*第37回*  (R6.11.1 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は島根大学での取り組みについてご紹介します。

フィールドを活かし島根大学をセントラルハブとしてオールしまねで取り組む医学教育
文責 :

島根大学医学部地域医療支援学講座

佐野 千晶 教授

はじめに

 島根大学医学部は、『医の扉』と『医の炎』を2020年に再定義して理念として掲げています。 この理念の1つに、「住民の声に耳を傾け、地域と世界にある課題を学び、社会に開かれ、時代に応じたより良い教育・研究・診療を提供できる、柔軟な医学部を創る」とし、「地域と世界を見つめる」医学部として医学教育に取り組んでいます。島根大学医学部は、県内唯一の医学部ならびに大学病院として地域で活躍出来る医療人を養成や地域医療に必要な医療人の県内派遣への役割を期待されています。

島根県の地域医療の課題

 島根県は多くの過疎地と離島の隠岐諸島を有しています。また、日本海沿岸に沿って東西に長く県面積が広く、県東部に医師数が集中しているといった医師等の地域偏在が大きな課題です。島根県は人口10万人対医師数が327.2人(2022年データ)で47都道府県中で中ほどですが、県庁所在地である松江と医学部のある出雲といった圏域以外での医師不足がみられます。加えて、島根県は全国に先んじて高齢化が進展し人口減少が著しく、住民のみならず医療人の高齢化が課題となっています。特に地域の診療所の閉院などに伴って、中山間地などの過疎地でのプライマリケアの担い手不足が深刻です。

島根大学医学部の地域医療教育プログラム

 島根大学医学部では、県内30か所以上の多くの関連機関に地域医療実習協力の連携がなされています。医学生の長期休暇を 利用した春季夏季地域医療実習では、各二次医療圏の保健所にプログラム企画をお願いし、圏域の医療の実態が見渡せるコンテンツになっています。本医学部だけでなく、他府県の医学生も含め年間延べ約50名の医学生の参加があります。また、フレキシブル実習と称して、「医学生のやりたい、学びたい!」を叶えるべく特定の医療機関や診療科で医学生に実習計画書を作成させ、具体的な実習をコーディネートしています。診療所外来実習や救急当直の経験、地域のお祭りの医療ブースなど多岐に亘る医学生の希望をコーディネートしています。
 また、正課で特記すべきは、5年生の必須臨床実習における総合診療・地域医療クリニカルクラークシップ 4週間連続プログラムを5年生全員に行っています。このプロブラムで地域に国内地域留学のような経験をすると、現場での真の参加型実習を経験することにより医学生が着実なプライマリケアの実践力を身に着けることが出来ることを実感しています。
 今後はマイルストーンを意識して低学年から段階的に地域医療の魅力に触れる、スキルアップが出来る教育プログラムの改変が必要と考えています。具体的にはPBLの活用、DX・情報リテラシー教育、多職種連携教育、コミュニケーション教育の充実などを行う必要があると考えています。

※上の画像をクリックすると拡大した参考資料をご覧いただく事ができます

オールしまねで取り組む地域医療人材育成

 図のような島根県内の多組織が密な連携を図り地域医療人の育成を行っています。島根大学医学部内に設置されている一般社団法人しまね地域医療支援センターの若手医師キャリア支援は島根県の若手医師の県内定着に大きく貢献しています。各々の若手医師に対して、地域貢献といった義務・キャリア形成・ライフイベントといった3方向を配慮し、面談などを介して本人の意思を尊重しつつ関係機関各所との調整を行っています。2022年より地域枠等制度開始の1期生らが県内従事義務期間を完了する段階に入ってきました。 へき地医療に義務を完了し島根の医療に貢献する意志が更に活躍できるような支援や企画を模索しています。
 また、総合診療医センターにおいて地域中核病院から総合診療指導医が実際に本医学部へ定期的に足を運んでもらい、医学生に直接、学習や演習を提供してもらっています。特に演習実践がメインの高度総診実践プログラムが好評で、メキメキと基本的診療スキルを極める医学生が少なくありません。

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ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業への参画

 本医学部は岡山大学を主幹校として、鳥取大学、香川大学との4大学で“多様な山・里・海を巡り個別最適に学ぶ「多地域共創型」医学教育拠点の構築”を目指しています。他大学医学部の強みや教育プログラムから学ぶことも多く、現役医学生が求める医学教育を組織や大学の壁を越えて展開したいと思います。島根大学は多共創地域医療実習コースや総合診療マスターコースを中心に担当し、本学のみならず他3大学の医学生さんにも島根で実習を行ってもらうしくみがほぼ整いつつあります。

おわりに

 人類が初めて対峙するダウンサイジング社会に適応出来る医療人、VUCA時代(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)といわれる先が読めない時代の医師に必要なスキルは何かなど地域医療のあり方について継続的に関係者と話し合いを重ねながら、多組織でスクラム連携をはかり、地域の医療資源は益々シュリンクしていくという厳しい現実問題はありますが、医療の質向上、人材確保に努めていきたいと思います。