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【群馬大学】第34回 群馬大学における地域医療構想を踏まえた医学教育

今回は群馬大学での取り組みについてご紹介します。

文責:群馬大学医学部附属病院地域医療研究・教育センター長 廣村 桂樹 教授

群馬県における地域医療の現状と医師確保計画

 群馬県では、若手医師の確保、地域間と診療科間の医師偏在の2つが問題となっている。令和2年のデータによれば、群馬県の人口10万人当たりの医師数は233.8人で、全国平均の256.6人を下回り、少ない方から14番目に位置している。特に、25~34歳の若手医師が平成14年と比較して13%減少しており、若手医師の確保が大きな課題である。
 県内には10の二次保健医療圏が存在し、群馬大学がある前橋保健医療圏では、人口10万人あたりの医師数は447.4人と全国平均を大きく上回っている。しかし、その他の9つの保健医療圏ではすべて全国平均を下回っている。また、診療科においては、産婦人科、外科、脳神経外科などの医師数が減少傾向にある。
 群馬県はこれらの課題解消のため、平成28年から開始した地域医療構想の1つとして、医師確保計画を第7次以降の保健医療計画の中で策定している。そして、ぐんま地域医療会議と群馬大学医学部附属病院の地域医療研究・教育センターが連携して対策を進めている(図1)。

図1 ぐんま地域医療会議と地域医療研究・教育センターの概要図
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地域医療研究・教育センター

 地域医療研究・教育センターは、前身である医療人能力開発センターの事業を拡大し、平成29年に開設された。医師(医学生を含む)をはじめとする医療スタッフの人材育成や交流、県域の医療ネットワークの充実、県域全体の医療レベルの向上を目的とし、臨床研修部門、スキルラボ部門、男女協働キャリア支援部門、看護職キャリア支援部門、地域医療支援部門、看護師の特定行為研修部門、管理運営部門の7つの部門に分かれて活動している。このうち、地域医療支援部門は、群馬県と連携し、群馬県地域医療支援センターとして、群馬県内の医師確保、及び医師の県内定着や地域偏在の解消を目指して、医学部を目指す高校生、医学生、若手医師を対象に幅広い活動を行っている。

地域医療枠制度

 群馬大学では群馬県と連携し、平成21年度から地域医療枠制度を導入した。令和6年度も18名の新入生を迎え、これまでに計277名の地域医療枠学生を受け入れ、県内の若手医師確保に貢献している。
 本制度では、卒業後10年間、県内の特定病院(公立病院等)で勤務することで、医学部在学中に貸与された修学資金の返還が免除される。平成30年度の入学生からは、4年間以上は将来勤務する時点の保健医療計画に明記される「医師不足地域」の特定病院または「特に不足する診療科」に勤務することが義務づけられた。これにより、地域間および診療科間の医師偏在の是正を図っている。

地域医療枠学生に対する医学教育と支援

 地域医療枠で入学しても、地域医療への情熱を失い離脱する者がごく少数ながら存在し、問題となっている。この問題を解決するため、地域医療枠で入学した学生がその意思を継続できるようにすることが重要である。そこで、地域医療マインドの涵養を目指して「群馬県キャリア形成卒前支援プラン」(図2)を策定し、実施している。
 このプランでは、学生が入学するとまず県庁を訪問し、群馬県知事や県関係者と懇談する機会を設けている。また、地域医療研究・教育センターの医師との個別あるいはグループ面談、臨床研修病院等の見学バスツアー、学生情報交換会、地域医療体験セミナーなど、多岐にわたる活動を行っている。さらに、群馬県出身の自治医科大学学生との合同フォーラムも実施し、地域医療に対する理解と意欲を高める機会を提供している。

図2 群馬県キャリア形成卒前支援プロジェクト体系図
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卒後医師への医学教育と支援

 地域医療支援部門では、卒業後の地域医療枠学生をはじめとした県内の若手医師を対象に「ぐんま地域医療リーダー養成キャリアパス」を作成している。本キャリアパスでは、県内の基幹病院が作成した基本領域の専門研修プログラムを中心に、当該専門医の取得を目指す。さらに、地域医療研究・教育センターの各部門と連携し、出産・育児・介護等で臨床現場を離れた医師の職場復帰支援、EBM検索ツールの無料利用、スキルラボでのシミュレータ教育などを提供している。こうした活動により、若手医師のキャリア形成支援や地域医療を担う医師の県内定着を促進する。

埼玉・群馬の健康と医療を支える未来医療人の育成プロジェクト

 令和4年度文部科学省ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業に選定され、埼玉医科大学、群馬大学、両県ならびに関係機関の協力のもと、「埼玉・群馬の健康と医療を支える未来医療人の育成プロジェクト」が開始された。群馬県と埼玉県は利根川を挟んで隣接しており、より医師不足が深刻な埼玉県北部では群馬県への患者の流出も多いことなど、両県で共通の課題を有していたことが、本プロジェクトの背景にある。
 本プロジェクトでは、地域で必要な知識・技能・態度・価値観を共有する将来の地域医療に貢献できる医療人を養成し、医師不足地域の医師の定着を図ることを目的としている。両大学の医学生に対して、地域医療に関する講義や病院実習など、5つの教育プログラムを実施している。本学の担当としては、全学部生(共同教育学部、医学部医学科・保健学科、理工学部、情報学部)が対象となる「はじめて学ぶ地域医療」、医学生対象の「県境地域から学ぶ地域医療集中演習(利根川プログラム)」を企画・実施している(図3)。本プログラムは、地域医療に興味を持つ学生を幅広く受け入れて実施している。

今後にむけて

 地域医療研究・教育センターでは、群馬県と連携しながら、若手医師の確保、地域間の医師偏在、診療科間の医師偏在の問題解決に向けた医学教育や支援を実践してきた。従来、地域医療枠学生を中心に行ってきた各種の取組は、より多くの多様な学生が対象となっている。地域医療に対して熱意や知識を持つ学生を育て、群馬県における若手医師の確保、地域間と診療科間の医師偏在解消に取り組んでいきたい。

群馬大学医学部附属病院 地域医療研究・教育センター
https://mec.dept.showa.gunma-u.ac.jp/
「埼玉・群馬の健康と医療を支える未来医療人の育成」事業
https://sgmirai.jp/

質問 ※「+」をクリックすると詳細がご覧いただけます。

医師の、2次医療圏毎の不均衡は、当然あると思います。待機的な処置が可能な疾患を扱う診療科では、交通の便が良く、多くの疾患を経験している専門医がいるところ(群馬県では前橋保健医療圏)に、ある程度医師が集中すべきでしょう。小児や一次救急、慢性疾患を扱う診療科は、離れた地域にも必要でしょう。県全体をこうして考え、地域にも安心して暮らして頂く為には、交通アクセスを考慮した医師配置計画、地域医療計画が策定されると良いかと思いました。
 特に群馬県では、東西方向のアクセスが余り良くない印象です。東西方向の医療的なアクセスについて、何か対策や計画があれば御教授下さい。

群馬県では、県独自に二.五次保健医療圏として、4疾病及び周産期、小児医療について現行の二次保健医療圏よりも広域に対応する圏域として位置付け、医療連携体制の拡充を図っています。また、東西を横断するように、救命救急センターを設置する前橋赤十字病院、高崎総合医療センター、太田記念病院及び群馬大学医学部附属病院の4つを第三次救急医療機関として位置づけています。
 群馬の交通アクセスとしては、南北方向をつなぐ関越自動車道、西の長野方面へ向かう上信越自動車道、東の栃木へ向かう北関東自動車道、そして東北方面への東北自動車道をもとに、7つの交通軸構想(県央、東毛、西毛、吾妻、三国、尾瀬、渡良瀬の7方面に向けて交通軸を整備するもの)が策定されており、救急医療搬送などの効率性を高めています。
 さらに本県では、平成21年2月から前橋赤十字病院を基地病院としてドクターヘリの運航を行っており、山間部を含めた県内全域を概ね20分ほどでカバーしています。高速道路本線上や高速道路関係施設に離着陸できる体制として、「高速道路におけるドクターヘリ運用マニュアル」も整備されています。新潟県、埼玉県、栃木県など隣県ともドクターヘリ広域連携を行っており、重症要請の際には応援要請をすることができるようになっています。

地域医療枠医師の、地域へのモチベーションの惹起と維持に工夫されているご様子ですが、地元医師会からはどのような支援を頂いているのでしょうか。

群馬県医師会に設置された「群馬県医師会女性医師支援委員会」では、県医師会、郡市医師会、群馬大学医学部附属病院、群馬県関係者が委員として活動し、地域医療枠医師に関わらず、医師の働き方や女性医師支援等に関して、ご指導、ご支援いただいています。具体的には、群馬大学医学部医学科の講義として医学生や研修医・若手医師を対象とした、「医学生・研修医等をサポートするための会」の主催や、子育て支援制度の一環として「保育サポーターバンク事業」を展開し、若手医師のキャリア形成やワーク・ライフ・バランスについて考える機会を提供し、子育て世代の医師が男女ともに働きやすいような保育環境の整備や情報発信を行っています。
 また、地域医療枠学生及び卒後医師の支援として、実務を遂行する「群馬県地域医療支援センター(群馬県及び群馬大学医学部附属病院内地域医療研究・教育センター地域医療支援部門の2ヶ所に設置)」の事業運営について、「群馬県地域医療支援センター運営部会」の委員として、(1) 地域医療支援センター運営の企画・立案、(2) 地域医療枠等若手医師のキャリアパス作成・管理、(3) 医師のキャリア形成支援に関わる関係機関の連携について協議するとともに、地域医療枠卒後医師のキャリア形成や希望進路に関する助言、離脱予防に関する指導などをいただいています。

また、地域医療枠医師の、地域へのモチベーションの惹起と維持には、地域医療枠医師として成長し、活躍しているロールモデル医師の存在は極めて重要と思います。このような医師の活用について、行っている事、計画があれば御教授ください。

群馬県地域医療支援センターでは、年に複数回、地域医療枠学生・医師や同様の従事要件を持つ本県出身の自治医科大学学生・卒後医師との交流を図ることを目的として、「ぐんま地域医療合同フォーラム」を開催しています。本フォーラムでは、地域医療枠及び自治医科大学の学生・卒後医師を対象に、地域医療の現場で活躍する卒後医師を講師として、キャリア形成やワーク・ライフ・バランス等に関する講演を行っています。
 また、今年度、群馬県では初めて従事期間を終える地域医療枠卒後医師が出ることもあり、上記フォーラムとは別に地域医療枠卒後医師のキャリア形成に関して定期的な報告会を開催することを検討しています。

群馬県でも、診療科偏在が進んでいるとの記載がございました。ぐんま地域医療会議と群馬大学医学部附属病院の地域医療研究・教育センターが連携して対策をしているとのことでしたが、どこで、何科を専攻してもよい制度の中で、どのような専攻医誘導の対策をしているのでしょうか。一般入学者と、地域医療枠入学者それぞれについて、御教授ください。

平成30年に附属病院内地域医療研究・教育センター地域医療支援部門に設置された「ぐんま医療人ネットワーク」では、県内各地域における医療情勢の継続的な調査・検証を行い、県内医師数等の把握に努めています。本調査結果は、毎年「ぐんま地域医療会議」にて報告され、地域や病院のニーズに即した医師派遣を行うとともに、県内の診療科偏在の課題解決に向けて活用されています。
 一方、ご質問いただきました専攻医誘導につきましては、一般入学者及び地域医療枠入学者のいずれに対しても実施していません。地域医療枠入学者に課せられる修学資金の返還免除要件(※1)にある、「医師不足地域」及び「特に不足する診療科」について、毎年実施している学生面談の中で繰り返し説明を行い、地域の医療情勢を十分に理解した上で各自の希望でキャリアを選択できるよう努めています。加えて、一般入学者及び地域医療枠入学者ともに各種地域医療体験セミナーへの参加を促し、それぞれの地域や地域医療について自主的に学び、将来の自身のキャリアについて考える機会を提供しています。これらの活動により、地域医療枠卒後医師の4割以上が「医師不足地域」に勤務し、「特に不足する診療科」の専攻医・専門医となっています。また、地域医療枠入試が一般枠と別枠入試になり、総合診療、小児科、外科を希望する地域医療枠学生は増加傾向にあります。

※1 地域医療枠(平成30年度以降入学者)修学資金の返還免除要件として、「4年間(2年次編入の場合は3年4か月間)以上は、将来勤務することとなる時点の保健医療計画に明記される「医師不足地域」の特定病院又は「特に不足する診療科」のうちから、被貸与者の意見を聴取の上、群馬県知事が指定する医療機関又は診療科に勤務すること(へき地医療拠点病院又はへき地診療所に勤務する場合は3年間(2年次編入の場合は2年6か月間)以上とする)。」と明記されています。

似た質問になります。地域医療枠医師の選択する診療科ですが、現在どの分野の専攻医も不足している状況だと思います。一方で、住民は疾患があれば、その疾患の専門医に診て欲しいと考えるものです。専門領域を持つ地域医療枠医師としての地域医療へのアプローチもあるかと思います。地域医療枠医師の専攻医選択について、群馬大学医学部附属病院 地域医療研究・教育センターとしての対応や計画を御教授ください。

群馬県地域医療支援センターでは、地域医療枠卒後医師をはじめとする若手医師が、自身の目指す将来像に応じて、機能、役割、特色の異なる病院や医師不足地域等をバランスよく経験しながら地域医療に貢献できるよう、キャリア形成プランとして「ぐんま地域医療リーダー養成キャリアパス(以下、キャリアパス)」を策定しています(※2)。本キャリアパスは、後期専門研修プログラムを持つ県内の各病院、各診療科にご協力いただき、基本領域及びサブスペシャルティ領域の専門医取得、大学院進学や国内外留学等を含むキャリアプランをコース図として示しています。
 これらキャリアパスは、群馬県地域医療支援センター運営部会での承認を経てホームページ等に公開されています(※3)。地域医療枠卒後医師が十分にキャリアアップできるよう、キャリアパス作成では、(1) 卒後10年以内に基本領域の専門医資格を取得することができるものとする、(2) 県内の二次保健医療圏を4地域に分け、そのうち3地域以上を経験することにより、医師不足地域も経験しバランスよく地域医療に従事できるものとする(地域間ローテーション)、(3) 勤務対象となる特定病院を3グループに分け、それぞれ1施設以上の病院で勤務することにより、特色の異なる地域医療を経験できるものとする(病院間ローテーション)、など、県内の多くの地域、さまざまな病院で臨床経験を積み、専門医資格の取得が目指せるようになっています。自分の希望する進路を選択できることが若手医師のやりがいにつながり、将来の地域医療を担う医師の県内定着、さらには医師の地域偏在解消に寄与すると考えています。

※2 平成30年度以降の地域医療枠入学者については、修学資金の返還免除要件として「従事必要期間は、群馬県地域医療支援センター(県及び大学に設置)が用意する「ぐんま地域医療リーダー養成キャリアパス」に参加すること。」と明記されています。

※3 ぐんま地域医療リーダー養成キャリアパスホームページhttps://www.gmcc.jp/cp/

感想

地域医療枠医学生への、学部教育、卒業医師への支援と、非常に活発に活動されていることがわかりました。また、埼玉県北部の住民の医療行動にも対応すべく教育体制を構築していることに感心したところです。

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