*第20回*  (2019.11.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は信州大学での取り組みについてご紹介します。

医学部と地域医療機関が一体となった卒前卒後の医学教育を目指す
文責 :  信州大学医学部地域医療推進学教室
田中 榮司 特任教授
 医学科の入学者数は現在120名で、内訳は一般選抜100名と地元出身者枠20名で、修学資金貸与はどちらも希望者のみです。地元出身者枠で長野県から20名も入学しながら、全体120名での長野県出身者は30名程度に限られ、残りの多くは東京や愛知などの都会からの入学者です。それでも地元出身者枠の約90%は長野県内で研修し、卒業生全体でみた場合でも半数は長野県で研修を行うので、良い傾向と思っています。修学資金の貸与の有無に関係なく、卒業生を地元に残るようにすることは、どの都道府県でも重要視していると思いますが、長野県でも同様に重要課題です。私は今年の3月末まで医学部長をしており、現在は地域医療推進学教室で地域医療推進のための仕事をしていますので、その視点から地域医療の活性化に資する卒前卒後の医学教育について述べたいと思います。
 
私が現在所属する地域医療推進学教室は教員2名で運営し、色々な仕事をしていますが、学生を対象に行う地域医療をテーマとした学習プログラムもその一つです。3年生を対象に行う地域医療セミナーでは、長野県の地域医療で活躍している先生を4週間連続で毎週講師としてお呼びしています。これはかなり定番なプログラムですが、長野県には、自身の信念に則って長年地域医療に従事している先生が多くおられます。想像できると思いますが、個性的な先生が多く、話題は多岐にわたり、学生が感動・感心する話題もあり、地域医療を眺めてもらうには有効な企画だと感じています。うたた寝する学生はおらず、多くは、目を輝かせて聴講していますし、その感想も地域医療の本質をしっかり捉えるものでした。やはり講師の人選が大切なのかもしれません。
 地域医療実習は3年生の地元出身者枠と修学資金貸与者を対象に行うもので、2泊3日の泊まり込みで診療所などを訪れます(図1)。基本的に2人がペアになって実習します。なかなか好評で、学生も診療所のスタッフにも大変良い企画として受入られています。当然ですが、学生の殆どは地域の診療所を知りません。多くの学生は、この実習を通じて診療所や地域の温かさを実感してきますので、大変良い経験になるようです。迎える方の診療所も、若い医師の卵が来ると活気が出るようで、これまでのところ面倒だと言われることはなく、逆に楽しみにされているようです。地域の医療がどんなものなのか知らずに地域医療を回避しようとする人も多いので、若いうちに実際の地域医療を経験することは非常に良いことと考えています。地域医療イコールつらい仕事との考え方は変えていきたいと思います。
 

 殆どの大学がそうだと思いますが、OSCEとCBTに合格すると臨床実習に入ります。信州大学では72週の実習期間をクリニカル・クラークシップⅠ(36週)とⅡ(36週)に分けています(図2)。Ⅰはグループで各科を回る昔ながらの実習ですが、Ⅱはより実践的になっています。クリニカル・クラークシップⅡに入った最初の24週は150通りの選択枝からなる臨床実習で、信大病院を含め、県内に34、県外に2ある協力病院で実習を行います(図3)。このシステムは、4週間ずつ6回まわる病院・診療科を150通り準備されたセットの中から選ぶもので、成績の良い順に選択権が与えられます。信州大学と協力病院との連携は順調で、長野県の現状にあった良いシステムであると評価を受けています。150通りの臨床実習が終わると、次の12週間は、実習先を4週間ずつ自由に選択できます。これにより、足りなかった診療科やもっとやりたかった診療科を選択できるシステムとなっています。この様な形で地域病院での実習を積極的に導入することにより、我々が予想しなかった効果が生まれました。それは、今まで初期研修先として選ばれなかった病院へも初期研修医が行くようになったことです。また、全体として大学病院での研修が減り大学病院以外での研修が増えました。これは、おそらく、学生時代に地域の病院での実習を経験することにより、研修病院を選ぶ際のハードルが低くなり、選択肢が多くなったことが原因と考えています。この現象は、地域で医療を担う医師の増加に繋がる可能性があり、基本的に良い反応と考えています。

 

 卒業後の地域医療の教育はなかなか難しいと感じているのはどこも同じだと思います。それは、医師になると集まる時間が限られるためですが、人を集めるには出席を義務化することが一つの条件となります。ですので、おのずと修学資金貸与者に限られますし、回数も多くはできません。本来ですと、地域医療を担うための教育を行いたいのですが、時間が限られます。この点は、長野県ではあまりうまく行っておらず今後の検討課題と考えています。

 日本病院協会の文章に、「こんな勤務医が欲しい、こんな勤務医は要らない/地方病院長の思い」がありました。欲しい勤務医は、①患者から学ぶ姿勢のある医師、②診療を拒否しない、患者を選ばない医師、③自分で対処できそうにないと考えれば、直ちに相談できる医師でした。これに対し、いらない勤務医は、①正論は言うが自分では動かない、②はいやりますと言いながら他人に丸投げ、③弱気(コメディカル)に強気、強気(上司)に弱気でした。これらの意見は医学部長時代から切実に感じています。国家試験合格率も大切ですが、医療を正しく遂行できる人材づくりはより大切と考えています。