*第9回*  (H30.12.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は山口大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における山口大学医学部と地域医療機関との連携
文責 :  山口大学
 山口大学
 山口大学医学部附属病院
谷澤 幸生 医学部長
白澤 文吾 医学部附属医学教育センター長
松山 豪泰 医療人育成センター長

【背景】
 山口大学医学部医学科は、前身である山口県立医学専門学校から数えて既に70年余りの歴史を有し、多くの医師を県内、国内ひいては海外に送り出してきた。一方で、昨今の地域医療を担う若手医師の減少と医師の高齢化(2016年度統計:平均年齢53.2歳で全国一位)(図1参照)は山口県においても喫緊の課題の1つであり、地域に根ざした人材育成のための卒前卒後教育を通じた取り組みを続けている。

 
 図1 医師数の推移(出典:やまぐちドクターネット)

【卒前教育】
 入学者選抜にあたっては、地域枠(県内出身者・県内高校卒業者で、卒業後も県内の医療機関等で医療の発展に貢献する強い意志のある者)を引き続き確保しており、入学後の教育でも、ディプロマ・ポリシーの1つとして「地域・国際対応力」を掲げ、地域の医療機関や山口県医師会・近隣医師会の協力のもと、地域における健康の増進と疾病の予防・治癒に貢献できる基本的な考え方を学ぶ機会を1年次から6年次までを網羅し、継続的に提供するカリキュラムを整備している。
 内容としては、1年生の「医学入門」では、入学後間もない段階でearly exposureとしての「高齢者施設体験実習」を行い、地域の老人保健施設等で介護・高齢者医療の体験を通じて医学生としての自覚、全人的医療の視点を育んでいる。
 3年生の「社会医学課題実習」では、学生が地域医療を担う診療所・病院で、医療・保険・福祉・介護等についての実習体験を行っている。そして、4年生後半開始の「臨床実習1」で、各診療科を2週間ローテートする中で、それぞれ1~2日程度は附属病院以外の地域医療機関での実習を設けており、地域医療や診療連携等を体験している。
 6年生では診療参加型臨床実習の一環として「地域医療実習」を行っている。これは、附属病院近郊や中山間地域の約80のクリニック・病院等で、より地域に密着したプライマリ・ケアや保健医療活動を1週間経験するもので、多数の関連施設の協力で実現している。実習の充実化や学生の形成的評価の推進のため、協力施設担当者を対象とした講習会を毎年開催しており、連携して地域医療教育に取り組んでいる。各施設指導医の熱意と患者、コ・メディカルの理解と協力により支えられ、本実習に対する学生の満足度は高く、地域志向を含めたキャリア形成の糧になると期待される(図2,3参照)。

図2 地域医療実習の施設分布

 
図3 過去5年間の地域医療実習における学生アンケート結果

 また、山口県医師会との協働で、臨床実習前の1~3年生を対象に、希望する県内医療機関における短期見学実習を定期的に実施している。さらに女子医学生を対象とした「インターンシップ」を、女性医師が勤務している県内医療機関(医院・クリニックを含む)において実施しており、見学実習や先輩女性医師によるキャリア・コーチングが行われている。

【卒後教育・研修】
 卒後医学教育においても多数の地域医療機関と連携し、地域医療教育に取り組んでいる。
 研修医に対する「地域医療研修」については、山口大学医学部附属病院医療人育成センターにおいて本院の臨床研修プログラムを管理・統括するほか、山口県から委託を受けて本院内に設置された「山口県地域医療支援センター」、県内の地域医療機関と連携し、研修医に対して研修プログラムを提供している。
 プログラムとしては、山口大学医学部附属病院卒後臨床研修プログラムの地域医療研修(大学コース)と山口県地域医療研修(県コース)を2つ運用している。大学コースは本院の研修医が対象で、大学近隣の都市型の地域医療施設や県内の医療過疎地域の施設の他に、県外のへき地・離島等、幅広い医療現場で研修できる体制を整備している。一方、県コースは山口県内の臨床研修病院に在籍する全ての研修医を対象とする研修プログラムで、県内の医療過疎地域5区域に各々1~2の研修コースを設置し、各地域の病院、診療所等、複数の医療機関により研修体制を構築している。臨床研修病院との研修医の受け入れ調整や、研修施設との研修計画の調整については、5区域各コースに設置した事務局にて行っており、コース全体の統括は大学が行っている。大学教員が研修方略の立案や研修体制の構築に深く関わり、平成23年度にスタートした県コースは、経年とともに各事務局内でプログラムの充実を図り、毎年20~30名の申込みを受けるほど着実に実績を上げている。コースを統括する大学では、数年に一度地域医療協力施設が集まり地域医療研修の在り方を検討する場も設定し、研修内容のブラッシュアップと各施設間の情報共有も進めている。また、大学教員が随時協力施設を訪問し、研修内容の把握や研修医の研修状況確認を行い、連携強化に努めている。
 加えて、山口大学医学部附属病院医療人育成センターでは山口県医師修学資金貸与者のキャリア形成にも関わっている。地域医療への従事を義務付けられた若手医師には、県内医療機関や医療過疎地域における勤務と自身のキャリア形成との両立に不安を感じる者も少なくない。学内各診療科や地域医療機関だけでなく県行政とも常に連携し、年数回のセミナーを開催するなど若手医師が地域医療で研鑽を積みながら活躍できる場を形成するように取り組んでいる。
 さらに、本院では学生ニーズの高い「プライマリ・ケア」や「一次・二次救急症例」に対応した研修の充実化のために、近隣協力病院と連携しサテライト教育施設「臨床教育センター」を設置し運営している。センターには大学所属の指導経験豊富で教育力の高い指導医が常時在籍し、大学同様の非常に充実した学習環境下で研修医や学生が研修や臨床実習に精励できる教育体制を完備しており、人間性豊かで幅広い診療能力を備えた医師を育成している。

【現状と展望】
 このように、山口大学では、県行政や山口県医師会・近隣医師会の協力と支援を受けて、将来の県内の地域医療を担う医師の育成に努めている。また、そのためには医学生の教育にあたる大学病院・医学科および近隣医療機関の指導医の確保と支援もまた不可欠なものであり、教員側の労力と時間、必要経費等について十分に斟酌したサポートの強化が望まれる。さらに、近年の新・専門医制度開始における専攻医の動向も注視するとともに、より充実した専門医研修プログラムの策定など、若手医師の積極的な受け入れと活躍の場の提供を行っていく必要がある。今後も県内唯一の医育機関としての理念と目標を果たすべく、地域の医療機関や関係各所と連携して、学生および教員の育成・支援を推進していきたい。