*第58回*  (H29.5.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は福井大学での取り組みについてご紹介します。

福井大学医学部の地域医療を支える取り組み
文責 :  福井大学地域医療推進講座 教授 寺澤 秀一 先生
 本学の地域医療への取り組みは平成25年10月30日に一度掲載されたので、今回はそれ以降の新しい取り組みを幾つか紹介したい。

1.地域プライマリケア講座
 高浜町からの寄附講座として平成22年にスタートした地域プライマリケア講座は、当初は高浜町を訪れる医学生、初期研修医、家庭医学専攻医の教育支援が中心だったが、25年度以降は行政、町民を巻き込んだ地域医療を推進する活動が高浜町全体に拡大し、最近、全国展開に至った。
① 健康のまちづくり友好都市連盟http://kenko-machizukuri.net/friendship/
地域医療の推進とは健康な町づくりであるというコンセプトを全国に拡大し、健康のまちづくり友好都市連盟の発足に至った。平成28年度には北海道稚内市から宮崎県小林市まで、15の自治体が加盟した。平成29年3月4日・5日には、第1回健康のまちづくりサミットが福井県高浜町で開催され、13加盟自治体より81名の参加があった。平成29年度以降も、加盟自治体は徐々に増加する予定である。平成29年度は宮崎県延岡市、平成30年度は石川県加賀市にて、健康のまちづくりサミットが開催される予定である。
 
(第一回健康のまちづくりサミット;福井県高浜町)

② 市民-行政-医療-介護 協働創出ワークショップ「コラボ☆ラボ」
http://www.facebook.com/collabolabo2014/
 地域医療や健康のまちづくりは、地域の主役である市民を中心に、市民を制度で支える行政と、ヘルスケア関連専門職が互いに尊重しながら、違う立場同志が互いを理解し合い、協働が生まれるきっかけを提供するためのワークショップ「コラボ☆ラボ」を立ち上げ、平成26年度~28年度の間に、全国18カ所で開催した。毎回3~6名のコラボ☆ラボ☆ボランタリー登録者が参加した。コラボ☆ラボ☆ボランタリーへの登録者数は、平成28年度末時点で96名にのぼっている。

 井階友貴講師を中心としたこの講座の活動が全国展開となるうちに、高浜町で総合医専攻研修を開始する医師が平成29年4月20日から2名赴任し、長年、医師不足に苦悩していた若狭高浜病院の医師確保にも大きな前進を得た。

2.地域医療推進講座
 福井県からの寄附講座として平成22年度にスタートした地域医療推進講座は特命医師派遣、健康推進枠の医学生の教育、県内研修病院への出向教育、レジデントキャンプの開催などが実を結び、28年度の県内初期研修医のマッチングは過去最多となった。
 なお、当講座の取り組みは地域医療推進の軌跡(地域医療推進講座記念誌、2017年3月)にまとめたので参考にされたい。
① 特命医師派遣の増加

 県内の医師不足の情報を県が把握し、それに基づいて本学医学部から医師派遣をする特命医師派遣制度の当初の目標は毎年5名程度だったが、医学部全科をあげて取り組み、毎年10名程度(平成22年度;7名、23年度;10名、24年度;11名、25年度;9名、26年度;9名、27年度;11名、28年度;13名、29年度;11名)の派遣を維持し、地域医療を支えている。

多職種連携セミナー
 平成26年度から当講座が主体となり、腫瘍病態治療学講座、地域看護学講座、総合診療部、がん診療推進センターなどと協力して、年3~4回(26年度;3回、27年度;4回、28年度;3回)開催し、毎回50人以上の参加者を維持している。


(在宅医療における多職種連携セミナー 平成29年3月7日 春江病院)
③ 健康推進枠医師の支援
 卒前に集中していた教育支援は、平成29年度に福井県健康推進枠の第一期生4名が専攻医になる機会とあいまって卒後支援にも拡大した。彼等が初期研修2年目に入った平成28年度から、県の担当者と共に当講座の教員が個人面談を開始し、進路相談、キャリア支援を本格的に開始した。今後の健康推進枠医師の増加につれて、進路、入局、専門医取得、大学院、義務年限の過ごし方についての相談役として、また病気、妊娠、出産などによる中断などの際のアドバイザーとして、医師としてのキャリアだけでなく彼等の人生をも支援することが重要な責務となるであろう。

3.博士課程「地域総合医療学コース」
 地域医療を担う人材養成の指導者を増やすべく平成25年度に博士課程に新設された「地域総合医療学コース」には本学医学部附属病院の総合診療部医局員を中心に、毎年入学者があり、平成29年度には10名に至った。学位取得後に彼等が大学や地域の施設で診療、教育、臨床研究の指導者として活躍する時期が近づいている。

今後の課題
 福井県健康推進枠出身医師は平成30年度から毎年約10名が専攻医となる。彼等を教育してきた大学側は入局者として大きな期待をし、奨学金を出した県は医師不足の地域での貢献を強く期待している。どちらかに偏移し過ぎないでバランス良く、奨学生医師が目指す専門医取得と医師不足の地域での貢献の両立が、新専門医師制度が揺れ動くこの時期に、うまくできるかどうかが大きな課題であろう。

参考文献
地域医療推進の軌跡(地域医療推進講座記念誌、2017年3月)