*第65回* (H29.12.22 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は岐阜大学での取り組みについてご紹介します。 |
岐阜大学医学部医学科地域枠推薦入試開始後10年、 岐阜県医師育成・確保コンソーシアム設立後8年~現状と課題 |
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(1)岐阜県の医師確保の現状 ① 岐阜大学医学部地域枠推薦入試 岐阜県の医師数は全国平均に比べかなり少なく、2004年の時点で全国43位(ワースト5)であった。その対策として2008年度から医学部医学科では「地域枠推薦入試」を開始し、2008年度10名、09年度15名、10~14年度25名、15年度以降28名を選抜し、医学部医学科の入学定員は80名から110名に増えた。地域枠は入学要件に「岐阜県医学生第1種修学資金」の受給が必須であり、月額100,000円の修学資金に加え、授業料、入学金相当額が支給される。その返還免除条件として、卒後県内臨床研修病院(23病院)での初期臨床研修2年+9年間県内医療機関での指定勤務が課せられている。また地域枠以外の入学者および他県の大学医学部在学中で将来岐阜県に戻る希望の学生が任意に受給できる「第2種修学資金(月額100,000円の支給のみ、貸与年限は開始から卒業までの1~6年間)」と合わせ、平成29年度までの10年間に390名(第1種234名、2種195名)の受給者を数えることになった。なお、2013~16年の4年間で、医学部医学科入学者全体に占める県内出身者の割合は39.1~44.5%で、そのうち半数以上は地域枠であった。また、各圏域の県内出身者の中で地域枠が占める割合は、岐阜:42.5%、西濃:58.8%、中濃:60.0%、東濃:82.4%、飛騨:59.5%であり、岐阜圏域以外で非常に多くなっていた。実際に地域枠入学生の出身地は県内の大方の市町村を網羅しており、県内出身で将来故郷の地域医療に貢献する意識の高い学生が確実に岐阜大学医学部に入学する状態が続いている。 ②岐阜県医師育成・確保コンソーシアム これら多数の医師が初期臨床研修および指定勤務を行う上で十分な指導体制を提供し、医師が安心して円滑かつ効果的にキャリアアップが図れるようサポートするため、2010年9月に結成されたのが「岐阜県医師育成・確保コンソーシアム」(図1、HP:https://www1.gifu-u.ac.jp/~dr_conso/)である。 本コンソーシアムは「岐阜県地域医療支援センター」の位置づけであり、事務局は当地域医療医学センター内に設け、教育職員2名(助教)と事務職員2名の体制を組み、事務局長(企画調整委員会委員長)は当地域医療医学センター長(教授職、筆者)が兼務している。県職員の出向は今のところないが、その運営予算はすべて岐阜県から調達される。以下に主な業務をまとめる。
③ 岐阜県内勤務医師数の動向 2004年以降、県内の勤務医指数は右肩上がりに増加し、地域枠推薦入試開始による医学部定員増も寄与していると考えられるが、2014年の時点では人口10万人当たりの医師数は全国37位(ワースト11)まで回復したものの、全国平均233.6に対し、岐阜県は202.9とまだかなり少ない。同様に各圏域でも増加傾向ではあるが、岐阜市を中心とする県南の人口密集圏域である岐阜圏域のみは266.7で全国平均より上回っているものの、その他の圏域では、西濃160.0、中濃146.7、東濃:172.9、飛騨175.8と、いずれも全国平均より大きく下回っている状況に変化はなく、医師数の絶対的不足と地域偏在は是正されていない。 (2)岐阜県の医療・医師確保の課題 ① 岐阜県医学生修学資金貸与者の制度離脱の問題 岐阜県医学生修学資金貸与者のうち、その返還免除条件を満たさず制度離脱した者は、2017年10月末段階で、第1種(地域枠):2/234(0.85%)、第2種:21/156(13.5%)であった。これら23名の離脱者のうち、9名(39.1%)は初期臨床研修マッチングの際に、岐阜県医学生修学資金貸与者であることを採用病院に伏せて、他県研修病院にマッチングしていた。また8名(34.8%)は初期臨床研修終了後の時点で離脱した。パートナーとの関係が理由である者も5名(21.7%)いた。 ② 医師偏在是正策の評価 (図2)は修学資金貸与医師の圏域別勤務先を示す。現在のところ、第1種も第2種も臨床研修およびその後の指定勤務とも、医師数が比較的充足している岐阜圏域に集中しており、医師の地域偏在にほとんど寄与していないことが分かる。一方、指定勤務開始の段階での選択診療科は、内科、外科の順に多く、国や県において医師不足診療科として特に重点対策を行っている産婦人科・小児科・麻酔科・救急科はこれらと比して少ない。ただし、救急科を除いて単独診療科としては比較的多くの医師が確保できてきていると思われる。なお、これらの医師143名のうち、岐阜大学卒業は120名(83.9%)、他県大学卒業者は23名(16.1%)であった。また、指定勤務中の入局率は67/81(82.7%)と比較的高く、ほとんどが岐阜大学の医局であったが、名古屋大学3名、福井大学1名と隣県の大学医局に入局している者も散見される。どの医局にも、コンソーシアムから指導医師に制度ルールをきめ細かく説明するためのコンタクトを頻繁に行って、制度の円滑な運用・医師不足病院への人事派遣の推進を目指しているが、今のところ医師の地域偏差の是正に関してはまだ十分な成果を得られていない。 (3)課題に対する改善策 ① 岐阜県医学生修学資金返還免除要件の改訂 医師の地域偏在を是正するひとつの方策として、2017年度から岐阜県医学生修学資金受給者の返還免除要件の見直しを行った(表1)。まず地域枠(第1種)には、岐阜県の指定する「岐阜市周辺の岐阜圏域以外のへき地医療等医療機関に2年勤務すれば、指定勤務を1年短縮し8年間にするパターン、「岐阜圏域以外の病院の医師不足診療科(産婦人科、小児科、麻酔科、救急科)に5年勤務すれば、同様に指定勤務を1年短縮し、8年間にするパターンを設けた。これらは新たな登録は不要で、実際の勤務実績により確認することにしている。第2種においては、指定勤務(受給年数と同じ年数)期間の半分の期間の「知事の指定する医療機関勤務」の期間のそのまた半分を岐阜圏域以外の医療機関で勤務することにしていたものを、「知事の指定する医療機関勤務期間」はすべて岐阜圏域以外の医療機関に勤務することに改正した。 ② 岐阜大学医学部地域枠推薦入試の見直し 平成31年度入試からはさらに現行の地域枠制度改正し、初期臨床研修後の指定勤務を9年から7年に短縮し、知事の指定する医療機関の勤務期間を4年として、その間はすべて岐阜圏域以外の医療機関に勤務する「岐阜県コース」と、4年間は岐阜圏域以外の過疎地等の医療機関に勤務する「地域医療コース」の2つに変更するべく調整中である。「地域医療コース」は岐阜圏域以外の医師不足地域(過疎地域、豪雪・特別豪雪地帯、振興山村地域、特定農山村地域に該当する市町村または市町村の一部地域)の出身者が当該市町村長の推薦を受ければ受験資格をもつ。 ③ 初期臨床研修マッチングにおける工夫 厚生労働省の指導もあるが、2015年度から初期臨床研修マッチングの際に、岐阜県医学生修学資金受給者であることを必ず自ら採用希望病院に伝えるよう指導するとともに、「岐阜大学医学部医学科卒業見込み証明書」に岐阜県医学生修学資金受給者であることを明記するようにした(学生には個別に説明して理解を得た。)。 ④ 岐阜県医師育成・確保コンソーシアムの組織改編 コンソーシアム構成病院は、岐阜県内でも研修医が比較的数多く集まり、その後の指定勤務にも医師が勤務先として選択している現状ではあるが、構成病院以外の特に地域・へき地の中小医師不足病院への医師派遣がまだ十分に行われていないことから、2018年度からは構成病院以外で参加希望があった初期臨床研修病院12施設をメンバーとして加え、それらの病院の現状をより詳細に把握して共有し、医師地域偏在の解消に向けた取り組みを促進できるようにする予定である。 ⑤ 特定診療科専門医取得支援事業(産科医等不足診療科医師確保研修資金) 岐阜県健康福祉部医療福祉連携推進課の事業ではあるが,産婦人科・小児科・麻酔科・救急専門医を目指す医師に対して、初期臨床研修後に専門医取得支援(産科医等不足診療科医師確保研修資金)事業を2015年度から実施している。 (4)おわりに 岐阜大学医学部医学科、医学部附属地域医療医学センターおよび岐阜県医師育成・確保コンソーシアムが強固に連携して、この10年間岐阜県の医療確保のためにシステム整備を行ってきたが、まだまだ課題も多い。当面2年間は現行地域枠制度が継続することが決定したが、その後は不透明である。今後、しばらく大量に卒業する地域枠や岐阜県医学生修学資金受給医師の適切な県内勤務、とくに地域偏在や専門診療科偏在を解消するべくさらに県内指導者が一丸となって取り組んでいきたいと考えている。 |