*第10回*  (R4.7.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は京都大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育
文責 :  京都大学医学部
 医学教育・国際化推進センター
岩井 一宏 医学部長/医学教育・国際化推進センター長
山本  憲 講師
種村 文孝 助教 

 地域医療構想は都道府県を中心に構想が練られており、京都大学医学部が所在している京都府には府が設置母体である京都府立医科大学がある。そのため、京都大学と京都府立医科大学が協力して府とともに京都府の地域医療を推進する状況であり、1県に1医科大学あるいは医学部である大学とは地域医療に対する取り組み方は異なる。
 京都府地域包括ケア構想(地域医療ビジョン)は平成29年3月に策定された。超高齢社会を迎え、慢性的な疾患を抱える高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに地域包括ケアシステムを推進することを通じ、地域における医療及び介護の総合的な確保を図るものである。

 主な取り組みとしては、①地域包括ケアシステムの推進②病床の役割強化及び連携の促進③医療・介護・福祉人材の確保・育成がある。これらのうち、特に③医療人材の確保育成の取り組みでは、京都府地域医療支援センター(KMCC)と本学および京都府立医科大学、府内の病院、医療関係団体と連携し、オール京都体制で、医師のキャリア形成支援や医師確保等、総合的な医師確保対策の取り組みを充実・強化している。
 また、今般の新型コロナウイルス感染症のパンデミックが大きな契機の1つとなり、京都府立医科大学、京都府医師会と連携し京都府内の基幹病院群とも連携して、京都府の新型コロナウイルス感染症対策に取り組んで成果を挙げている。また京都大学医学部は創立以来、西日本を中心に広いエリアの地域医療にも貢献してきた。それらを踏まえて、医学部附属病院では、地域医療機関との連携を深める取り組みを推進している。

1.医学部附属病院における地域医療機関との連携の取り組み
 京都大学医学部附属病院では2000年に地域ネットワーク医療部を設置した。その後2004年に地域医療連携室が発足し、地域ネットワーク医療部の一部門となった。これらの部門では主に、前方支援としての患者紹介予約を地域医療連携室が担当し、後方支援としての退院支援を地域ネットワーク医療部が担当することで、近隣医療機関との連携を深めている。すなわち、京都大学医学部附属病院は大学病院としての高度先進医療を担いつつ、基幹病院として地域医療への貢献を果たすべく、子供から高齢者まで幅広い患者さんやご家族を対象として前方・後方の両支援体制の充実を行っている。
 また、地域医療機関との連携の取り組みの一つとして、各種講演会を開催している。とりわけ近年では京都府医師会・京都府立医科大学と講演会を共同開催することが増えてきており、令和4年5月に緩和ケアの現状と展望をテーマとして京都地域連携医療の会を行うなど、京都府医師会、京都府立医科大学とも良好な関係の元に連携を深めている。新型コロナウイルス感染症禍では、地域医療機関との連携を行う目的で、医師や職員が地域医療機関を訪問するキャラバン活動を対面とWeb会議システムを用いて行っている。また、地域医療関係機関との間で、患者家族を交えた退院前カンファレンス、密接な連携を継続している地域医療機関との定期カンファレンスも実施しており、京都大学医学部としても地域医療に貢献すべく各種取り組みを推進している。

2.卒前教育
 卒前教育でも医学部入学直後から地域医療への貢献を意識させるべく教育プログラムを準備している。京都大学には医学部医学科だけではなく、看護師、理学療法士、作業療法士を育成する医学部人間健康科学科、薬学部がある。その2学部3学科の1回生を対象に、合同で実施している早期体験実習では、全国42病院のご協力を得て、学生は8~9月の1週間、様々な地域医療の現場で見学・体験型の実習を行っている。この実習では医療者の仕事理解、医療における多職種連携の理解、患者の視点の理解に加え、医療従事者が地域で果たすべき役割を他職種を目指す学生とともに考えることを目的としている。実習終了後には、教員を交えた事後ワークショップで、各自が実習先の現場で経験したことや学んだことを他の学生と共有し、自分が目指す医療者像を明確にし、チーム医療について深める機会としてきた。2020年度以降は、新型コロナウイルス感染症のために、地域医療の現場に赴くことは出来ていないが、地域医療現場の動画視聴による学習と、Zoomを用いた現場の医師との対話を中心に実習を行っている。各地に点在する18病院から合計42本の学習用動画を提供いただき、医師、看護師、薬剤師などの各医療職の仕事や病院の現場の様子を学生は学べる状況である。さらに、疑問点や各自の興味関心に沿って深めたいことについて、Zoomで色々な地域の12病院の医師や看護師の方々に質問できる機会を設けており、素朴な疑問を含め多くの意見交換が行われている。動画とZoomでの対話を通して様々な地域医療の現場について学べたと、多くの学生が指摘している。一方で、実際に病院を訪れて実習をしたかったという意見も多い。今後は、これらの医療現場からの動画を事前学習として活用しつつ、医療現場を訪れての実習の再開をしていくことが課題である。
 医学科4年次1月から6年次10月にかけて74週間の臨床実習が行われている。その中で、5年次に2週間の「地域医療・総合診療」の期間がある。本実習は2014年に医学教育・国際化推進センターが主体となり、大学の総合診療医と地域医療機関の総合診療医とが連携をすることで構築したものである。現在、全国から17病院の協力を得ている。初診の患者に対して病歴・身体所見を重視しながら臨床推論を行えること、地域で暮らす患者と医療との長期的な関係性について深めること、保健・医療・福祉・介護などの制度や実態も含めた地域医療システムや連携について理解することなどを深める実習となっている。病院・診療所によって実習内容は様々であり、訪問診療や退院カンファに関して印象に残ったという学生の意見が多い。病気を治療して終わり、寛解したら終わりというわけではなく、再発しないようにどうするか、慢性疾患と向き合いながらどのように生活していくのかという視点に関して考える機会になっている。医療機関ごとの役割の違い、地域医療をいかに連携しながら実現しているか、どのような制度のもとで実際の医療が行われているかも理解を深めることができている。実習先の病院・診療所とは、毎年実習に関する振り返りを行い、学生がどのようなことを学んだか、他の実習先でどのような工夫をしているかを指導医と医学教育・国際化推進センターの教員で情報共有しながら、改善に努めている。
 その他、卒前の地域医療教育として、4年次1月の臨床実習入門コースにおいて、地域医療と医師会の役割に関する講義を地域医師会(京都府医師会)の医師会長に行っていただいている。また、5年次1月の臨床実習中間レビューの期間に、シネメデュケーションを通して地域医療について考える機会や、振り返りの機会を設け、地域医療の課題とやりがいなどを深めるようにしている。