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【山口大学】第9回 地域と連携した山口大学の医学教育の取り組み

今回は山口大学での取り組みについてご紹介します。

文責:山口大学 篠田 晃 医学部長
白澤 文吾 医学部附属医学教育センター長

1) 山口大学と山口県の背景

山口県は全国比較で約10年早く高齢化が進行している超高齢社会であり、医師自体の高齢化も指摘されている(平均年齢全国1位、53.5歳)。また地理的にも山陽側に高度医療機関や医師が集中している。このような実情に対応した持続可能な医療提供体制の整備と医師の育成が地域医療構想で求められており、本学は山口県と連携し卒前卒後を通じて様々な取り組みを行っている。

【図1 医師数(全年齢)の推移;やまぐちドクターネットより】
【図2 医師数(35歳未満)の推移;やまぐちドクターネットより】

2)医学生の確保

県内で医師を志す中高生に対し、県医師会と協同して職業体験事業を毎年開催し、医学科への関心を高める取り組みを行っている。
 また、入学者選抜における地域枠の確保や、県による医師修学資金の貸付により、県内の医学科志望者を募っている。その他、県と連携して設置する「地域医療支援センター」では、修学資金貸与者が専門医取得やライフイベント等に際して安心して勤務できるよう、相談対応やキャリア形成支援を行っている。

3)地域に求められる医師の養成を目指した教育

1年次の「高齢者施設体験実習」、3年次の「社会医学課題実習」、4年次からの臨床実習における地域医療機関での実習、さらに6年次の「地域医療実習」等を通じて、地域における健康の増進と疾病の予防・治癒に貢献できる基本的な考え方を継続的に教育している。それぞれの実習は、各施設の指導医の熱意と患者やコ・メディカルの理解と協力により支えられており、現在もコロナ感染対策に留意してできる限り実施している。

【図3 地域医療実習アンケートの経年変化】 

4)臨床研修医の確保

県内での魅力的な臨床研修を実現するため、行政や県医師会、附属病院を始めとする県内15箇所の臨床研修病院が共同で「山口県医師臨床研修推進センター」を設置し、支援体制の強化を図っている。各施設における指導医研修の推進をはじめ、合同説明会や病院現地見学会等を通して、県内の臨床研修医の確保に努めている。

5)専門医の養成を見据えた教育

県内の外科医不足は著しく、育成が喫緊の課題である。本学では、2年次に結紮手技・縫合手技・剥離操作等のベーシックな外科手技を体験させる「外科早期体験実習」を正規カリキュラムに必修で取り入れ、外科医を志す医師の育成のほか、将来どのような診療科に進んでも応用できる臨床手技能力の獲得を目指している。また次のステップとして、4年次のプレOSCE実習と並行して、デジタル教材を用いた手術や外科的手技動画をバーチャル模擬体験出来る実習を考案中である。
また、行政や県医師会、本学を含む専門医研修プログラム基幹施設等で構成する「山口県専門医制度協議会」を設置し、臨床研修に引き続き県内での専門医の育成にも努めている。

6) これからの課題と取り組み

本学では行政や県医師会・近隣医師会の協力と支援を受けて、将来の地域医療を担う医師の育成に努めてきた。実際に、近年では地域枠卒業生をはじめ着実に県内の卒後臨床研修および専門研修に進む若手医師が育ってきており、引き続き充実した教育支援体制の整備を行う。また、この数年は新型コロナウイルス感染症の影響により、実現場での実習や多人数のセミナーなどが一部実施困難となっているが、今後の状況を見ながらこれらをより良い形で前向きに再起動し、更なる医学生や若手医師の教育推進に努めていきたい。

質問 ※「+」をクリックすると詳細がご覧いただけます。

地域医療実習の満足度は年々高くなってきているようですが、どの様な工夫をされているのでしょうか?

実習前に、学生に対し実習の意義や注意点などを詳細かつ丁寧に説明しています。また指導医向け説明会を毎年開催し(近年はWeb)、指導医側の理解と協力を得るようにしています。実習期間中は、教員ができるだけ全施設を巡回するように努力しており、指導医、実習生、担当教員での対話を重ねています。

山口県の医師不足改善のためには、山口県出身の医学部進学者数が増えることが重要と思いますが、その点についてはどのような状況でしょうか?

地域枠(修学資金貸与なし)や特別枠(緊急医師確保対策枠と地域医療再生枠:修学資金貸与あり)の入学定員について随時検討を重ねています。
 また、山口県出身で医師を志す高校生への働きかけとして、主に県内の高校を中心に、教員が現地に出向き、入試要項、キャリア形成などの説明会を開催しています。
 それ以外にも山口県の中高校生を対象にした医師体験実習を山口県医師会と協働で開催し、「医学部を目指すなら山口大へ」という機運を盛り上げています。

4年次からの臨床実習における地域医療機関での実習と6年次の地域医療実習の違いはどのような点でしょうか?

前者では、該当診療科で2週間のローテート実習のうちの1日を使い、その診療科の関連病院で学外実習を行うものです。後者は、学生が希望した診療部門のクリニックや地域病院で、1週間の学外実習を行うものです。ローテート実習と選択実習、実習期間、最終学年となり実習内容がより実践的であることなどが相違点となります。
 これら以外にも5年次3学期からの臨床実習(選択制、6週間×4診療科)では県内の臨床修練研修指定病院へ積極的に学生を派遣しています。

図3のアンケート結果は6年生からの回答でしょうか? この結果と山口県内での臨床研修医数の変動との関連はいかがでしょうか?

6年生からの回答です。アンケートで好意的な回答が増加し、また山口県内の臨床研修医数も増加傾向にありますが、これらの直接の関連性については分かりかねます。

地域医療実習のどのような部分が満足で、あるいはどのような点が今後の改善課題でしょうか?

プライマリー領域の様々な症例や手技を経験できることや、往診、地域保険など大学病院や基幹病院とは異なる経験ができることが満足なところとしてよくあげられます。また、熱心な指導医からの説明やディスカッションも学生には好意的です。
 一方、忙しいクリニックでは十分な指導時間が確保できないこと、実習時期によっては都合が悪い施設もあること、指導医から見てまだ学生の技能が満足なレベルに達していない場合があることなどが今後の改善課題と考えています。

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