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【東京大学】第11回 地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育

今回は東京大学での取り組みについてご紹介します。

文責:東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター 泉谷 昌志 講師
東京大学大学院医学系研究科臨床実習・教育支援室 堀田 晶子 助教
東京大学医学部附属病院総合研修センター 山田 奈美恵 助教

多職種連携教育

地域医療構想を効果的に運用するには、看護師をはじめ多くのメディカルスタッフと協働して患者の診療にあたることが必須であるといえる。本学においては、医学科進学後〜クリニカルクラークシップ前の学生を対象に、以下の授業を行っている。なおいずれも過去は対面で行われていたが、COVID-19流行以後はオンラインで行われている。
(1)2年生(秋) : 医学科進学内定者を対象に、本学の健康総合科学科、薬学部と合同で実施。過去数年は、以下の形式で行っている:授業時間内に医療ドラマの一部を視聴し、そこにおける医療従事者の振る舞いをテーマとして、自己省察・グループでのディスカッション・全体発表を行う。他学科の学生と一緒に授業を受けること自体が新鮮なようで、コミュニケーション面を中心に多くの学生がさまざまな刺激や気づきを得ているようである。
(2)4年生 : 本学に加えて、他大学(看護系および薬学系)と合同で実施している。学生を10名程度のグループに分け、血糖コントロール不良の外来の高齢糖尿病患者のシナリオを提示し、患者への対応についてグループ内でディスカッション、最後に幾つかのグループが全体発表を行っている。診断、治療、看護計画、薬剤指導など、より実践的かつ具体的な内容について、実際の診療現場さながらの活発な討議が行われている。

臨床実習における地域医療実習

本学のクリニカルクラークシップにおいては、以下に記す各診療科部での実習において、「地域医療構想」における4病床機能、および在宅医療を学生医が満遍なく学修するようにカリキュラムを作成している。東京は大都市圏でありながら特に近郊地域は高齢化の進行が著しく、必要とされる医療資源も近年大きく変化している。この状況に対応するため、本学においても地域医療実習の充実をはかり、常に実習内容のbrush upを行っている。
地域医療以外の各診療科部においては、附属病院において主に高度急性期・急性期を経験し、同時に回復期・慢性期施設、在宅医療との相互連携を通じて各病床機能の機能と役割を学修する仕組みを整えている。関連病院での実習においては、各関連病院の地域医療構想での位置づけに応じて、附属病院との連携、および各関連病院の持つ医療圏との連携を経験している。
地域医療実習は、コア診療科を中心とした1年次(医学科4-5年)のクリニカル・クラークシップを修了ののち、2年次(5-6年)のクリニカル・クラークシップにおいて学修する。在宅医療学講座が中心となり学習プログラムを設計し、在宅医療および外来診療を中心とした一次医療圏において実習を行っている。2週間の期間中、学生医は診療所、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等に配属される。外来診療への参加、訪問診療・訪問看護への同行等を行い、診療参加型実習を実施している。学生医は2週間の実地医療の経験を通じて学修したこと、およびこの学修内容に関して文献検索等の調査を通じ考察したことをまとめて、最終日に同じ日程で実習を行った学生医と指導教員にプレゼンテーションし、発表内容を共有・討論してさらに学修を深めている。
現在直面している大きな課題としては、2020年以来のCOVID-19蔓延のため、附属病院・関連病院・関連施設における診療参加型臨床実習に影響が及んでいることが挙げられる。本学では、必要十分な感染対策を実施し、関係者の理解を得る努力を継続し、学生医が診療参加型臨床実習を最大限実施し、可能な限り良質な学修を継続できるよう、尽力している。
今後、効率的な医療資源配分の観点から、地域医療においてもオンライン診療を含むICTの導入が急速に進むことが予想される。本学では多くの授業・実習にオンライン実習・授業を導入しているが、今後地域医療のICT化を視野に入れて、ICTを活用した診療参加型実習を開発・導入することも求められると考えている。

臨床研修における地域医療研修

東京大学医学部附属病院では研修医に対する地域医療研修は、2年間の研修のなかでも実際の地域医療を経験できる貴重な機会と考え、多彩な研修先に御協力を頂いて実施している。
2022年度はCOVID-19感染症の影響で研修医受け入れを見合わせる一部医療機関があったものの、東京都の診療所・二次救急病院研修、在宅医療研修及び、秋田県、新潟県、石川県、和歌山県、愛媛県、高知県、長崎県の僻地医療拠点病院研修を実施している。
当院研修医は現時点では地域枠の研修医はいないものの、将来のキャリアのなかで勤務地は東京都に限らずに勤務する可能性も少なくないが、研修期間の大部分は東京都内で過ごしている。地域医療構想には各地域の特色が反映されるため、地域医療研修は研修医本人が希望する場所でのそれぞれ特色ある地域医療の経験を積むことが各研修医の将来の進路でも役立つと考えられる。
地域医療研修においては、各地域特性に応じて求められる実務的な医学的能力並びに協働的な他職種連携の必要性を経験し理解することが重要であろう。今後も限られた期間のなかで有効に学ぶことができるよう、研修協力医療機関と共に双方向的な意見交換や方針の共有を推進することが大切であると考える。

質問 ※「+」をクリックすると詳細がご覧いただけます。

地域医療構想における4病床機能と在宅医療を学生が満遍なく学修できるようにしているとのことですが、回復期や慢性期の病床を経験する機会について教えてください。

回復期や慢性期の病床経験については、地域医療実習、もしくは、老年病科など他の診療科の学外施設での実習において経験しております。

地域医療のICT化を視野に入れたICTを活用した診療参加型実習の開発について、具体例がありましたらお教えください。

現時点では具体的にお示しできるものはございません。実装すべき重要な検討課題と認識しております。

これまでに他県の僻地医療拠点での研修の後、当該研修地域での専門研修を行ったという事例はあったでしょうか?

本学の調査でわかっている範囲では事例は確認できておりません。

多職種連携教育は、とても有意義だと考えます。かなりの回数を実施しないと単位化は難しいと思いますが、どのように工夫されているのでしょうか。

本学は2年生の秋に医学科進学者が内定し、その時点から医学科の授業が開始されるため、限られた時間で数多くの事を学ぶ必要に迫られております。
 そのため、多職種連携教育については単独の科目としては実施しておらず、2年生については「チュートリアル」、4年生については「臨床導入実習」という科目の一部として実施しております。
 回数としては必ずしも多いとは言えませんが、その分内容や運営について工夫をするようにし、多職種連携教育の重要性やポイントについて学生が修得できるよう留意しております。学生からは、印象的であったというコメントを得ています。

オンライン診療を含めてICTの活用に積極的に取り組んでおられます。どうしても見学型実習になりがちではないかと懸念されますが、どのように診療参加型実習を目指されるのかご教示ください。

担当の指導教員と相談し、単なる見学にならないよう、なるべく双方向性を持たせ、アクティブラーニングになるようにしております。オンラインのもと、実際の身体所見、画像所見、検査所見などから臨床推論や治療方針の立案を行う、などが主な内容となります。

4病床機能の相互連携の具体例(地域・高齢化率・医療資源等)を教えて下さい。

地域は、当院周辺の地区(23区内東部・北部など)が主な連携地域となります。高齢化率については、30%以上と推定しております。実習施設としては、診療所、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等にご協力いただいております。

「僻地医療拠点病院」における地域医療研修を行う研修医数(拠点毎)を教えて下さい。

2022年度の実績と予定を以下に示します。
 秋田県 男鹿みなと市民病院 3名
 新潟県 佐渡総合病院    2名
     新潟県立津川病院  6名
 石川県 珠洲市総合病院   2名
     輪島市立輪島病院  2名
     公立宇出津総合病院 2名
     公立穴水総合病院  6名
 高知県 大月病院      1名
 長崎県 青洲会病院     5名

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