はじめに
琉球大学医学部は、医師不足に悩む沖縄県民の長年の願望により、1979年に開設され、1981年4月から医学部医学科第一期生の受け入れが開始された。本学部医学科は、医学に関する専門の知識と技術を修得し、高い倫理性を身につけ、医学・医療の進歩や社会的課題に柔軟に対応しうる医師、研究者を育成することを目指している。また、島嶼にある本学部は、離島・へき地の医療格差を是正するためにも、地域の医療機関と連携しながら、地域医療を担う医師の養成を使命としている。
卒前教育の特徴と地域医療機関との連携
この使命を果たすために、2012年度から、医学教育企画室が主体となって卒前教育プログラムの改革を行ってきた。早期から患者との接触機会を持つことで、医療人としての自覚を高めてもらうために、1年次には、「外来患者付添い実習」と「救急車同乗実習」を行っている。2年次には、沖縄県内の療養型病院、老人保健施設、特別養護老人ホームなどを1日見学し、患者・家族、及び職員と接し、日本の医療や社会の現状を学ぶ「体験学習」を、さらに、ハンセン病療養所である国立療養所沖縄愛楽園を訪問し、人権問題や将来の診療姿勢について考えてもらう「沖縄愛楽園
訪問見学実習」を実施している。また、3年次後期には、離島・へき地医療の現場を体験してもらうために、学生全員に「離島地域病院実習」を2005年より本学独自の取り組みとして継続的に行っている。この実習では、離島の中核病院や診療所の医師、スタッフの指導のもとに患者と接しながら、コミュニケーション能力を身につける機会となっている。4年次の9月から10月中旬には、臨床実習に必要な基本的臨床能力を身につけてもらうため、学生は模擬患者による「ロールプレイ」や身体診察法をおきなわクリニカルシミュレーションセンターで訓練している。2012年度文部科学省公募による「基礎・臨床を両輪とした医学教育改革によるグローバルな医師養成(テーマB)」事業で本学部は「グローバル&ローカル対応琉大ポリクリ方式」(https://www.med.u-ryukyu.ac.jp/poliklinik/index.php/outline/)が採択され、臨床実習のカリキュラム改革を実施してきた。4年次の11月から実習を開始することで、72週間の実習期間(40週必修実習、32週選択実習)を確保した。特色として、見学型実習から、チーム医療の一員として参加するClinical
Clerkship(診療参加型実習)へ移行し、後半の選択実習では、沖縄県内の地域中核病院(沖縄県立中部病院を含む16施設)や離島診療所の協力のもと、地域での実習を充実させた。それにより、学生は総合診療、救急医療、プライマリ・ケア等の地域医療の現場に即した実習を受けることが可能となり
、臨床技能が向上し、例えば、症例のプレゼンテーションを適切に行えるようになると考えている。また、ハワイ大学を含めた海外大学への実習も拡大することで、グローバルかつローカルに活躍する医師を育成することを目指している。2017年度に本学部は国際標準に基づく分野別認証評価を受審し、「グローバル&ローカル対応琉大ポリクリ方式」で国際化ならびに地域医療への貢献を目的とした教育を進めていること、充実したシミュレーション教育を実施していることなどが高く評価された(https://www.med.u-ryukyu.ac.jp/mur-content/uploads/2018/11/178732ecd820a31756ec238622f05d53.pdf)。
卒後教育における地域医療機関との連携
医学部附属病院では総合臨床研修・教育センターが初期研修(臨床研修センター)・専門研修(キャリア形成支援センター)を含めた卒後教育に携わっている(図1)。初期研修においては地域の管理型臨床研修病院、臨床研修協力病院及び離島診療所を含む研修協力施設とともに臨床研修グループ(RyuMIC群)を形成し、各々の特徴を生かしつつ相互に連携を図ることで、よりよい臨床研修の実現を可能にしている。当院の研修医の個々のニーズにあった県内の複数の研修病院のローテーションを可能としているだけでなく地域の研修病院から毎年20-35名の研修医を受け入れており、県内の研修医が充実した研修を行えるようサポートしている。
沖縄県にはこのRyuMIC群に加え、県立病院群、民間教育病院のアライアンスである群星沖縄群を合わせ3つの臨床研修病院群があり、それぞれの特徴や実績を活かし質の高い様々な研修プログラムを提供しつつ互いに連携している(図2)。更に、この3つの臨床研修群は県や県医師会とも協力し、「オール沖縄~赤瓦プロジェクト~」として全県一体型の研修体制を構築している。その中の取り組みの一つとして、大学病院を含む県内の臨床研修病院の指導医グループと関係機関が連携・協力し合い、初期から専門研修まで一貫したキャリアパス支援体制の構築を目指した「沖縄県医療人育成事業」を実施している。主な活動としては琉球大学医学部構内に整備されたおきなわクリニカルシミュレーションセンターにおいて、県内すべての研修医が参加する「沖縄県研修医対象シミュレーショントレーニング」、スキルセッション・シナリオセッション・キャリア教育セッション等からなる「レジデントデー」、研修医の目標到達度評価を行う「研修医OSCE」等があり、本学の指導医、看護師、事務を含む、県内の研修病院のスタッフによる研修医教育を提供している(図2)。
また、RyuMIC群では以前から卒後教育の一環として地域の指導医の養成にも力を入れており、毎年、大学病院と地域の研修病院の指導医をタスクフォースとして迎え、臨床研修指導医養成セミナーを開催し、これまで県内で臨床研修指導に携わる指導医を540名あまり輩出してきた。
以上のように本学は、県内の医療機関のみならず、沖縄県、県医師会などの関係機関と密接に連携し、県全体の卒後教育の充実に努めている。
終わりに
沖縄県内の地域医療を担っていく人材を育成するために、2009年度より本学部では地域枠制度を導入した。医学教育企画室、総合臨床研修・教育センターや沖縄県地域医療支援センター(http://www.chi.med.u-ryukyu.ac.jp/activity/1208.html)と連携しながら、地域枠学生の教育プログラムを提供している。2020年度から、医学生の卒業時の到達目標を示した「医学教育モデル・コア・カリキュラム」と臨床研修の到達目標を突き合せ、卒前・卒後の一貫性を図った研修が開始される。地域枠学生だけでなく、本学部学生を卒前・卒後のシームレスな医師を養成していくためにも、沖縄県内の3つの臨床研修病院群、沖縄県や沖縄県医師会と協力し、地域全体で育てていく文化を醸成していくことが重要なことではないかと考えている。
また、2020年度より臨床実習後OSCEの本格実施が導入されるが、文部科学省からの運営交付金が年々縮減される中、評価者及び模擬患者の育成や予算の確保に苦慮している。限られた人的資源と予算の中で、学内の教職員で知恵を絞り、地域医療機関や自治体の協力を得ながら、地域医療に貢献する医療人の育成を図っていかなければならないと思われる。
|