*第7回*  (H30.10.29 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は神戸大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における神戸大学と地域医療機関との連携
文責 :  神戸大学
 神戸大学医学部附属病院総合臨床教育センター
的崎  尚 医学部長
河野 誠司 特命教授

はじめに
 神戸大学は、「真摯・自由・協同」の精神のもと、「学理と実際の調和」を理念とする10学部を有する総合大学です。その中で医学部・医学研究科は、ミッション再定義にて、「兵庫県と連携し、県内の地域医療を担う医師等、医療人材の確保及びキャリア形成を一体的に支援し、兵庫県の地域医療再生に貢献する。」、「特定機能病院、地域がん診療連携拠点病院、地域災害拠点病院、地域周産期母子医療センター等としての取組を通じて、兵庫県における地域医療の中核的役割を担うとともに、先進医療、特に低侵襲医療の研究・開発を推進する。」と規定しています。兵庫県は、京阪神地域の西の一角をなし、県全体としてみれば人口約550万人の瀬戸内海と日本海の両方に面する特徴のある県です。瀬戸内海沿岸には阪神・播磨の工業地帯を中心に人口が密集し、一方で日本海側の但馬地方の豊岡市では人口約8万人が東京都とほぼ匹敵する面積に住むなど県の北部は人口密度の低い地域となっており、日本の縮図ともいわれます。神戸大学は、この多様性に富む兵庫県に位置しているため、それぞれの地域固有の健康・医療ニーズがあるとともに、見方を変えれば多種多様な医学教育のリソースに恵まれているともいえます。神戸大学医学部医学科は、兵庫県との密接な連携関係のもと、地域の特色を生かした医学教育に取り組んでいます。

卒前教育の取り組み
 地域包括システムを体験し、実践的に身につけてもらうため、本医学科は、兵庫県の協力の下に、県内医療関連施設の実習を積極的に取り入れています。地域医療教育活性化を目的として、平成26年度に兵庫県の協力を得て地域医療活性化センターが設置され、地域医療教育学部門が大学の教育部門として創設されました。地域医療学部門は、地域医療教育についてヘッドクオーターとして次々と新しい教育プログラムを立ち上げてきました。従来、医学生全員を対象として、IPW教育の一環として、関連病院において「初期体験臨床実習」(1週間)でチーム医療の現場を見てもらいましたが、2年次に「早期臨床実習1」として、老人保健施設・特別養護老人ホームでの実習(1週間)を通して介護の現場を、3年次に「早期臨床実習2」として特別支援学校での実習(1週間)を通して福祉の現場を、4年次のCBT/OSCE合格後に「地域社会医学実習」として、在宅支援ステーションを基点とした在宅ケアの実習(2週間)を実施しています。3年次の公衆衛生実習での保健所実習(1週)を加えると、医療・福祉・介護・保健のそれぞれの現場を早期から体験することによって、地域包括ケアの全体像をよく理解し、現代地域社会の医師の役割について認識してもらいつつ医学を学ぶカリキュラムを意図しています。早期臨床実習1・2や地域社会医学実習は、平成26年度入学生から、兵庫県の協力で順次スムーズに導入することができ、円滑に運営されています。
 平成30年度からは、診療参加型実習の充実・期間確保を目的として、5年次に、学内ベッドサイドラーニングのローテーション終了後、「関連病院実習」として、神戸大学附属病院たすきがけプログラム(1年次たすきがけ病院、2年次大学病院で研修)の協力病院を実習先として、基本的診療能力の向上とコモンな疾患の経験を積んでもらうために内科・外科の臨床実習(平成30年は内科4週間、平成31年以降は内科/外科で8週間)を組み込んでいます。この実習では、学生と研修医の両方の教育に携わるため卒前・卒後を指導医が見渡すことができる利点も大きいため、関連病院指導医を対象としたFDを開催して、診療参加型実習・屋根瓦式教育の充実への理解と協力をいただく努力をしています。関連病院実習では、実習先が広域のため、学生に金銭面での負担が大きいのが悩みの種です。交通費の支給はしていませんが、たすきがけプログラムの病院を対象にしているお蔭か、遠隔地の病院については、宿舎を提供していただいて学生の便宜を図っています。

 (神戸大学医学部のearly exposureの概要)

卒後教育の取り組み
 卒後教育への取り組みとしては、地域医療活性化センターの活動、地域医療教育センターの活動、各種寄附講座を通じた地域医療への診療支援と教育活動などを活発に行っています。地域医療活性化センターでは、CVCなどの臨床基本技術の講習会、ICLS、ISLS、小児・産婦の救急講習会など若手地域医師を対象とした各種救急シミュレーション講習会、各外科領域のブタを使った内視鏡手術講習会などを含む多様な講習会を開催して、兵庫県内の病院勤務の若手医師のスキルアップのサポートを行っています。また、神戸大学は兵庫県健康福祉部や病院局と人事交流を行い(地域医療担当教授2名が、県の参事を併任)、県と一体となって兵庫県内の県養成医の卒後教育に取り組んでいるのが特徴で、県養成医のキャリアガイダンスや専門医プログラム選択へのサポートを行っています。また、県立柏原病院に地域医療教育センター(大学組織には、地域医療支援部門を設置)を設置し、兵庫県養成医の支援の拠点としており、県内のへき地拠点病院とのテレカンファレンスを頻繁に行い、症例やトピックスを題材に県養成医同志の活発な交流を図るほか、論文執筆支援をするなど学術的にもサポートしています。

(地域医療活性化センターの構成組織)

 県立柏原病院支援を目的として、兵庫県からの寄付で地域医療ネットワーク学分野という寄附講座が設置され、柏原病院への診療支援と若手医師教育を行っています。神戸市の寄附講座としては、こども急性疾患学部門やこども総合療育学部門が設置され、こども急性疾患学部門は、小児救急医療の向上に寄与することを目的に神戸こども初期急病センターの運営支援や小児疾患の啓発活動を行い、こども総合療育学部門は、障害児(者)療育に関する研究、教育、診療、普及活動を行い、神戸市における障害児(者)療育の向上に寄与しています。病理診断学分野には、北播磨医療センターの寄附講座が設置され、播州地区の病理診断支援を行っています。また、八鹿市の寄附講座として低侵襲外科学分野が設置され、八鹿病院の外科診療支援を行っています。

むすび
 以上のように、神戸大学医学部は卒前卒後の医学教育において、兵庫県や県下の地域医療機関と密接な連携をとっています。地域の医療機関への医師定着の促進は、大学・県・自治体ともにベクトルを共有する課題であり、神戸大学は、研究大学として最先端の医学・医療の推進をめざす一方、医療機関と連携しつつ地域医療全体の質向上を目指しています。