*第54回* (H29.1.23 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る | |
今回は宮崎大学での取り組みについてご紹介します。 |
既成の価値観にとらわれない地域医療と医療人育成のスキーム変革 ~宮崎大学医学部の取り組み~ |
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序文 宮崎大学医学部の前身は一県一医学部を掛け声に昭和49年に第一期生を迎えた宮崎医科大学である。地域医療の充実は当時からの医学部の主要な責務の一つである。爾来、40年以上が経過し、卒業生が宮崎県の医療を支えるようになって来た。しかし、大きく時代が変化する中で宮崎の地域医療充実のために医学部がすべき事は山積みである。大学は教育機関であり、人材育成の専門機関である。この機能を発展・充実させて多様で優秀な医療人材を輩出することこそ王道であろう。医学教育も時代に即した変化を遂げる必要があり、地域一体型の医学教育には行政や医師会との密接な連携が不可欠となる。 ●「オール宮崎医療人育成体制」を目指した宮崎大学医学部の取り組み 1. 医療人育成支援センターの新設 卒前医学教育における医学教育分野別認証評価の導入、平成32年度の大幅な見直しを控えた臨床研修制度、平成30年度に予定されている新専門医制度など、医学教育・医師養成制度は現在大きな変革期を迎えている。この状況下、宮崎大学医学部では、卒前教育6年、臨床研修2年、専門医養成3年の11年間を通して一貫した医師養成を支援・実践する臨床医学教育部門に加え、看護実践教育部門、医療シミュレーション教育統括部門、医療人キャリア支援部門の4部門を統合した医療人育成支援センターを2015年10月に新設した(図1)。本センターが附属病院の卒後臨床研修センターも実質的に管理・運営しており、これに合わせて、事務体制も卒前・卒後担当部署を統合した。このような形で卒前・卒後・専門医を縦断的にマネジメントできる教育部門は全国的にも少なく、上記4部門を一元化した組織は全国的にもあまり例がない。センター長は医学部長が、副センター長は臨床医学教育部門長がそれぞれ担当し、現在、医師5名、看護師2名がこの新たな教育ユニットの専従教員として活動している。 看護実践教育部門では、宮崎における卒前・卒後看護教育の充実を図るため、医師・看護師養成において共通修得項目となるコミュニケーション教育、医療安全や医療倫理教育、フィジカルアセスメントや臨床推論等の基本的な部分で教育資源や方法を積極的に相互共有できるような体制作りを進めている。医療シミュレーション教育統括部門では、医学生や研修医教育をはじめ、薬剤師対象のフィジカルアセスメント実習、女性医師・看護師復職支援実習など、多職種技能教育の場として、県内の医療者にも開かれた公益性の高い施設として地域貢献を果たしていく準備を整えている。医療人キャリア支援部門では、医学生・看護学生に対してキャリアの考え方・心構えや情報提供をテーマとする講義や説明会を積極的に行い、臨床研修、専攻医取得、大学院進学、国内外留学、臨床と研究のバランス、働く場の選択など、多様なキャリアパスのあり方を提示している。 2. 行政・医師会・大学の協力連携体制の構築 平成16年に開始された新臨床研修制度への対応の一環として、宮崎県では「宮崎県臨床研修運営協議会」が設置され、行政(宮崎県)、医師会、大学が一体となって県内臨床研修の体制整備と質向上、研修医確保対策を進めてきた。しかしながら、連携の形を模索する中で宮崎県の研修医数は低迷が続いたため、平成22年には宮崎県地域医療支援機構が新たに設置され、研修説明会への宮崎県合同ブースの出展、指導医養成事業や総合診療医育成事業などを積極的に行ってきた。平成28年度からは、この地域医療支援機構専属医師の一人として本学医療人育成支援センター教授が就任し、7基幹型病院合同企画の開催(宮崎県合同基本手技合同実習およびセミナー、宮崎内視鏡外科アニマルラボセミナー:https://www.youtube.com/user/MyaohTV)、研修担当事務職へのワークショップ開催、地域枠学生との交流など、本学を軸としたオール宮崎体制の活動が強化されている。また、新専門医制度に対してもオール宮崎での専攻医を受け入れと養成を充実させるため、前述の協議会を「宮崎県臨床研修・専門研修運営協議会」へ拡充し、基本19領域の専攻医育成について宮崎大学と県(地域医療支援機構)が強固な連携がとれる体制を構築している。 3. 多職種連携に主眼を置く総合診療医の育成 平成27年度より本学が指定管理者となって宮崎市立田野病院および併設する宮崎市介護老人保健施設を運営しているが、その重要な目的の一つが、本学医学生および研修医が地域医療をon the job trainingで実践的かつ能動的に学習体験する場の提供である。平成28年度より本学医学科5、6年生の臨床実習が開始され、大学からも地域医療・総合診療医学講座の教授を筆頭に、大学教員が地域医療の教育・指導に当たっている。また、臨床研修における地域医療研修の場としても定着しつつあり、平成28年度は6名の研修医がローテーションし、今年からは本学研修修了者が新たにスタッフとして医学生や研修医の直接指導も担当している。地域医療・総合診療医学講座の教員は、地域総合医育成サテライトセンターを拠点として、医師不足地域である県南部(日南・串間地区)においても地域貢献を継続している。今年度は、文部科学省事業「地域包括ケアを担う医療・保健・福祉の多職種連携教育コーディネーター養成プログラム開発事業」も採択され、宮崎県内の多職種連携教育にも積極的に取り組んでいる。 |