*第18回*  (2019.9.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は長崎大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携
文責 : 長崎大学医学部地域包括ケア教育センター
長崎大学医学部
永田 康浩 センター長
永安  武 医学部長

Ⅰ.はじめに
 長崎大学医学部は、開祖であるポンペ・ファン・メールデルフォールトの言葉「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。」を建学の基本理念とし、(1)豊かな人間性と高い倫理観を持ち、良好な人間関係を構築できる能力(2) 医学・医療の基本的知識と技能を有し、チームの一員として診療に参加できる能力(3)医科学領域における課題探求・解決能力を有し、論理的思考ができる能力(4)グローバルな視点を有し、地域社会および国際社会に貢献できる能力、の習得を教育目標に掲げている。本学は、これらの教育目標を達成するうえで「地域医療教育」の意義と役割を認識し、カリキュラムに位置付けてきた経緯がある。
 一方で、最新の医学教育モデル・コア・カリユラム(平成28年改訂)にも「地域医療や地域包括ケアシステムの教育」がひとつの柱として明記された。そのカリキュラム冒頭のキャッチフレーズ「多様なニーズに対応できる医師の養成」のために「地域医療教育」をいかに活用するかがいま問われており、今後は質が保証された地域医療教育への期待と使命が高まるなか、大学と地域医療機関との連携の重要性が増すと考えられる。以下、長崎大学の地域医療教育の現状と地域医療機関との連携について述べる。

Ⅱ.卒前教育における地域医療機関との連携
(1)低学年の早期体験実習
 初年次から臨床実習前に行われる早期の体験実習では、地域病院(10病院)、高齢者福祉施設(8施設)、診療所(42施設)などへ赴き見学を主とした実習を行う。低学年から多職種連携を意識づけるためにも、複数の学科とともに実習する機会を設けている。特に高齢者福祉施設の実習では、看護、理学療法、作業療法の各学科、大学の枠を超えて福祉学科との事前学習を行うことで医学生として目的意識を明確化させている。3年次には市内診療所に赴き医師の姿をシャドーイングすることで診療態度、患者家族とのコミュニケーションスキルを学んでおり、これらは医学的知識を身につける動機づけと同時に社会における医療の位置付けと役割を体得する機会として重要なものとなっている。

(2)臨床実習(臨床参加型実習)
 長崎大学では診療科単位で散発的に行われた地域医療教育を2004年から離島医療・保健実習として本格的に臨床実習カリキュラムに組み込んだ。2012年には県内全域の拠点病院(15施設)と連携協力体制を拡充し、さらに2014年から市内の地域包括支援センター(20施設)や訪問看護ステーション(23施設)での実習を必修とする地域包括ケア実習を導入した。さらには医学教育の国際認証評価における臨床実習の強化策として、高次臨床実習において4週単位の地域病院実習(15医療機関、在宅医療3施設)が可能となった。このような運営体制の構築にあたっては地域医療機関のみならず、地元の医師会、行政の理解と協力が重要であった。

   
  図1:長崎大学の地域医療教育施設
 
   
  図2:長崎大学における地域医療機関で実習する医学生数の経年変化


(3)地域枠学生と地域医療機関との交流
 地域枠学生は将来県内の医療機関に勤務することが義務付けられており、卒前からの地域医療機関との関わりは将来のキャリアデザインを描く上で貴重な機会となる。地域枠学生にとって参加が必須となる夏季セミナーでは五島市や平戸市での実習が、離島・へき地の医療機関と地域住民との関わりを深く理解する場となっている。また、地域枠活動報告会として臨床実習前の学生が地域医療機関の指導者と交流するワークショップを定期開催している。この交流事業を通して、学生は自身のキャリアデザインを考える機会としてとらえ、その企画・運営に関わることでその後の地域実習と臨床研修を選択するモチベーションとなることが期待されている。一方、自治体の関与としては、長崎大学病院に設置された「ながさき地域医療人材支援センター」が、卒前から卒後へと連動する地域医療の人材育成としてこれらの活動を支援している。

Ⅲ.卒後教育における地域医療機関との連携
 長崎大学病院は2011年に医療教育開発センターを設置し臨床研修体制を精力的に整備してきた。多様な研修ニーズに応えるために、基幹型と関連病院のたすき掛け関係にある病院として58施設(県内外)と連携している。卒後臨床研修においては、そのうち地域医療研修に特化した32施設の中から選択して地域病院で研修する体制が整備されている(2019年4月現在)。2020年の研修プログラム改訂に備え、大学病院で経験が少ない外来研修を補完する目的で、出張外来研修(7施設)を整備した。また、2017年より寄付講座として長崎医療教育センター(N-MEC)を市内医療法人に開設し、そこに教員を配置しながら地域病院が拠点となる新たな研修体制を稼働させるとともに地域医療への貢献を見える形で実現している。

Ⅳ.地域医療教育における教育力の強化
 地域医療教育において指導者の質を担保し向上させることが重要である。これまで、卒後研修に対する長崎大学病院群臨床研修指導医講習会の修了者は917名にのぼり、県内の研修医教育の質向上だけでなく卒前教育においても少なからず寄与しているものと実感している。今後は卒前教育に特化したFDの開催も視野に入れる必要があるが、卒前卒後の医学教育の一貫性を念頭に置き地域医療教育においても教育目的や評価について大学教員と指導者との意識共有の場を積極的に設けることが現実的な方略としてあげられる。さらに、社会の多様なニーズに対応できる医師の養成には、医師以外の職種による指導の意義も増してくる。長崎大学ではこれまでの臨床教授制度に加えて、多職種の指導者に対して2019年度より「臨床教育マイスター」の称号を付与し、その貢献を称えるとともに地域医療機関における医学教育指導体制の充実を図っている。

Ⅴ.おわりに
 長崎大学は従来行ってきた地域医療機関との積極的な医療連携にとどまらず、人材育成においても地域医療教育の特性を生かした質の高い人材を継続的に輩出することによって、大学の責務である地域の医療と保健に貢献する責務を果たしていく所存である。