概 要
本学では教育理念に則り、医学に必要な基礎知識を十分に備え、疾病の予防、診断、そして適切な治療ができる最新の医学的知識と診療能力・技能を身につけ、崇高な倫理観と人間性に富み、地域を理解し、世界に通用する医師並びに医学研究者の育成を目指している。教育カリキュラムは、ディプロマ・ポリシー[卒業の認定に関する方針:①言語運用能力 ②21世紀型市民及び学士(医学)としての知識・理解 ③問題解決・課題探求能力 ④倫理観・社会的責任 ⑤地域理解]が達成できるように構成されている。
特色ある教育としては、低学年から「早期体験医学」「医学概論」「医療プロフェッショナリズムの実践」などの科目を設け、地域医療実習・チーム医療の体験を通じて医学、医療に対するモチベーションを高めることが可能となっている。研究医の育成や科学的思考の養成のために開設した1・2年次の「早期医学実習」(自由科目)、3年次の「課題実習」(必修科目)では自分で研究室を選択し、実際の研究活動に参加できる機会を設けている。また、高学年の臨床実習では、地域医療への関心を高めるため、医学部附属病院だけでなく県内各地の医療機関での実習を実施している。
卒前の医学教育においては、グローバル化の流れを受けて、臨床実習期間確保のためカリキュラム改正を行い、国際標準72週の臨床実習期間への対応を平成30年1月より開始している。これに伴い、臨床実習期間が4年次1月から6年次8月上旬までとなり、実習期間の拡大による学外医療機関での実習期間の増加が見込まれており、これまで以上に県内医療機関との緊密な連携が重要であると認識している。
卒後の医学教育(卒後臨床研修)においては、平成16年度から導入された新卒後臨床研修制度より、本院のプログラムに所属する研修医が協力型臨床研修病院で長期間研修する体制が定着し、地域医療機関との連携が揺るぎないものになっている。
特 色
本学における地域医療機関との連携を語るには、学部のみならず医学部附属病院との連携が重要であり、本稿では医学部附属病院の状況・取り組みについてもあわせて記載している。
【医学部】
1年次より「医療プロフェッショナリズムの実践I」においてグループワークによる高松市および周辺地域の医療機関、介護老人保健施設での臨地実習を行っている。早期から地域医療を取り巻く諸事情・課題を学ぶ機会となっている。さらに3年次では「課題実習」として学外医療機関での選択実習を1ヶ月間実施しており、Student Doctor認定後の「医学実習I」(4年次1月からの臨床実習)の開始に向けた地域医療マインドの醸成に動機付けを行う機会となっている。医学教育モデルコアカリキュラムに掲げられた「地域医療教育の項目」(地域医療臨床実習)の到達目標を達成するために、4・5・6年次生の「医学実習I・II」(臨床実習)では地域医療の実地体験を中心とした院外実習システムを構築し、県内を網羅した5つの二次医療圏の11医療機関にて実習を実施している(図1)。
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臨床系診療科の指導下でのスキルスラボを活用したシミュレータ教育が盛んなことも「医学実習I・II」の特長のひとつである。平成29年度のスキルスラボ機器別利用件数は2,415件で、のべ20,530人が利用し、1ヶ月平均では、利用件数201件、利用者数1,711人である。平成28年度と比較して医師及び学生、看護師の利用が大幅に増加したが、使用目的別利用件数のうち「医学実習I・II」は、前年度と比較して1.5倍以上の増加を認めた。繁用される理由としては、入退室に学生証・職員証の認証により解錠できるシステムを採用し、予約が不要であり実習中の空き時間に随時利用可能なことが考えられる。今後の実習期間の増加により、さらなる医学教育への活用が見込まれる。
県が奨学金を貸与する修学生については、本県の場合、他県にさきがけ、平成19年度より在学生に対し「香川県医学生修学資金貸出制度」(香川県医務国保課)が創設され、本学医学科3年次生3名が応募し修学生制度が始まった。現在も、入学試験時に以下の14名の「地域枠」を設けている。本制度は、一定数の地域医療を担う人材の育成に直結すると考えられる。修学生は、卒業後の地域医療機関等への義務年限配置により、地域医療の発展に貢献するとともに学生実習受入等の増加に対し、指導医としての活躍も期待される。また、義務年限終了後も県内に留まり、地域医療の中核を担うことが強く期待される。
① |
香川大学医学部医学科推薦入試「県民医療推進枠」の入学者 |
5名 |
② |
香川大学医学部医学科一般入試「地域医療推進枠」の入学者 |
9名 |
【医学部附属病院】
平成16年度からの卒後臨床研修必修化により、地方大学病院における研修医確保は低迷し、本院においても平成17年度マッチング結果は全国最下位となり困難を極める状況に陥った。当時の病院執行部の判断により卒後臨床研修センターへの人的・経済的(予算)措置が迅速に講じられ、充実に向けた改革が行われた。以降、マッチングで一定の成果を維持し、研修医確保、入局者確保の流れが形成できている(図2)。
卒後臨床研修における2年間のうち、協力型臨床研修病院での研修期間は最大12ヶ月可能であり、県内のさまざまな医療機関で研修を実施している。在学生の実習受入医療機関と重なっている場合も多く、屋根瓦式教育が本院のみならず、関係医療機関においても可能な状況となりつつある。しかし、医師数の少ない地域医療機関において、患者診療を行いながらの学生指導には指導者確保の面で困難が予想される。
今後、新専門医制度により、関係医療機関において専攻医の修練受入、指導医の派遣が進むことにより、さらに充実した地域医療機関との連携が構築可能と思われる。
問題点
教育の充実には、ハード・ソフト両面の継続した維持が必要と考えられる。医学部構内の建物の維持管理、シミュレータの買換え費用等に高額を要し、さらに、教育の人材確保にも予算(人件費)が必要である。長引く運営費交付金の減額により、老朽化した構内の営繕が必要な時期を迎えている現状を打開するため、如何に予算を獲得していくかが直近の問題点と受け止めている。
改善点
本院での卒後臨床研修修了後の本院診療科への入局率は、80%以上で推移しているが(図2)、他臨床研修病院での研修修了者の本院への帰学率(入局者数)は低迷しており、全体として医師の充足は厳しい状況であり、帰学率向上のため関連病院の充実等、積極的な取り組みが必要と思われる。
本県においても医師の地域偏在・診療科偏在が認められ、さらなる地域医療人育成が県行政からも求められている。特に産婦人科医不足は深刻であり、対策が急がれる。地域医療機関での在学生の臨床実習に関しては、指導医となる医師派遣(人材派遣)が本学・本院の責務である。国立大学医学部としての使命を果たすべく、県内の地域医療を支えるため地域医療機関と連携しつつ、また、地方自治体とも十分協力しながら努力する所存である。
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