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【福井大学】第32回 福井大学における地域医療構想を踏まえた医学教育

今回は福井大学での取り組みについてご紹介します。

文責:医学部長 藤枝 重治 教授

はじめに

 福井県は嶺北と嶺南とに分かれ、嶺北のそれも福井市およびその周辺に福井県の4大病院が集中し、福井市以外はすべて地域過疎地のような様相を呈している。福井県地域医療対策協議会においては、福井市以外のどこに医師を配置し、どの様な診療が可能な医師を育成するかに焦点が絞られている。

 具体的には、入学後の新入生オリエンテーションで、学生に少しでも福井を知ってもらい、少しでも福井に興味を抱き、少しでも福井を好きになってもらおうと、医学科と看護学科6人がグループとなり、公共交通機関を使って東尋坊などの観光地もしくは自分たちの行きたい場所を1日がかりで観光させる。朝8時に出発し17時に大学に戻り、6人全員で昼食を食べている写真を提出すれば合格としている。これまでの経験から地域医療教育には福井県を知る教育がまず第一歩と考えている。学生にはとても好評である。
 次に1年生秋には高浜町にバスで現場見学・体験に出かけ、地域プライマリケア講座と高浜町が地域の課題に無理なく取り組めるように作った「けっこう健康、高浜わいわいカフェ(健高カフェ)」で高浜町の地域住民(65歳以上)の方とよもやま話をさせている(図2)。

図2:医学科1年生の地域医療早期体験プログラム in 高浜

 コロナ禍が明けた昨年から行っているが、驚くことに65歳以上の人と会話をしたことがない学生がおり、最初は静かだが、住民と学生の数はほぼ1対1、しゃべりかけられるとそのうち楽しそうに会話ができている。さらに福井県にある仁愛大学との合同栄養学実習を行う。栄養学を学ぶ他学の学生と糖尿病食などを勉強し、実際に食事を作り、試食する。最初はとても静かだが、すぐに慣れてワイワイ議論し、料理を作っている。
 4年生には県内6か所の健康福祉センター(保健所)において7人グループでセンターの実際を見学し、地域医療における健康福祉センターの重要性を理解するとともにセンターの実務補助を行っている。
 5年生になると診療参加型臨床実習のプログラムで各地域の診療所で実習を行っている。班ごとに分かれ、13の診療所に、地域包括ケア実習として診療所の実際を体験している。また福井大学が指定管理者になっている永平寺町立在宅訪問診療所も診療参加型臨床実習のプログラムに完全に組み込み、1週間地域医療とりわけ慢性期医療と在宅医療についても学んでいる(図3)。

在宅医療を学ぶ
( 5年生 診療参加型臨床実習)

質問 ※「+」をクリックすると詳細がご覧いただけます。

「地域医療早期体験プログラム」、「地域医療学」、「社会と医学・医療」について、それぞれ必修科目だと思いますが、体験や実習は、各々どのくらいの時間行っているでしょうか。
時間数がどれくらいかが話題となりますので、お聞きするところです。

●「地域医療早期体験プログラム」は、医学科1年次生後期 必修科目で、次の実習を6日間で設定しています。
  ・仁愛大学での合同調理実習 ・・・ 2グループに分かれ日を変えて実施
  ・高浜町の地域医療現地見学 ・・・ 2グループに分かれ日を変えて実施 
●「社会と医学・医療Ⅰ」は、医学科3年次生後期 必修科目で、介護や福祉に関連する施設における実習を2日間で設定しています。
●「地域医療学実習」は、医学科3年次生前期 選択科目で、本学総合診療部を始め地域中核病院や診療所における実習を5日間で設定しています。※地域医療学(講義)は医学科2年次必修科目
●「社会と医学・医療Ⅱ」は、医学科4年次生前期 必修科目で、医師や公衆衛生従事者が勤務する県内の施設における実習を9日間で設定しています。

様々な学外実習での、交通費・宿泊費などの費用については、どのように運営されているのでしょうか。

●「地域医療早期体験プログラム」については、バス代を厚生労働省「総合的な診療能力を持つ医師養成の推進事業」補助金で支出しています。なお、仁愛大学での合同調理実習については、食材とガウンも支出しています。
●「地域医療学実習」については、各自で移動(宿泊なし)となり大学負担はしていません。
●「社会と医学・医療Ⅰ」については、班ごとに実習先へ直行(宿泊なし)となり大学負担はしていません。
●「社会と医学・医療Ⅱ」 については、1人3,500円以内は自己負担とし、それを超える分は大学で補助しています。
●その他、「地域包括ケア実習」(※実施診療参加型臨床実習Ⅰの一部として実施)での実習として以下を実施し、厚生労働省「総合的な診療能力を持つ医師養成の推進事業」補助金でバス代を支出しています。
(1)医学科5年次生が12機関×2日程のグループに分かれ、厚労省補助金事業の協力医療機関の病院、診療所等を見学し、現場の様子を体験
(2)福井医療大学での合同実習 ・・・ 医学科5年次生が2グループに分かれ日を変えて実施

この実習期間はどのくらいでしょうか。

回答1と同じとなります。

数日間通うことで地域医療での、その重要性、多様な業務を理解させるようなカリキュラムなのでしょうか。

本学医学部の特色あるカリキュラムとして「地域医療」を設定しています。本学医学部のミッション「強みや特色などの役割」において、「今後のさらなる高齢化等の社会状況の変化、ER 型救急への取組実績、また原子力関連施設が数多く存在する福井県の地域事情等を踏まえ、救急医療に強い総合医、緊急被ばく医療人材の養成など、地域社会のニーズに対応した優れた指導的医療人を育成するシステムを構築する。」と定義されています。
地域とくに福井県の医療事情を踏まえた地域医療を学ぶ科目を、学年を超えて学ぶことができるようにカリキュラムの中に配置しています。(アウトカム3 医療人としての地域性・国際性、コンピテンシー(7)、(8))

感想

入学後の「新入生オリエンテーション」はユニークですね。先生方の思い入れが強く伝わります。また、他大学との交流も参考になるところです。

入学後のオリエンテーション時の取り組みなどを通じて、6年間の継続的な地域医療教育、多職種協働教育を実践されていること、素晴らしいと感じました。
4年時の健康福祉センター(保健所)での見学実習も重要と感じました。

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