医療の維持と総合診療の提供が喫緊の課題となっていました。秋田大学と男鹿市は、2022年に同病院を総合診療医の教育・研究フィールドとして活用する協定を締結し、「男鹿なまはげ地域医療・総合診療連携講座」を開設しました。この名称は、男鹿市の象徴であるナマハゲをモチーフとし、地域を守る存在としての総合診療医像を表現しています。
一方、男鹿市と同様の人口規模を持つ仙北市は、日本で最も深い湖の田沢湖、角館の武家屋敷といった魅力的な観光地を有していますが、高齢化率48%で男鹿市と課題を共有しています。仙北市は「幸福度全国No.1」を掲げ、健康長寿と地域全体のWell-beingをまちづくりの柱に据えています。男鹿市の連携講座が軌道に乗ったこともあり、同様の目的で2024年に仙北市と秋田大学の協定が締結され、「仙北ウェルビーイング地域医療・総合診療連携講座」が開設されました。田沢湖をイメージしたロゴに象徴されるように、地域自然と医療の調和や、住民と医療従事者の協働を目指しています。

活動内容の紹介

いずれの寄附講座も、大学に在籍する指導医による教育・研究の推進と、地域で研修する医師の総合診療の実践を核としています。

  • 地域医療の実践と貢献
    • 定期外来や病棟診療に加え、救護活動や健康診断への協力、Advance Care Planningの啓発、他県の優良事例の視察・意見交換、多職種連携研修、地域イベントの開催などを通じて、地域医療の質向上と住民参加型医療を推進しています。
  • 総合診療医の育成と普及・啓発
    • 学内の連携部門とも協働し、地域に根ざした総合診療医の育成と、遠隔医療を含む包括的な医療提供体制の確立を目指しています。医学生や初期研修医を対象とした説明会や、臨床実習指導、専攻医への教育、学会参加・発表のサポートなどを通じて、総合診療の魅力を発信しています。SNSや動画投稿、イベントのプレスリリースなどを通して、地域だけでなく全国に向けても情報発信しています。
  • 研修プログラム開発
    • 男鹿みなと市民病院や市立角館総合病院での診療指導、ビデオレビューを用いた診療省察、指導医と専攻医が週に1回秋田大学に集合するHalf day backによる振り返りなどを行い、研修プログラムを改善しています。医療アクセスの課題に対応するため、医療機器を搭載して遠隔医療を可能にする医療MaaSが大学に導入され、男鹿市での実証検討が始まりました。仙北市も医療MaaSを導入し、医療DXを強力に推進しています。寄附講座では医療MaaSを活用した総合診療の実践的な教育プログラムを構築していきます。

展望

秋田大学は、男鹿・仙北をモデルケースとして、秋田県全域への教育・研究・診療ネットワークの拡充を目指しています。これらの取り組みは、地域医療現場での実践的教育の充実だけでなく、若手医師の地域定着促進や住民の健康意識向上という成果につながるものと考えています。また、医療DXやMaaSといった先端技術を取り入れた新しい地域医療モデルを構築し、より広く展開する可能性を秘めています。地域にいながら高い水準の教育・研究を受けられる環境を整備し、次世代の総合診療医育成と地域医療の持続に貢献していきます。

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