1)茨城県と長野県の医療を支える
-東京医科歯科大学での地域枠学生の卒前教育-
東京医科歯科大学医学部医学科では、茨城県と長野県の地域特別枠推薦入試制度を平成23年度入学者から設け、各県から毎年2名ずつ4名の入学者を迎えている。この制度の目的は、国の「経済財政改革の基本方針
2009」を踏まえた医学部入学定員増に伴い、茨城県及び長野県と連携し将来両県内の地域医療を担う人材を育成することである。平成29年3月には初めて卒業生を輩出した。
両県はともに人口10万人当たりの医療施設従事医師数が全国平均を下回っている県である。地域医療のニーズは、年齢別人口構成や地理的環境など様々な要因で都市部とは大きく異なっている。また、それぞれの県でも医療事情は均一でないばかりか、本学が位置する東京都からもかなり離れていることから、両県での地域医療に根差した医学教育を、大学のカリキュラムで十分に教えることは困難である。このようなことから、学生の入学から卒業までの6年間を大学と県とが密に連携し、育て上げる工夫をする必要がある。具体的な取り組みを3つ挙げる。
① 大学側の学生に対する担任制度
これは本学の全学生に対する制度であり、地域特別枠学生にだけ存在する制度ではないものの、茨城県担当ともう1名長野県担当の教官が、「縦断」すなわち、2年生から5年生までの8名ずつの担任になる制度である。担当教官は地域特別枠の学生と年2回合同で面談し、普段の生活や学習面で困ったことについての相談を受けたり、たまには食事にも出かけている。学生たちは将来、卒後9年間その県の医療に従事するという点では茨城県も長野県もほぼ同じ条件である。この点は一般入試を経て入学している同級生の進路とは大きく異なっているため、特別枠学生の将来の選択肢は、一見狭い様に思われがちである。そして、学生もそれについて不足感を感じることもあるが、実際に様々な進路が出身地で用意されていることに気づくことで、6年生の頃には将来の展望が開けてゆくようになっている。
②県と大学の連携・協力
両県の医師確保対策部門の県職員と県側の卒後教育責任医師が、年に2回本学を訪問してくださる。これを教育委員会委員長と担任教官2名の3名がお迎えし、各学年の学生の履修状況、問題発生時の対応法の協議、県側の医師確保対策の方針説明などをうけている。その後に学生との三者面談(学生・県側担当者・担任教官)を行っている。
③一般枠入学学生とは異なる臨床実習
学生がそれぞれの県に出向き臨床実習をすることで、東京では経験しない地域医療の体験を経験できる工夫も県が用意している。自分が将来研修する現場を実際に経験することで、将来のビジョンが明確になることから、どの学生もお茶の水で学ぶ医学とは一味も二味も異なる新鮮な経験として捉えているようである。
茨城県では、平成29年度は地域枠修学生を35名支援している。将来この学生は卒業して茨城県での初期研修にあたることになる。本学の地域特別枠の学生はそのうちの2名に過ぎない。つまり、臨床実習や地域医療説明会などに参加することは、多くの将来の同級生と知り合える絶好のチャンスである。一度仲間になると、普段は別の大学で離れて学んでいても、SNSで容易につながって交流を続けるという今の学生に、頼もしさを感じる。
大学側はこのような臨床実習を通常のカリキュラム単位に認めることによって、地域特別枠学生が特別な負担を負うことなく伸び伸びと将来地域医療で活躍できるように工夫をしている。
我が国の地域医療は将来、高齢化や地域経済活動の変動などにより、今よりもさらに複雑になることが予想される。それを担える医師像は、本学の教育についての基本理念にある、「豊かな人間性、高い倫理観、自ら考え解決する創造性と開拓力、国際性と指導力を備えた人材」でもあると考える。
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(茨城県水戸市での「修学生の集い」での一コマ) |
2)茨城県小児・周産期地域医療学講座
茨城県は人口当たりの医師数が全国で最も少ない県の1つであり、特に産婦人科医、小児科医の不足が著しい。東京医科歯科大学は土浦協同病院をはじめとする茨城県下の中核病院に多くの医師を派遣してきたことから、地域間および診療科間の医師偏在を是正することを目的として、平成22年に地域医療再生基金により本寄付講座が開設され、現在はJA茨城県厚生連の寄付講座として継続している。本講座の活動内容は、小児・周産期医療を担う医師を育成し茨城県の医師不足を解消することであり、これまで多くの産婦人科医、小児科医を茨城県に派遣し地域医療に貢献してきている。
-ITを活用した小児周産期の高度医療人養成-
平成26年に文部科学省が、日本が抱える医療現場の諸課題を解決する医療人材を養成すること目的として公募した「課題解決型高度医療人材養成プログラム」に、筑波大学と共同申請して採択された事業である。地域中核病院において小児・周産期医療に携わっている医師は、その多忙さゆえに都心で行われている勉強会、研修会、症例検討会に参加できる機会が制限され、それがまた若手医師が地域中核病院に勤務することを躊躇するという悪循環を形成している。本事業においてはこの問題を解決するために、リアルタイム双方向性TV会議システムを整備し、本学で開催された講演会などに地域の勤務先から参加できるネットワークを構築した。さらにこの講演および討論内容を収録し、オンデマンドでオフザジョブに学習できるようにe-learningコンテンツの作成を行っている。
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3)東京医科歯科大学における医学生の地域医療学習/臨床研修医の地域医療研修
-東京医科歯科大学における地域医療学習の場について-
本学の学生実習および臨床研修において地域医療およびプライマリ・ケアを学ぶ機会を提供するため、本学医学部附属病院総合診療部により、平成16年に地域の診療所指導医と「御茶ノ水プライマリ・ケア教育研究会」が設立され、定期的に勉強会(FD)を行っている。
-医学生の地域医療学習について-
地域医療およびプライマリ・ケアの現場を体験し、多職種の業務を知ることで、プライマリ・ケア領域の果たす役割を理解することを目的として、医学部附属病院総合診療部および大学院医歯学総合研究科臨床医学教育開発学分野の管理運営のもと、医学科5年生(臨床実習学生)を対象に、プライマリ・ケア実習を以下の施設で実施している。実習期間は2週間(月~木:診療所、金:大学)で、1あるいは2つの診療所で実習を行う(外来および在宅医療を経験できるように診療所を組み合わせている)。大学病院では経験することのできない診療所での医療、在宅医療、介護医療、地域医療などを経験するべく第一線の診療所で実習を行い、大学では症例プレゼンテーションや系統的診察などの知識・技能を再学習する。
【実習先】
東京近郊の25の診療所
-臨床研修医の地域医療研修について-
一次医療の現場を経験することで、プライマリ・ケアを理解し、高度医療人に求められる幅の広い視点を養うことを目的として、医学部附属病院総合教育研修センターの管理運営のもと、2年目大学研修医(プログラムⅠ:若干名、プログラムⅡ:60名、周産期プログラム:4名)の地域医療研修を以下の施設で実施している。都内および近郊の診療所における1ヶ月間の地域医療研修のほか、秋田大学および島根大学と連携した交換研修も実施している。
【研修先】
・ 東京近郊13診療所(1ヶ月の地域医療研修)
・ 地方病院(3ヶ月の地域医療研修):希望者
横手市 市立大森病院(2ヶ月)+秋田大学医学部附属病院(1ヶ月)
邑智郡公立病院組合 公立邑智病院(2ヶ月)+浜田市国保診療所連合体(1ヶ月)
※給与・旅費は本学より支給、滞在費は派遣先あるいは本学同窓会より援助
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