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【弘前大学】第25回 つなぐ地域医療教育:青森と秋田で、学生と住民/職種と職種をつなぐ

今回は弘前大学での取り組みについてご紹介します。

文責:弘前大学大学院医学研究科医学教育学講座 鬼島 宏 教授
弘前大学大学院医学研究科医学教育学講座 野村 理 助教

弘前大学の歴史と医学教育

 弘前大学医学部は、1944年(昭和19年)の青森医学専門学校が前身であり、東北地方では東北大学医学部に次いで二番目に設立された医学部である。弘前大学は「世界に発信し、地域と共に創造する」を基本方針とし、青森県を中心に、秋田県北部、北海道南部も含めた地域医療を支えるとともに、地域に根差した教育および医学教育を行ってきた。研究においては地域医療に根差した研究を中心に添え、健康未来イノベーションセンターを中心に「岩木健康増進プロジェクト」を推進し、得られたビッグデータを解析することで、青森県の短命県返上に向けて認知症、がん、生活習慣病などの早期発見並びに予防方法の研究がなされている。
 本学の医学教育の特色は、地域枠学生数と地域医療教育である。現在、一般選抜青森県定着枠、総合型選抜Ⅱ青森県内枠、総合型選抜Ⅱ 北海道・東北枠からなる計62名の学生が地域枠学生として本学に入学しており、従来から医師不足に悩まされてきた青森県唯一の医学部である本学の卒前医学教育の質向上が将来的な安定した地域医療供給体制に貢献すると考えている。国際基準の認証評価に対応するため、平成31年、卒業時に修得しておくべ能力(アウトカム)として卒業時コンピテンス (10領域)及び卒業時コンピテンシー(66項目)を規定し、カリキュラムマップによりそれぞれの授業科目の関連性を可視化することで学生と教員との共通認識を形成し、効果的な学習及び教育が可能となるカリキュラムを構築している。
 地域医療に関連した授業科目が各学年に設定されており、地域医療入門(2年次)、社会医学実習(3年次)、へき地医療実習(6年次)などが代表的な授業である。地域医療入門の授業では、青森県の保健医療システムや疾病構造、地域における災害医療、自殺対策、国際医療について学び、将来医師として取り組むべき地域医療の課題と対策について能動的に学修している。社会医学実習では、前述の本学を代表する大規模な地域健診研究事業「岩木健康増進プロジェクト」に医学生が参加し、住民と接しながら地域保健活動の実際を学んでいる。6年次のクリニカルクラークシップIIでは、4週間のへき地医療実習が義務付けられ、定められたへき地医療実習病院の内から一つを選んで実習する形式をとっている。

ポストコロナ時代の医療人材養成 拠点形成事業

 令和4年度には本学は、文部科学省が公募した大学教育再生戦略推進費「ポストコロナ時代の医療人材養成 拠点形成事業」の全国11拠点のうち一つに、北海道東北地方から唯一選定された。本学の事業は「多職種連携とDX技術で融合した北東北が創出する地域医療教育コモ ンズ」と題し、本学医学部、秋田大学医学部で拠点を形成し、これに加えて弘前市内の医療系学部を有する弘前学院大学及び弘前医療福祉大学を協力校としているのが特徴である。4校が連携し、多職種連携教育を基盤とした総合的に患者・地域住民を診る資質・能力を持つ医療者教育により持続 可能な地域医療共同体を北東北に構築することを目的としている。秋田大学とは医学教育に特化した連携により、デジタルオンデマンド教材を開発し、将来的には両校での共有を計画している。また、5年生を対象とした遠隔シミュレーション教育のトライアルも開始している。
 本学内での本事業のキックオフとして医学部保健学科との連携を強化し、従来から医学科1年生に実施していた早期医療体験実習を、令和5年度から保健学科看護学専攻の学生と合同で実施することを開始し、医学生と看護学生が少人数チームとなり病棟実習を実施している。また、4年次には医学科の全学生と保健学科看護学生有志学生とによる医療安全チームビルドワークショップ、さらには医療系多職種連携合同演習と称し、本学と医学科と保健学科の学生に加えて、弘前学院大学及び弘前医療福祉大学の有志学生による小グループワークシップなどを実践している。
 本事業では早期からの地域防災・災害医療教育の実装のために、令和4年度に設置された災害・被ばく医療教育センターを中心とし教養教育に防災科学・災害医学等で構成される防災教育プログラムを構築し、本年の医学科1年次全学生が履修している。このプログラムの特徴は履修により「防災士」の受験資格が得られることにあり、5・6年次の青森県各地でクリニカルクラークシップ実習をした際に「防災」という観点で地域を捉え、地域防災のリーダーシップ教育の基盤形成の意義も備えている。

 本学は、これまで注力してきた地域医療教育の実践経験を基盤に新規事業により得られた新たなリソース、アイデア、繋がりを活かし、さまざまな垣根を柔軟に通り抜け、青森県の3大学さらには秋田大学とともに、地域医療教育実践共同体を形成して行きたいと考えている。

図1. ポストコロナ時代の医療人材養成「多職種連携とDX技術で融合した北東北が創出する地域医療教育コモ ンズ」の事業概要
図2. 3大学による医療系多職種連携合同演習の様子

関連リンク

・弘前大学医学部医学科卒業時コンピテンシー
 https://www.med.hirosaki-u.ac.jp/web/img/pdf/curriculum/competency.pdf

・弘前大学医学部医学科各学年のアウトカム
 https://www.med.hirosaki-u.ac.jp/web/img/pdf/curriculum/outcome2019.pdf

・弘前大学医学部医学科カリキュラムマップ
 https://www.med.hirosaki-u.ac.jp/web/img/pdf/curriculum/curriculum_map.pdf

・文部科学省「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」―多職種連携とDX技術で融合した北東北が創出する地域医療教育コモンズ―弘前大学大学院医学研究科附属地域基盤型医療人材育成センターホームページ
 https://www.cchpe-hirosaki-u.jp/system

・秋田大学大学院医学系研究科先進デジタル医学・医療教育学講座
 https://digital-medical-education.med.akita-u.ac.jp

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3年次の社会医学実習はとても魅力的に感じます。これは全学生必修、地域枠学生必修、希望制、いずれでしょうか?健診会場の数や関わる学生の人数、役割などについてご教示いただけますでしょうか?

3年次全学生必修の社会医学実習の一部として、岩木健康増進プロジェクト(大規模住民合同健診)への参加を行っています。検診は1会場で10日間行われ、学生は5グループに分かれての参加となります。実際には、各ブースでの検診業務の補助を行います。具体的には、担当者(測定者など)とチームを組んで、誘導、体位補助、危険防止、説明などを行っています。
 岩木健康増進プロジェクトの概要は、大学ホームページ https://coi.hirosaki-u.ac.jp/iwaki_pj/ をご覧ください。写真も掲載されており、大規模住民合同健診の様子が把握できます。

トライアルとして開始した5年次生の遠隔シミュレーション教育では、どのようなことをするのでしょうか?

秋田大学と連携し、秋田大学シミュレーションセンターと弘前大学とをテレビ会議システムを用いて接続し、弘前大学の5年次学生を対象に、架空症例提示および高機能シミュレーターを用いてシミュレーションを実施するものです。秋田大学シミュレーション室を救急外来や病棟に見立て、急変した症例(シミュレーター)について、弘前大学の5年次学生が、病歴やテレビ会議システム画面に表示されるモニター値から病態を評価し、診断推論を学ぶセッションです。1回の2時間セッションで2症例を取り扱いました。学生からは好評で、今後、教育プログラムとしての確立を検討しています。

6年次のクリニカルクラークシップ全体の期間をご教示ください。また、僻地医療実習以外のクリニカルクラークシップは、どのような実習(学内あるいは学外)を構築されておられるでしょうか?

5年次クリニカル・クラークシップ(臨床実習Ⅰ:44週)で全診療科をローテーションした後の6年次クリニカル・クラークシップ(臨床実習Ⅱ)は、28週で、4週間単位(7クール)の選択制ローテーションとなります。2023年度の実施期間は、3月20日~11月10日でした(7月31日~9月1日は実施せず)。7クールのうち、1クールはへき地医療機関(13医療施設)で実習を行います。残りの6クールについては、学内診療科と学外連携協力病院(20学外教育病院)の診療科の中から、学生が6診療科を選択し実習を行っています。このため、6年次学生は、かなりの期間(個々の学生で異なりますが、概ね半分程度)を、学外の医療機関で臨床実習を行っています。

医学生と看護学生による病棟実習は、どのような内容でしょうか?

医学科1年次132名早期体験実習と保健学科看護学専攻2年次80名基礎看護実習Ⅰを合同で行います。実習最初のオリエンテーション・関連部署の講義等(2日間)は、1つの講義室で行います。その後は4グループに分かれて、3日間の病院実習(14病棟)と1日のまとめカンファレンスを実施します。合計212名が4グループ/14病棟に分かれますので、各病棟に4名(ないし3名)の学生が配属となります。病棟配属の学生は、医学科と保健学科の混成となります。十分な時間を病棟で過ごすため、医学科・保健学科の学生間でのコミュニケーションもとても良くとれています。まとめカンファレンスでは、病棟実習での経験を踏まえ、各自の学びを学生全員が共有するための討議・グループ発表を行います。医療人としての共通の観点に加えて、医師・看護師独自の観点が議論の対象となることもあります。非常に実りある実習となっています。

正課の授業の履修により「防災士」の受験資格が得られることはとても魅力的なことと思います。差し支えなければ実際に受験した人数、試験に合格して防災士の資格を得られた人数などをご教示いただけますでしょうか?

防災士受験資格を得られるように、弘前大学の災害・被ばく医療教育センターと連携し、教養教育科目として2科目を設置しました。2科目のうち、「災害原理と防災」を前期に、「災害医療・情報」を後期に開講し、通年で履修することで、受験資格が得られるようになります。教養教育科目ですので、医学科の学生のみを必修とすることはできませんでしたが、教養教育ガイダンスなどで「医学科学生は履修推奨」との説明を行いました(医学科学生履修用に講義室を配置)。結果として、2023年度は113名全員が履修しています。今年度から開始しましたので、実際に防災士の資格を取得した学生はまだ出ていません。
 日本防災士機構のホームページ https://bousaisi.jp/license/ に、防災士資格の取得要件が記載されています。これに従って、2科目の講義内容を構築しますが、大学教員のみならず、県関連の方々なども講義を担当いただくことで、開講することができました。

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