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【佐賀大学】第3回 地域医療の未来を担う全ての医師の総合力の強化:シームレスな生涯学修を実現する「佐賀モデル」の展開

今回は佐賀大学での取り組みについてご紹介します。

文責:佐賀大学医学部附属病院 総合診療部 多胡 雅毅 教授

1. 総合的診療能力を「全ての医師の土台」とする戦略的転換

地域医療を支える医師の高齢化が進み、一方では総合診療の重要性が増す中で、リカレント教育を含めた医師の総合的診療能力に関する生涯学修の重要性が高まっている。国立大学医学部には、医師として持つべき生涯教育の姿勢を医学生に十分に示す必要があり、学部教育、臨床研修、生涯研修でのシームレスなキャリア形成が、医学教育分野別評価の審査項目にも含まれている。
佐賀大学では、この生涯学修の課題に対し、戦略的転換を図っている。すなわち、総合的診療能力を総合診療医のみならず、全ての医師が持つべき土台となる必須基盤として再定義し、その上に専門性を積み上げる「二層構造」の教育モデルを推進している。この理念に基づき、佐賀モデルの三本柱を掲げ、全県的な体制整備を進めている。
(1) 学部・臨床研修段階での基盤形成を強固にする。
(2) 専門医の総合的診療能力のリカレント教育体制を確立する。
(3) 大学を中心とした全県的総合診療・教育連携体制を構築する。

2. 佐賀大学医学部附属病院 総合診療部のリーダーシップ

佐賀大学医学部附属病院 総合診療部は創立40年の歴史を持ち、多数の同門の医師が県内の医療機関で管理職として重要な役割を担い、県内に強固な総合診療ネットワークを築いている。
佐賀大学医学部附属病院 総合診療部は、診断と全身管理などの確かな診療スキルに基づき、社会的困難事例、重症、コンサルテーション、ICUを含む三次救急まで対応する「断らない」マインドセットを重視している。また歴史的に病院運営に積極的かつ主体的にコミットしており、これが学内・地域での信頼につながり、教育改革の基盤となっている。佐賀大学医学部の教育体制においては、総合診療部の同門の医師がカリキュラム、臨床実習ならびに地域医療実習、臨床研修、全専門研修の責任者として教育運営を牽引している。これにより、卒前から卒後、専門研修教育まで、総合診療部の関係者が各診療科と協力しながら一貫性のある教育体制を構築しているのが佐賀大学医学部の特徴である。この体制は、地域全体の利益を見据えたリソースの戦略的配置と教育の質管理を可能にし、地域の病院の総合診療教育に対する理解を促進し、教育の質を担保している。

3. 地域総合診療センター:医学教育への貢献とリカレント教育の拠点として可能性

佐賀大学医学部附属病院は、この佐賀モデルを実現するために県内の各医療圏の病院に地域総合診療センターを大学病院の附属施設として設置し、総合診療部から指導医と専攻医を常勤として派遣している。さらに大学の教員が地域総合診療センターを定期的に訪問して指導することで、診療と教育の質を高めている。さらに各センターは総合診療部の臨床研究のフィールドとしても活用されている。これらのセンターは、医学生に対する地域医療教育と総合診療医に対する教育で重要な役割を担っている。
さらに地域総合診療センターには、専門医の総合診療リカレント教育の拠点としての機能が見込まれる。専門研修の修了後、専門領域に加えて総合的診療能力を必要とする医師は非常に多く、地域で開業・承継する専門医の多くは、総合的診療能力を再学修し維持する必要がある。地域総合診療センターは、その際の能力の修得(再学修)と人脈の形成(ネットワーク)をサポートできる。佐賀大学医学部附属病院 総合診療部が中心となって拡大してきた地域医療ネットワークは、佐賀県全体の地域医療と利益を俯瞰したビジョンに基づき維持されている。この強固な信頼関係により、地域総合診療センターでは紹介と相談を多数引き受け、救急、コンサルテーション、診断困難などの多様な症例に対応している。そして紹介元の地域の医師は、紹介のしやすさ、コミュニケーションの取りやすさ、質の高い適切なフィードバックなどの多大な恩恵を享受している。このように地域総合診療センターは、医学生、研修医、専攻医への教育のみならず、すでにリカレント教育にも大きく貢献している。今後はセンターの機能を活用し、リカレント教育と承継・開業の支援までを縦横にカバーするような、直接的なリカレント教育プログラムの展開も検討している。

4. 結語

佐賀大学医学部は総合的診療能力を全医師の基盤とする戦略的転換を行い、大学総合診療部が各診療科と連携して県でリーダーシップを発揮し、地域医療教育体制を充実させている。リカレント教育を含む医師の生涯学修の連続性を強化することで、全ての医師の総合的診療能力を平準化・底上げし、地域医療の質を担保し、地域社会貢献を深めたいと考えている。

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