*第66回*  (H30.1.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は徳島大学での取り組みについてご紹介します。

徳島県の地域医療の現状と徳島大学の役割


文責 : 徳島大学医学部長 丹黒 章 先生

徳島県の人口問題と医療過疎
 少子高齢化と若年層の都市部への流失による人口減少により、地域の過疎化が急激に進んでいる。淡路島を隔てて近畿都市圏と隣接しており、東京へも交通の便が良い徳島県においては、2004年の新臨床研修制度以降、医学部卒業生の都会への流失が顕著となり、地域医療の維持が切実な課題となっている。統計によると、都道府県別にみた人口に対する医療施設に従事する医師数は、徳島県は全国トップレベルであるが、人口減少と医師の高齢化がその背景にある。
 1973年に愛媛大学医学部が設置されるまでは徳島大学医学部は四国で唯一の医師養成機関であった。それ故、徳島大学の関連病院は四国全域にわたり、四国内の基幹病院へ多くの卒業生を送り出すという責務を継続して負ってきた。その後、四国各県に医学部が設置されたが、新設された医学部には県外からの入学者が多かったこともあって、卒業生の地域定着は進まず、2004年に始まった新臨床研修制度により状況はますます深刻となった。

 医療地域格差是正策の一つとして交通網の整備があげられる。しかし、四国は、県庁所在地である徳島市、高松市、高知市、松山市間は、文字通り四国の真ん中にある四国中央市を介して高速道路で繋がっているが、それ以外、とくに四国の右下、左下と呼ばれる地域への交通網の整備が十分ではない。徳島県においては、四国の右下、高知県に接する徳島県南部医療圏には県立海部病院があり、高知、愛媛県境に近い県立三好病院がある西部地区と南部地区が医療過疎地域となっており、比較的便利で、教育環境の整った東部医療圏に医療施設が集中している。


地域枠入学と寄附講座
 地域医療崩壊を回避するために2つの手が打たれた。2009年から各県に交付された地域医療再生基金を原資として始まった地域枠入学と寄附講座である。地域枠学生への奨学金支給と卒業生による地域医療支援、県や自治体からの寄附講座開設による医師確保と、地域医療の重要性を学ぶ講義や実際に地域に泊まり込み地域医療実習を行うことで、地域医療への関心を促そうとしてきた。
 徳島大学医学部の定員は現在114名で、地域枠で15名を入学させている。このうち10名程度が奨学金を付与される特別地域枠定員であり、残り5名が地域枠として推薦入学する学生である。2015年には初代の地域枠学生が卒業し、この原稿を書いている2017年度11月のマッチング結果でも特別地域枠卒業生8名は、全員徳島県内での勤務を希望しており、地域枠学生も4名が県内希望で、1名が東京での研修を希望している。
 特別地域枠制度は奨学金免除の条件として、9年間の県内指定施設での勤務および3年間の過疎地での勤務を義務付けており、本年から始まった新専門医制度による専門医資格の取得、大学院進学や学位取得に関して、彼らが不利益を被らないことが制度持続の要件であると考え、地域枠学生の研究マインドの涵養のためにも、大学院進学や留学へのサポートを行っていただけないかと訴えている。また、県境では住民が、県をまたいで診療を受けることが一般的な四国医療圏への医師確保を考えた場合、地域枠の縛りが県だけに限定されないほうがより現実的ではないかと考え、四国全体での地域枠を提唱している。

 寄附講座は2010年から始まった。徳島大学病院に県立三好病院、つるぎ町半田病院を中心とした西部医療圏を支援するため、地域外科診療部がスタートし、県立海部病院など南部医療圏を支援する地域産婦人科診療部と地域脳神経外科診療部、救急医療を支援するER・災害医療診療部が設置され、継続して医療・教育支援を行っている。医学部には地域医療教育と地域医療を担う総合診療医学分野が設置された。また、県以外にも愛媛県四国中央市の公立学校共済組合四国中央病院からの依頼で総合地域医療学分野が、20015年には地域医療人材育成分野が設置された。この年には徳島県厚生農業協同組合連合会の依頼で糖尿病・代謝疾患治療医学分野が設置され阿南共栄病院への医師の派遣が始まった。2017年からは高松市からの依頼で、地域消化器・総合内科学分野と地域循環器内科学分野が設置され、徳島県厚生農業協同組合連合会からの依頼で、地域運動器・スポーツ医学分野が設置され、吉野川医療センターへ医師を派遣している。

徳島総合メディカルゾーン構想
 徳島県の特徴として、東部医療圏にある徳島大学病院と徳島県立中央病院が隣接していることがあげられる。県立病院は、もともと陸軍病院であったものが終戦で国立徳島病院となり、1953年に徳島県立病院に移管された。空襲で被災した医学部と附属病院が戦後、隣接する徳島43連隊跡地に移ってきたのである。
 2005年、『徳島大学病院と県立中央病院は二つで一つ』のコンセプトのもと、「医療及び情報・教育の拠点化」と「効率的な運営」を目指す合意が徳島県と徳島大学の間で交わされた。徳島県立中央病院の改築に際し、同病院(460床)と徳島大学病院(696床)間に連絡橋が架かり(図1)、駐車場の共同利用や路線バスの乗り入れ、医薬品及び診療材料の共同交渉による調達や高額医療機器の導入調整と共同利用、保育所の共同運用になどが構想され、ドクターヘリ導入に伴う救急搬送体制の強化や周産期・医療機能の充実と医師の養成・確保を始め、救急医療体制の整備や高度先端医療の確保などに取り組んできた。その機能と効果を波及させるため、県立三好病院を「西部センター」に、県立海部病院を「メディカルゾーン南部センター」に位置づけ、西部では、公立3病院の連携強化による地域完結型の医療提供体制の構築、南部では、南海トラフ地震などの大規模災害が発生した場合でも、必要な医療が提供できる医療提供体制機能の維持、強化を図っている(図2)。2013年に策定された「第3次徳島県地域医療再生計画」でも、これらの計画を検証し、地域医療再生をより確かなものとするため、県下全域における「医療従事者の養成・確保」、「在宅医療環境の充実」、「災害医療体制の強化」を3本柱として取り組んでいる。
 徳島県の医師偏在を打開するためにも、このメディカルゾーンと徳島県内だけでなく四国内外の関連病院が、徳島大学における臨床系教室とフレキシブルなネットワークを形成し、充実したわかりやすい修練カリキュラムを提示することで、卒業生たちにとって魅力ある存在になることを目指している。

  図1
徳島総合メディカルゾーン構想
 
   
  2005年、『徳島大学病院と県立中央病院は二つで一つ』のコンセプトのもと「医療及び情報・教育の拠点化」を目指し、徳島県立中央病院の改築に際し、同病院(460床)と徳島大学病院(696床)間に連絡橋が架かり、駐車場の共同利用や路線バスの乗り入れ、医薬品及び診療材料の共同交渉による調達や高額医療機器の導入調整と共同利用、保育所(24時間運営)の共同運用を目指している。
   図2
 
  救急医療を担う医療人の育成、NICUを含めた周産期医療の拠点化、県立中央病院における小児救急医療の拠点化や「がん診療」の充実のための機能整備、過疎地域への人的支援、ドクターヘリ導入に伴う救急搬送体制の強化や周産期・医療機能の充実と医師の養成・確保に取り組んできた。県立三好病院を「西部センター」に、県立海部病院を「南部センター」として、西部では、公立3病院の連携強化による地域完結型の医療提供体制の構築、南部では、南海トラフ地震などの大規模災害時にも必要な医療が提供できる医療提供体制機能の維持、強化を図っている。  


おわりに
 過疎化が進む徳島県の地域医療の現状とその対策について報告した。莫大な借金を抱え、財政が逼迫する中、国立大学法人への運営費交付金が年々削減され、継続的な定員削減によって医学の根幹をなす解剖や生理学教室への教員補充さえ難しくなっている。少ない教員と事務職員で、地域枠で増えた学生を教育し、少しでも多く地域医療に振り向けよう必死で努力をしている基礎教室へは当然のことながら寄附講座の申し入れはない。寄附講座の特任教員は、研究室も与えられず、地域診療だけでなく学生の教育指導も行っている。新臨床研修制度に加え、2018年からスタートする新専門医制度においても地方大学卒業生の都市部への集中や地域医療を支えてきた内科・外科離れがますます助長されているようである。人手不足による過重労働という負のスパイラルに陥った地方公立病院の労働環境に対して、労働基準監督署による査察が入り、それがマスコミを通して喧伝されることにより、ますます地方離れが進むことが懸念される。地方自治体が本当に疲弊し、地域枠入学や寄附講座の予算さえ組めなくなった時のことなど想像することさえ恐ろしい。地域医療を守る診療科へのインセンティブ強化や四国内の大学間連携を推進する仕組みづくりが必要だと感じている。