多職種連携教育
地域医療構想を効果的に運用するには、看護師をはじめ多くのメディカルスタッフと協働して患者の診療にあたることが必須であるといえる。本学においては、医学科進学後〜クリニカルクラークシップ前の学生を対象に、以下の授業を行っている。なおいずれも過去は対面で行われていたが、COVID-19流行以後はオンラインで行われている。
(1)2年生(秋) : 医学科進学内定者を対象に、本学の健康総合科学科、薬学部と合同で実施。過去数年は、以下の形式で行っている:授業時間内に医療ドラマの一部を視聴し、そこにおける医療従事者の振る舞いをテーマとして、自己省察・グループでのディスカッション・全体発表を行う。他学科の学生と一緒に授業を受けること自体が新鮮なようで、コミュニケーション面を中心に多くの学生がさまざまな刺激や気づきを得ているようである。
(2)4年生 : 本学に加えて、他大学(看護系および薬学系)と合同で実施している。学生を10名程度のグループに分け、血糖コントロール不良の外来の高齢糖尿病患者のシナリオを提示し、患者への対応についてグループ内でディスカッション、最後に幾つかのグループが全体発表を行っている。診断、治療、看護計画、薬剤指導など、より実践的かつ具体的な内容について、実際の診療現場さながらの活発な討議が行われている。
臨床実習における地域医療実習
本学のクリニカルクラークシップにおいては、以下に記す各診療科部での実習において、「地域医療構想」における4病床機能、および在宅医療を学生医が満遍なく学修するようにカリキュラムを作成している。東京は大都市圏でありながら特に近郊地域は高齢化の進行が著しく、必要とされる医療資源も近年大きく変化している。この状況に対応するため、本学においても地域医療実習の充実をはかり、常に実習内容のbrush
upを行っている。
地域医療以外の各診療科部においては、附属病院において主に高度急性期・急性期を経験し、同時に回復期・慢性期施設、在宅医療との相互連携を通じて各病床機能の機能と役割を学修する仕組みを整えている。関連病院での実習においては、各関連病院の地域医療構想での位置づけに応じて、附属病院との連携、および各関連病院の持つ医療圏との連携を経験している。
地域医療実習は、コア診療科を中心とした1年次(医学科4-5年)のクリニカル・クラークシップを修了ののち、2年次(5-6年)のクリニカル・クラークシップにおいて学修する。在宅医療学講座が中心となり学習プログラムを設計し、在宅医療および外来診療を中心とした一次医療圏において実習を行っている。2週間の期間中、学生医は診療所、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所等に配属される。外来診療への参加、訪問診療・訪問看護への同行等を行い、診療参加型実習を実施している。学生医は2週間の実地医療の経験を通じて学修したこと、およびこの学修内容に関して文献検索等の調査を通じ考察したことをまとめて、最終日に同じ日程で実習を行った学生医と指導教員にプレゼンテーションし、発表内容を共有・討論してさらに学修を深めている。
現在直面している大きな課題としては、2020年以来のCOVID-19蔓延のため、附属病院・関連病院・関連施設における診療参加型臨床実習に影響が及んでいることが挙げられる。本学では、必要十分な感染対策を実施し、関係者の理解を得る努力を継続し、学生医が診療参加型臨床実習を最大限実施し、可能な限り良質な学修を継続できるよう、尽力している。
今後、効率的な医療資源配分の観点から、地域医療においてもオンライン診療を含むICTの導入が急速に進むことが予想される。本学では多くの授業・実習にオンライン実習・授業を導入しているが、今後地域医療のICT化を視野に入れて、ICTを活用した診療参加型実習を開発・導入することも求められると考えている。
臨床研修における地域医療研修
東京大学医学部附属病院では研修医に対する地域医療研修は、2年間の研修のなかでも実際の地域医療を経験できる貴重な機会と考え、多彩な研修先に御協力を頂いて実施している。
2022年度はCOVID-19感染症の影響で研修医受け入れを見合わせる一部医療機関があったものの、東京都の診療所・二次救急病院研修、在宅医療研修及び、秋田県、新潟県、石川県、和歌山県、愛媛県、高知県、長崎県の僻地医療拠点病院研修を実施している。
当院研修医は現時点では地域枠の研修医はいないものの、将来のキャリアのなかで勤務地は東京都に限らずに勤務する可能性も少なくないが、研修期間の大部分は東京都内で過ごしている。地域医療構想には各地域の特色が反映されるため、地域医療研修は研修医本人が希望する場所でのそれぞれ特色ある地域医療の経験を積むことが各研修医の将来の進路でも役立つと考えられる。
地域医療研修においては、各地域特性に応じて求められる実務的な医学的能力並びに協働的な他職種連携の必要性を経験し理解することが重要であろう。今後も限られた期間のなかで有効に学ぶことができるよう、研修協力医療機関と共に双方向的な意見交換や方針の共有を推進することが大切であると考える。
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