*第56回* (H29.3.22 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は鳥取大学での取り組みについてご紹介します。 |
鳥取大学医学部の地域医療人育成の取り組みについて |
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1.地域医療教育の概要 鳥取大学医学部は山陰エリアの医療人育成のため、長い歴史にもとづいて医師育成をおこなってきました。しかし、新臨床研修制度とともに鳥取大学卒業生の多くが初期研修の場を県外に求めるようになり、鳥取大学病院へのマッチ率が低下し、新しい人材供給が停滞しました。その結果、とくに鳥取県郡部の地域医療を支えてきた人材派遣機能が徐々に弱体化し、郡部の自治体病院の医師不足だけでなく、一部地域で救急・産婦人科などの専門医が不足する事態が生じています。この状況に対して鳥取大学は医学部医学科の「地域枠」学生の定員を増やし、地域医療実習などの体験参加型学習を増加させました。地域枠制度は平成18年度から導入され、現在、貸付条件により、推薦入試:地域枠(5名)、特別養成枠(5名:自治医大と同条件)、一般入試(前期):臨時養成枠(鳥取大学:14名以内)を設けています。奨学金の返還免除要件は地域枠の種類によって異なりますが、いずれの地域枠でも本人のキャリア形成を考えて、専門医取得や大学院入学もできるように大学病院研修を含めた柔軟な運用に配慮しています。また、当医学部は他県の地域枠学生(兵庫県:2名、島根県:5名、山口県:1名)も受け入れており、現在では地域枠学生が計154名在籍しています(下図参照)。また、鳥取大学と鳥取県の協力のもと、地域枠学生を支援し地域医療教育をおこなう教室として、平成22年10月に鳥取大学医学部医学科に「地域医療学講座」が設立されました。 2.地域医療学教育の特徴 従来の医学教育は、医学の基礎と疾患病態を系統講義で学習し、大学病院内でのクリニカルクラークシップで技能トレーニングをおこなうという方式でした。大学病院は地域の3次医療機関として先端医療を提供する機関であり、医学の細分化に伴って臓器別に分化しているため、専門別分化がすすんでいます。その結果、学生の接する患者層もすでに診断のついた紹介患者が多くなり、プライマリケアの前線のようなセッティングでの学習が難しくなっています。とくに、高血圧・糖尿病のようなcommon disease、高齢者が多く抱える認知症、骨運動器疾患、心血管疾患の複合した状況、非典型的で未分化な疾患の診断など、リアルな現場での体験が圧倒的に不足しています。この臨床経験の不足は、試行段階の卒業時PostCC OSCEにおいて、患者からの情報収集や臨床推論能力の乏しさにあらわれています。さらに、高齢者特有の医学以外の生活・介護の問題を含めて包括的にとらえる視点や医療介護スタッフと連携する能力も求められる時代です。今後の医学教育では、このような統合的アプローチを育てることが求められています。地域医療学はその水先案内人にあたります。地域医療の教育では、専門別に細分化された大学病院だけでは不十分であり、地域の病院・診療所・行政機関・福祉施設などに出かけて現場スタッフと接し、頻度の高い疾患(common disease)や高齢者特有の病態を経験させることが肝心です。この実現のためには、大学病院内だけでの臨床実習では不十分であり、地域医療実習のような地域基盤型実習が不可欠です。地域医療学講座は、地域の第一線(クリニック、自治体病院、地域中核病院、行政、介護関連施設)の協力をいただきながら、上記目標の達成をめざし教育に取り組んでいます。 具体的には、1・2年でのヒューマンコミュニケーションでは近隣保育園を訪問し、幼児保護者と接してコミュニケーション訓練をおこない、高齢者施設では認知症患者を含む高齢者と1:1で接します。早期体験実習では近隣のクリニックを訪問しプライマリケアの姿をみること、2年生では基礎医学セミナーで先進的な地域医療実践者に特別講義をお願いしています。3年生の基礎配属では地域枠学生(特別養成枠)とともに自治医大を訪問し同じ立場の学生たちと交流し、家庭医療を学ぶために奈義ファミリークリニックでの研修を体験してもらいます。3年生の社会医学チュートリアルでは、近郊の大山町や日南町で家庭訪問を行うなかで生活や介護など医療以外の課題を考えてもらいます。4年生の地域医療体験では、鳥取県内のクリニック・自治体病院を訪問し、さまざまなセッティングで地域医療機関が地域医療の中でどのような役割を果たすのか学習します。6年生での臨床実習II(学外総合病院実習)では、地域中核総合病院に2-4週間滞在し、より臨床に即した参加型研修をおこないます。
3.今後の課題と展望 |