*第17回*  (2019.8.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は新潟大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携
文責 : 新潟大学大学院医歯学総合研究科
新潟地域医療学講座地域医療部門

井口 清太郎 特任教授
 新潟大学は新潟県における唯一の医育機関であり、また創立109年目を迎えた歴史ある大学として新潟県内外の多くの医療機関と連携を持っている。
 現在、卒前教育における早期医学体験実習(EME)、医学科4年生から始まる臨床実習において県内の多くの医療機関と密接な関係を持ちながら展開している。また正課とは別に、新潟大学地域枠医学生、および新潟県と関係を持つ医学生(県費修学生、自治医大生)を主たる対象として実施している新潟県地域医療夏季実習、冬季実習などにおいても、新潟県内の多くの医療機関から実習場所としてご協力頂いている。この実習場所の選定・依頼については行政機関である新潟県、それから新潟県医師会とも連携する新潟県地域医療支援センターを中心として行っており、新潟大学と新潟県、新潟県医師会という三者が密接に連携・協働することで、スムースに事が運ばれている(この三者とも連携を持つ地域医療支援センターが大学医学部内に設置されていることも寄与している)。また卒後教育においては、新潟大学医歯学総合病院の初期臨床研修プログラムでは協力型研修病院(地域医療研修を含む)として新潟県内の49医療機関から参画してもらっており、もはや地域医療機関の協力無しに、医学教育を進めることは想像することもできない。また新しい専門医制度における基本領域の専門研修に関しても、領域毎に複数のプログラムが存在し、それぞれに連携型研修施設を設定しているが、最大で県内の57医療機関を連携型施設として設定しているプログラムもある(内科領域)。これらを見ても分かるように、新潟大学では卒前教育から卒後教育全般(初期臨床研修から新しい専門医制度における専門研修)に至るまでシームレスに県内の地域医療機関との連携を持っている。

 この中でも、本学として地域医療臨床実習を継続的に実施してきている魚沼医療圏を紹介したい。魚沼医療圏は新潟県の南部に位置する中山間地域である。魚沼産コシヒカリの産地であり、一方で広大なスキー場エリアを有し国内でも有名なリゾートエリアとしての側面もある。この魚沼医療圏は面積においては2649平方kmと東京都の約1.2倍、大阪府の約1.4倍あるものの人口は約16万人と非常に人口密度の少ない過疎地域でもある。実はこの地域、厚生労働省が公表したデータで平成27年度の二次医療圏別医療費マップにおいて年齢補正後の1人当たり実績医療費対全国比において、全国でもっとも低い地域となっている。つまり年齢構成などを加味したうえでもっとも医療費のかかっていない地域といえる(図1)。この様な地域で学ぶことは、医療費抑制の観点からも意義深いことと思われる。
   
  図1.平成27年度医療費の地域差指数(年齢補正後)(厚生労働省保険局調査課) 

 以前からもこの地域では新潟県立小出病院を始め地域医療に造詣の深いいくつかの関連病院が存在していたこともあり、この地域は新潟大学における地域医療教育の中心地として機能していた。この魚沼医療圏に平成27年、魚沼基幹病院・新潟大学地域医療教育センター(図2)(1)を新潟県との協働のうえで開設した。また新潟県立小出病院は魚沼市立小出病院(2)として整備され、その他いくつか二次医療圏内の医療機関がその規模に応じて機能分担を図ることとなった(医療再編)(図3)。これによって魚沼医療圏では急性期・高度医療を提供する魚沼基幹病院、一般病床を持ちつつ回復期までも念頭にリハビリなどの機能も併せ持った小出病院等の周辺病院群、そして在宅なども診ていく周辺の診療所・開業医、更にはこれらと連携する社会福祉協議会等、介護・福祉分野に関わる組織が機能的、かつ有機的に連携することとなった。これらのことから、この地域は地域包括ケアを含む地域完結型医療を学ぶには最適な環境といえよう。また一つの地域において異なる規模、異なる役割を持つ医療機関で臨床実習を行うことで、これらを体系化して学ぶことができるようになっている。昨年度(2018年度)には、これまでこの地域で学んだ本学生は1000名を超え、さらにここで学んだ医学生の一部が卒業後この地域の医療の一部を担うようになってきている。
   
  図2.魚沼基幹病院・新潟大学地域医療教育センター 
   
  図3.魚沼医療圏の位置と、その主たる公的病院 

 この様に、新潟大学と魚沼医療圏の地域医療機関との連携は、この地域における医療再編の呼び水となった。現在もこの地域における医療の在り方に新潟大学は魚沼基幹病院・新潟大学地域医療教育センターを始め種々の形で関わっており、臨床実習などでもその連携を密にしている。

 地域に若者(医学生)が入っていくことにより地域医療の現場にも活力が見られるようにもなる。今後は、これらの取り組みを新潟県全域で継続的に実施していくことで、本学、新潟県、新潟県医師会とで三位一体となって地域貢献を果たし、さらに地域医療教育の質を上げていきたいと考えている。


参照URL

(1)魚沼基幹病院   https://www.uonuma-kikan-hospital.jp
(2)魚沼市立小出病院 http://www.uonuma-medical.jp/koide/