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【香川大学】第4回 地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育

今回は香川大学での取り組みについてご紹介します。

文責:香川大学医学部 三木 崇範 医学部長

香川大学医学部は、県庁所在地高松市の南東に位置する三木町にある。香川県の医療圏は、東西に広がる県本土をおよそ4等分した4圏に加え島嶼部の小豆島を1圏とした5つの医療圏から成る。香川県は全国一面積の小さい県であるが、東西に高速道路が整備され東西の移動は1時間程度で可能である。瀬戸内海に面していることから、小豆島をはじめとする大小さまざまな瀬戸内の島々の医療を支えることが特徴であり、要求されている課題でもある。幸いにも、令和4年度からは、本学と香川県が連携してドクターヘリの運用が開始される予定であり、地域医療への取り組みが一層強化されつつある。香川大学ではこれまで、入試における地域枠・香川県による修学資金貸与・地域医療実習・地域医療教育支援センター設置などに取り組んできており、これを前医学部長が詳細に報告している(本会議HP卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携URL: http://www.chnmsj.jp/old/chiikiiryou_torikumi_new4.html 参照)。香川県の医師数は、全国平均を上回る状況にある。それにも拘らず他県同様、地域(医療圏)偏在と診療科偏在の問題は深刻である。これに対して、香川県により「香川県医師確保計画」が令和2年度に定められたことを受け、本学と連携・共同して継続的に医師確保に努めているところである。

医学部における地域医療教育には、様々な取り組みがある。その取り組みの殆どは、目に見えるところの教育に終始しがちである。医師の数が足りない、ある診療科の医師が足りないなど地域の事情を何度紹介しようと、これに共感しそこに身を投じてみようと思う医学生や研修医は少ないのは当然であろう。当該地域が自らの育った所なら話は別であろうが・・・。従前の取り組みは少なくとも10年以上前から継続しており、それでも著効を奏さない原因を考える必要があると考えている。私が香川大学医学部長の任に就いたのは令和3年10月である。これからは、従前とは違った切り口で地域医療教育を展開していきたい。ここで必要なのは、「何故いま地域医療が重要なのか」、つまり理由を教えることが要求されていると考える。私見ではあるが以下を医学教育のなかで柱として説きたい。

第一の理由として少子高齢化がある。我が国はこれから、確実に少子高齢化が進む。高齢者は疾患に罹り易いことを勘案すると必然的に医療が必要となる。医療費を抑える為の予防医学や軽症のうちに医療が介入することの重要性も国民皆保険制を維持するためには必須の教育項目であろう。第二に大規模災害の想定。近い将来我が国を襲うと言われている大規模な自然災害発生時の医療対応は、県単位では手に合わないことは明らかであり、複数の県あるいは広域地域・地方(四国地方、中国・四国地方、東海地方など)での対応が迫られる。効率的で有効な対応には、相互に近隣地域の特性の理解が必須である。今般の新型コロナウイルス感染症などの新興感染症パンデミック時もこれに含まれよう。従来の地域医療教育では、当該県内の困窮した事情を認識することに重きが置かれていたが、今後は広い地域・地方のそれをも学ぶ教育を取り入れるべきと考える。これには地域医療実習先を県外に拡大したり、DXデジタルトランスフォーメーション技術でVRを活用した地域医療実習などを展開していくことを視野に入れた教育に取り組む必要があると考える。第三の理由は、首都・都市機能の地方分散と人口減少。これからの世代が地方の時代と称される通り、都市部から地方に向かう様々な流れが予想されるいま、これに医療が対応するためには、この時代を担う世代に地域医療を教育する必要がある。

国立大学医学部に入学できるに足る学力を有する受験生を担保できる県内の高等学校は限られている。特に地方においては数校に限られる。地域医療を盤石なものにする方策として入学試験における地域枠が導入されて久しい。どの県も同様の傾向がみられると思われるが、地域枠・学校推薦枠はこれらの高校出身者で占められている。これが悪いわけではないが、県内の高校を幅広く裾野を広げて募集することも必要と思っている。多様な学生を集めることが期待できるからである。トップクラスの進学校からの学生でなくとも、その高校でトップでいるには成績や生活態度、課外活動など多方面で認められ、人望の篤い人材でなくてはならないことは明らかであろう。こういう人材を学校推薦枠などでとることが可能になればと思っている。勉学へのモチベーションの高さや地域愛は人一倍であることが想像される。入試ではこれまで、年齢や性別などに関係なく公平・平等に選抜されることが最重要点とされてきた。一方、出口に目を転じれば。一定の学力レベルが担保できていれば、高校ごとに医学部入学の機会がある結果の公平・平等性に目が向けられても不思議ではない。これを認知するところまで社会のコンセンサスが得られていないのが現状であろうが、今後の検討課題となることを心から望む。

以上、香川大学が地域医療構想の中で地域医療教育の新しい取り組みの柱を私見を交えて紹介した。今後も継続して地域医療の充実に向けて取り組んでいく計画である。

質問 ※「+」をクリックすると詳細がご覧いただけます。

DXでVRを活用した地域医療実習とありますが、具体的にどのような実習を行うのでしょうか?

国家戦略としてのデジタルトランスフォーメーションDX化は、教育の分野でも取り入れられつつあります。地域医療活動をカメラで撮影しVR(virtual reality)動画として編集し、それをオンデマンド方式で大学間で相互利用可能なシステムを構築すれば、県内だけでなく広域の地域医療の特性を遠隔で学ぶことが可能になります。実習先は、県内に限られるのが一般的ですが、このシステムがあれば、県外の事情などを効率的に学ぶことが出来ます。また、DX化が高度に進めば、リアルタイムで遠隔の実習に参加可能になり、今後の実習の拡がりが期待されます。

各高校でトップにいる生徒等の学校推薦枠での選抜との意見が述べられていますが、学力試験や面接以外にどのような方法を検討されているのでしょうか?このような形での入学選抜について、社会のコンセンサスを得るためにどのような検討をされているでしょうか?

現在、国・公立大学法人医学部の入試には、学校推薦指定枠は存在しません(私立大学にはあります)。学力試験や面接に加え、高校側(校長や担任教師)の責任で、将来医師たるに必要な「資質を備えた人材」を推薦できる制度設計が必要となります。
 国・公立大学法人医学部に、学校推薦指定枠がない理由は、不明です。国・公立大学法人である以上、全ての国民・県民に公平・公正な入試を実施していることを重視しているためと推測できます。しかし、一方でどの高校に進学しても一定の割合で医学部に進学出来るチャンスが確保されるべきという考え方もありますが、我が国では現在、このような発想には至っていません。欧米ではこの方針で選抜している大学があることを伝聞したことがあります。地域や人種などによる教育格差が顕著であることが理由と思われます。我が国では幸いなことに、そこまで顕著な格差はないとされています。現在、社会からコンセンサスを得るための具体的な検討には至っていませんが、社会がこのような思考にシフトしていくことを望んでいます。

(一部抜粋)「トップクラスの進学校からの学生でなくとも、その高校でトップでいるには成績や生活態度、課外活動など多方面で認められ、人望の篤い人材でなくてはならないことは明らかであろう。こういう人材を学校推薦枠などでとることが可能になればと思っている。」
三木医学部長の構想を是非、医学部長の在職中に実現させていただきたい。香川県は三木医学部長がおっしゃっているように面積は狭い県でR2.10.1現在で人口が約126万人の県です。東讃・中讃・西讃地区の高校には有名進学校でない高校にも該当者は必ずいると思います。
また、香川県内島しょ部のへき地と呼ばれるところには多数の高齢者がいらっしゃいます。少しでもその方たちの支援ができる医療体制の確立することをご検討いただきたい。

心のこもった感想と励ましのお言葉を頂き有り難うございました。士気が強くなりました。

 地域医療に身を置く医療人に求められる特性は、大病院の医師のそれとは大きく違っているように感じます。病気を治すだけではなく、地域住民の暮らしを体感して、住民の生の営みを包括的に理解できなければ地域に根ざした医療は展開できないと考えられるからです。私自身は、これから数十年先の地域医療を支える医師には、地域住民とくに、高齢者を「愛(いと)おしく想える心」が備わっていることが求められていると思っています。

 このような事情が分かって、地域に貢献したいという強い想いのある高校生こそ地域枠で入学してくるべきだと考えています。医学部入試はどのような選抜であっても学力の担保はされるべきではありますが、強い志があれば少しの学力の劣勢は充分補えると考えます。どうしても医師になりたくて、3浪の末入学した学生が私の研究室で研究しています。出身は香川県内の公立高校で、医学部に入学者を出したのは30数年ぶりと聞いています。目的意識が明確で、モチベーションも高く、成績優秀です。このような学生を、目の当たりにして改めて、高校推薦枠の必要性を感じた次第です。私信を含めて回答させて頂きました。

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