*第29回*  (2020.8.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は金沢大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」
文責 :   金沢大学附属病院 野村 英樹 特任教授・総合診療部長
 金沢大学医薬保健学域医学類(医学部に相当)におきましても、本邦の多くの大学と同様に、地域医療教育は大きな変化の時を迎えています。以下、前回シリーズ第55回(2017年2月)で本学の状況をご紹介させて頂いてからの進捗を中心に、本学の取り組みをご紹介致します。
 卒前教育における大きなトピックの一つは、新カリキュラム最初の学年である2016年入学者(順調に進学していれば2019年の4年生)を対象に、従来オムニバス式の講義を行っていた「総合診療学」に替わり、新たに「総合診療学・地域医療学」の授業を開講したことです。この授業は同じ医薬保健学域に属する保健学類看護学専攻の4年生との合同授業(Interprofessional Education、IPE)であり、学生は4~5名の小グループに分かれ、グループが分担する市町村が抱える健康課題を抽出して解決策を立案し発表し合うまさにアクティブ・ラーニング100%の演習授業(地域アセスメント演習)です。さらにこの授業では、本学の大学院自然科学研究科環境デザイン学専攻の博士ならびに修士課程学生にALA(アクティブ・ラーニング・アドバイザー)として参加して頂き、地域における交通計画と医療提供との関連、地震などの災害時の医療需要変化への対応などについて、医療を学ぶ学生とは異なる視点からの意見やアイデアなどを各グループとの交流の中で提供して頂いています。金沢大学の医学教育でIPEを採り入れたのは、この前年に行動科学・社会科学の授業をやはり医学と看護の2年生同士で行ったのが初めてでしたが、一気に異分野融合型のIPEに発展したことになります。

 ところが、4~5月に集中講座として開講した地域アセスメント演習は、2020年春の新型コロナウィルス感染の流行で、実施が危ぶまれる状況に陥りました。しかしながら、3分野から集まった教員たちは一早く全授業のオンライン化を決め、突然のハプニングを愉しむかのようにアイデアを出し合って準備を進め、結果として50グループで行う16コマの演習授業を全面オンラインで完遂することができました。学生たちもこれによく応え、積極的に協力し、対面型授業を上回るようなプロダクトを作成してくれています。

 トピックの2つ目は、やはり2019年の4年生から、計72週にわたる診療参加型臨床実習を開始し、コア・ローテーション科目のうち内科16週、外科8週、精神科4週は実習期間の半分を、小児科4週は学生の半数を、さらに、総合診療科4週および救急科2週は全期間を、地域医療機関での実習としたことです。連続4週間を、地域医療機関のお一人の指導医にハンズオンでご指導頂く機会は、学生にとってまさに活きた医療の学習であり、学習意欲が高まり過ぎてブレーキをかける必要がある場合もあったとご報告を頂いています。指導医の先生方からも、学生の反応の良さから概ねご好評を頂いておりますが、新型コロナ感染の拡大により実習中止となったタームも複数あり、ご迷惑をおかけしておりますことを心苦しく感じているところです。

 また総合診療科の4週間は、北陸4県(新潟、富山、石川、福井)に跨る北陸総合診療コンソーシアム(HGPC)に所属する17の地域医療機関にご協力を頂き、金沢市内の2医療機関を除き、宿泊型臨床実習を提供して頂いています。あえて画一的な実習ではなく、それぞれが地域のニーズに合わせて力を入れておられる領域を前面に押し出したユニークな実習を提供して頂くようお願いしており、同時期にローテートする学生グループの中で話し合って行先を決められるようにしています。この実習中には、「地域アセスメント演習」で獲得したスキルを活かして、実習先医療機関が所在する市町における健康関連の課題を抽出し、医療機関としてどのようにこの課題に取り組むかをレポートの一つとして提出してもらっています。中には、患者さんが利用する日に数本しかない路線バスに乗って海沿いの小さな集落に行ってみたという学生がいるなど、「地域アセスメント演習」で地域住民が医療を受けることの意味を考えたことの効果と思われるエピソードなどもあり、狙っていた地域アセスメント演習と宿泊型地域医療実習の相乗効果が徐々に表れているように考えています。

 次に附属病院における臨床研修ですが、実は卒前の地域医療実習の引受先医療機関の一部は、附属病院が持つたすき掛けプログラムの相手先医療機関、あるいは地域医療研修の受入れ先医療機関でもあり、そのようなところでは学生と研修医が行動を共にする機会もあるようです。2020年度に研修を開始する研修医からは、地域医療の研修先が200床以下の医療機関、ないし過疎地・離島の医療機関に制限された他、一般外来の研修が必須となり、地域医療研修の中で外来研修の多くを研修して頂くことになると予想しています。

 さらに専門研修ですが、特に石川県地域枠出身の専攻医が最初に赴任する能登北部の4つの病院は全て、地域医療実習の学生、および地域医療研修の研修医も引き受けて頂いており、指導医/専攻医/研修医/スチューデント・ドクターという屋根瓦方式の教育が実現しています。ただし指導医の不足が大きな課題となっており、今後は地域枠出身者が地域医療機関に定着し、指導医として後進を指導してもらえるような方策を打ち出して行く必要があるものと考えています。