*第22回*  (2020.1.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は大分大学での取り組みについてご紹介します。

大分大学医学部の医学教育における地域医療機関との連携
文責 :  大分大学医学部地域医療学センター
 大分大学医学部
宮﨑 英士 教授
山岡 吉生 医学部長
 大分大学医学部と地域医療機関における医学教育の連携は入学前に始まり、6年間の学部教育、そして卒後教育(研修医、専攻医)に至るまでシームレスに行われている。入学前の連携は、大分大学の地域枠AO入試制度におけるもので、高校3年生の夏休みに、へき地医療拠点病院で3日間の見学実習を行い、評価を受けることが受験要件となっている。
 学部教育では1年次の入学直後に「早期体験実習」を組んでおり、8グループに分かれて大分県内の地域医療機関に派遣され、3日間、介護実習を行っている。3年次には「地域医療講義・実習(2週間)」のなかで2日間、大分県内55診療所に派遣している。臨床現場を直に見学することで、自分はこれから何を学ばなければいけないかを知り、医療者としてのモチベーションを向上させる場となっている。また、地域医療機関からの外部講師による臨場感あふれる講義やワークショップをとおして、訪問診療、介護・看取り、アドバンス・ケア・プラニング(ACP)などを学ぶ機会となっている。4年次に10週間行われる研究室配属で総合外科・地域連携学講座、あるいは総合診療・総合内科学講座などに派遣された学生は、大学を離れて地域病院や診療所、離島など生活の場をフィールドとした地域医療に関する研究を行う機会がある。
 本学では平成28年度より新カリキュラムに移行し、臨床実習はStage
I実習(4年次12月より)、Stage 実習(5年次12月より)となったが、地域医療実習はStage Iのなかで全員必修の滞在型実習を行っている。これは2名1組でへき地医療拠点病院等を基幹病院として地域に2週間泊まり込みで行う実習である。現在、県内15地域により実習プログラムの提供をいただいている。医学教育モデル・コア・カリキュラムに記載された学修項目に加えて、その地域・病院の特徴を盛り込んだメニューで、病院・診療所・介護保険施設・保健所・市役所・在宅など多彩な現場での学びが得られている。毎年、実習終了後には地域医療学センター教員がそれぞれの実習施設を訪問し、“学生による地域医療実習評価”を資料として病院の責任者、実習担当者とともに次年度に向けた振り返りを行うこととしている。また、各病院(地域)の責任者、担当者が一堂に会したワークショップを行い、各病院のノウハウを共有し、優良なメニューは各病院のプログラムに取り入れてもらうようにして、教育の質を高める試みをしている。そのほかにも、領域別診療科の実習で地域医療機関に派遣する機会は少なくなく、小児科、総合内科・総合診療科では診療所での実習も行われている。
 
↑ 地域医療教育FD講演会   ↑ 同 ワークショップ


 Stage 実習では、2週間~4週間の選択実習であるが、県内の臨床研修病院を中心として多くの地域医療機関の協力を得て、診療参加型実習を行っている。学生にとっては初期研修を受ける病院探しにもなり、また、臨床研修病院にとっては研修医獲得に繋がる貴重な機会にもなっている。希望者には県外の地域医療機関に派遣する機会も設けている。
 正規のカリキュラム以外には、毎年、県内の地域医療機関と自治体の協力のもと地域医療セミナー in 大分を開催している。地域住民の暮らしを知り、医療ニーズを肌で感じることを目的としており、1泊2日の泊りがけで、フィールドワーク、市長や病院長の講話、ワークショップ、医療介護施設見学などを行っている。これまで、豊後大野市、国東市、佐伯市、竹田市、姫島村、杵築市、中津市で行ってきた。住民、医師以外の医療・介護職の方々との交流は学生に新たな気付きを生み出している。
 地域枠学生の育成に地域医療機関との連携は欠かせないが、1年生~5年生は毎年の夏休み期間に、自治医科大学の学生とともに2泊3日でへき地医療拠点病院、へき地診療所での泊りがけの実習を行っている。地域に赴く4人編成のグループは大分大学の学生と自治医科大学の学生が混ざり合う屋根瓦式の構成になっており、最終日は両校の学生全員が集まり、地域医療機関の指導医および地域医療学センター教官が参加して、実習の発表会、交流会が行われる。
 地方の大学では、卒後教育を語るときに初期研修医と専攻医の獲得を抜きには考えられない現状がある。「大分大学医学部附属病院初期臨床研修プログラム」の特徴は、研修医の希望を最大限組み入れる弾力性にあり、重症患者、難治疾患の診断・治療を深く学ぶ機会の多い大学病院とともに、日常よく遭遇する疾患を数多く経験できる市中病院での研修を「襷掛けプログラム」として運営して好評を博している。現在、県内の臨床研修病院(11病院)が襷掛け研修の協力病院であり、1年目研修医の60~70%がこのプログラムで研修している。また、「地域医療」研修では離島、中山間地の診療所を含めて県内54医療機関が研修施設となっており、オール大分での初期臨床研修支援体制が構築されている。研修医のマッチ数は平成29年度33名、平成30年度39名、令和元年度42名と右肩上がりの増加を示している。
 新専門医制度では大分大学が地域医療機関と連携して19領域の専門研修プログラムを運営している。医師偏在の本県における問題は、へき地医療拠点病院での内科指導医不足であり、その問題を解決するために地域医療機関・自治体と協議して「内科医療人材育成会議」を設置した。これは、内科専攻医を常勤として新たに派遣される病院に、内科指導医を助教として1日半勤務させ、その人件費を病院(自治体)に拠出していただくというものである。その結果、専攻医の内科専門医の取得を保証し、地域医療に誇りをもってそれを担う内科医を育成することを目指している。内科指導医は派遣された病院で診療に従事しつつ、内科専攻医の指導を行う。この仕組みは教員不足に苦悩する大学医局にとっても利益をもたらすもので、現在5地域で、令和2年からは7地域でこの制度が実行されることになっている。
 大分大学は県内唯一の医育機関であり、大分県の地域住民の命と健康を守る責任を負っている。社会の複雑化により多様な人材を養成するニーズがあるなか、地域医療を担う人材養成は本学の根幹となるミッションである。今後も地域医療機関、自治体との関係を強化して、地域と連携した卒前・卒後の医学教育を推進していく所存である。