【概要】
富山大学は、平成27年度に「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」に採択され、地元就職率10%向上(平成26年度比)を数値目標に掲げ、「未来の地域リーダー」を育成し、地(知)の拠点として貢献することを公表している。この大学方針に則り、医学部では地域医療人育成の体制強化に取り組んでいる。平成28年度から卒業認定・学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)の改訂作業が行われており、平成29年7月に最新版が公表される予定である。ポリシー4本柱の1つには「社会貢献力」が挙げられ、地域医療の理解と実践が盛り込まれている。
本学では、地域医療人育成のための特色ある教育科目として、1年次生を対象とした「医療学入門」、3~4年次では「地域医療に関する統合カリキュラム授業」、5年次では「地域連携型臨床実習」を開講している。このほか、各診療科が独自に行う地域医療教育が開講されているが、卒前教育と卒後臨床研修がうまく繋がっていないという問題が指摘されており、卒前教育・卒後臨床研修(初期・後期)・専門医取得までをシームレスに支援する「医師キャリアパス創造センター」を平成28年8月に新たに設置した。本センターは、医学教育部門・卒後臨床研修部門・専門医養成支援部門から構成され、3部門を統括した企画室(マネジメント部門)において、入学試験分析から入学後の学業成績、CBT・OSCE、卒業試験・国家試験、研修進路から専門医取得までのデータ集積・分析を行うIR機能を有している。さらに、平成29年4月より富山県の出資による寄附講座「地域医療総合支援学講座」を附属病院に設置し、両者が連携して地域医療人を継続してフォローできる体制を強化した。
【特色】
1)卒前教育から卒後研修・専門医育成までシームレスに地域医療人を育成する「医師キャリアパス創造センター」の設置
平成28年8月に、医学部と附属病院が一体となった教育・診療地域医療拠点形成を行う「医師キャリアパス創造センター」を設置した。本センターの目的は、卒前から卒後にわたり地域に貢献できる人材育成教育のため、各講座における教育体制の強化、特に地域医療を6年間一貫して教育できる体制とカリキュラムを確立することである。本センターは、地域医療を担う人材のキャリア形成を統括するため、既存の医学教育学講座、医学教育センター及び卒後臨床研修センターの機能を有機的に統合したものである。(図1)
①医学教育部門は、卒前医学教育の企画・立案・点検・評価及び卒前医学教育に関する調査研究(IR)、学生支援・教育支援等を行う。②卒後臨床研修部門は、各診療科の卒後研修プログラムの企画・立案・広報・募集活動及び研修協力病院との連携調整、研修医に対する支援、研修レポート監査、臨床研修プログラムの評価等を行う。③専門医養成支援部門は、各専門医養成プログラム整備、支援、広報、リクルート活動及び連携病院間の企画調整、専門医養成プログラム登録医師に対する支援、医師の診療科別地域分布の調査・分析・プログラム評価等を行う。これらの3部門を統括し各部門の連絡調整を行う部門として企画室(マネジメント部門)を置き、横断的組織内研究IR機能を強化し、FD企画運営や医学教育・医療技術シミュレーター管理等を行う組織を構築した。これにより卒前・卒後・専門医取得までの一貫した教育・研修を実践できる体制が構築され、医学部長をセンター長として専任教員2名(准教授、助教)、兼任教員及び事務職員を配置して活動を行っている。専任教員は医学部内で人件費を確保し、医学部長裁量経費で設備改善やシミュレーター整備等を行った。
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図1 医師キャリアパス創造センター組織図と活動内容 |
2)地域医療人育成を担う富山県寄附講座「地域医療総合支援学講座」の設置
平成29年4月より、富山県出資の寄附講座「地域総合支援学講座」を本学附属病院に設置した。主な目的は(1)富山県内の地域医療に関する課題を検証し、公的病院が抱える医師偏在の状況を把握し、医師派遣問題の解決に向けた対策を検討するとともに、地域に根ざす人材育成支援を推進し、富山県の地域医療の充実を図ること。(2)高度な医療を提供するために、専門医資格取得のための支援体制を確立し、県内医療の質の向上を図ることである。本講座は、富山県、県内公的病院、医師会等との連携を推進し、医師偏在に関する現状を把握するとともに、医師派遣問題について調査研究を行い、解決策を検討することを柱としており、「医師キャリアパス創造センター」と連携・協働し、県内の地域医療に従事する医師の定着率向上を推進する。卒前教育に関しては、地域枠・特別枠を含む学生のキャリアパス形成を支援し、県内公的病院の臨床研修マッチ率の向上を目指す取り組みを行う。
3)地域連携型実習の取り組み
富山大学では、5年次生に対して地域医療臨床実習を実施している。この実習では、地域医療の実態に触れるとともに、地域医療機関での実習体験に基づき、地域包括ケアにおける地域住民との繋がりを理解し、地域ヘルスケアに貢献するための地域医療人の役割について習得することを目標としている。
平成25年度の開始当時は、地域5病院での1週間(宿泊込み)の実習プログラムであったが、平成29年度では実習先が9病院に増加し、主に地域の中核病院および中小病院が参加している(図2)。郊外の6病院は宿泊込みの実習であり、大学周辺の3病院は通院実習となっている。1週間のプログラムは各病院の特徴を生かしたものになっているが、共通した実習内容としては、①地域のプライマリ・ケアを体験する(プライマリ・ケアの理念:近接性、包括性、統合性、継続性、責任性および関係性)、②病診連携・病病連携、③地域の救急医療、④在宅医療、⑤多職種連携のチーム医療、⑥保健予防活動、⑦施設特有の活動、⑧院外実習での医学生としての態度(挨拶、時間厳守、コミュニケーション)などがある。毎年、実習後アンケートによる評価を行い、各病院へフィードバックすることにより、実習内容は年々充実し、学生の満足度は高いものになっている。
6年次生は、選択制臨床実習として臨床研修病院を中心とした大病院において、専門診療科を中心とした実習を行っている。本学総合診療部の実習では、富山の近隣県(石川、福井、新潟、岐阜)の4施設でへき地医療実習を3~4週間にわたって実施している。
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図2 5年次地域医療実習日程と参加病院 |
4)卒後臨床研修における地域医療人育成の取り組み
初期臨床研修制度が必修化されて14年目を迎え、2年間のうち1ヶ月間実施する地域医療研修はほぼ定着し、問題なく実施されている。後期研修にあたる専門医研修は制度上の課題を抱え、いまだに混沌とした状況ではあるが、平成30年度からは全19診療科で開始される予定である。19番目の総合診療専攻医研修プログラム(図3)は、11病院と5診療所が連携して作成され、最短では3年間で修了となるが、自治医大出身の医師は義務年限内で、また、医師不足で困っている病院へは研修とは別に追加期間を設けて応援していくプログラムとなっている。現時点では14名の専攻医が登録されているが、新制度では内容の充実と連携強化が求められる。
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図3 とやま総合診療専攻医研修プログラム |
【展望】
1)卒前教育から卒後研修・専門医育成までシームレスな地域医療人育成
2)地域医療人育成を担う富山県寄付講座「地域医療総合支援学講座」
3)地域連携型実習
4)卒後臨床研修(初期研修および専門医研修)
上記の4項目については、医学部全体での取り組みとして共通認識がなされている。大学外研修施設や富山県との連携も進み、運営組織の設置や取り組みの達成目標が明確になった。地域医療実習や研修を充実させることにより、富山県内および周辺地域の医療向上に大いに貢献できると思われる。しかし、新ディプロマ・ポリシーである「社会貢献力」を修得するためには、学内の診療科間や学外の地域医療機関,富山県等との連携について、更なる相互理解と不断の努力が求められる。
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