*第52回*  (H28.11.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は弘前大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療を支える弘前大学医学部の取り組み
文責 : 弘前大学大学院医学研究科長・医学部長 若林 孝一 先生

 弘前大学のモットーは「世界に発信し、地域と共に創造する」です。弘前大学医学部の歴史は古く、1944年(昭和19年)の官立青森医学専門学校を嚆矢とし、東北地方では東北大学医学部についで二番目に設立された医学部です。これまで6,287名の卒業生を世に送り出し、青森県を中心とする地域医療を支えてきました。今回は、①地域医療を支える人材を確保するための入試制度、②地域医療に関する教育、③自治体や教育委員会との連携の3点について述べてみたいと思います。
 入試に関しては、平成18年度入学者(定員100名)から地域定着枠(20名)を設けました。その後、入学定員と地域定着枠の数はともに増えて、現在132名のうち最大67名が地域定着枠となっています(2016年5月時点)。医学科の入学定員(1年次)は112名であり、2年次から全国最大規模の学士編入学生20名が加わり132名となります。入試形態としては学士編入学に加え、AO入試と一般入試があります。AO入試(定員50名)は東北6県と北海道の高校の卒業生(現役または1浪)を対象としており、卒業後は本学医学部またはその関連施設で12年以上勤務することを確約できる者としています。AO入試50名のうち30名は青森県内出身者を選抜しています。一般入試(定員62名)のうち12名は青森県定着枠であり、全国どこの出身であっても受験できますが、AO入試と同様に卒業後は本学医学部またはその関連施設で12年以上勤務することを確約できる者としています。さらに、学士編入学20名のうち最大5名は県内枠(青森県内の高校または大学の卒業生)としています。これによって毎年40~50名の青森県内出身者が医学科に入学しています。
 地域医療に関する教育としては、早期臨床体験実習(1年次)、社会医学実習(3年次)、地域医療学(4年次)、地域(へき地)医療実習(6年次)があります。早期臨床体験実習では附属病院に加え、津軽地域の学外実習施設(障碍者支援施設、児童発達支援センター、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など)で実習を行います。社会医学実習では、弘前市岩木地区で11年にわたって実施している「岩木健康増進プロジェクト」という大規模な検診事業に参加します。地域医療学の授業では、青森県の保健医療システムや疾病構造、地域における災害医療、自殺対策、国際医療について学び、将来医師として取り組むべき地域医療の課題と進むべき方向性について考えます。クリニカルクラークシップでは4週間の地域(へき地)医療実習を義務付けており、12のへき地医療実習病院のうち一つを選びます。このうち大間病院(大間町)、尾駮診療所(六ヶ所村)とはインターネット回線で附属病院とを結び、双方向型の実習報告会を開催しています。これらの教育を通して、郷土を愛する医師の育成を目指しています。
 地域医療に加え、地域における保健活動の推進のためには自治体などとの連携も重要です。これまで弘前大学大学院医学研究科には青森県や県内の市町村、秋田県大館市のご支援により以下の7つの寄付講座が設置(終了したものも含む)されています。
・地域医療学講座(つがる西北五広域連合からの寄付講座、平成22年度~)
・地域健康増進学講座(弘前市から、平成24年度~)
・地域がん疫学講座(青森県から、平成25~27年度)
・大館・北秋田地域医療推進学講座(秋田県大館市から、平成25年度~)
・地域総合診療医学推進学講座(三沢市から、平成26年度~)
・地域救急医療学講座(弘前市から、平成28年度~)
・総合地域医療推進学講座(青森県から、平成28年度~)
 これらの寄付講座は地域で活躍する人材の育成、地域住民の健康福祉の向上に役立っています。
 さらに、医学研究科では平成26年4月に「子どものこころの発達研究センター」を設置するとともに、弘前市や周辺市町村の教育委員会と連携に関する協定を締結しました。活動としては、子どもに対する健康教育、子どものこころの問題に関する研究と支援、将来医学生となるべき人材の発掘などがあげられます。また、弘前市内の中学生と附属病院で働く医師との交流(写真1)を弘前市教育委員会と連携し毎年行い、中高校生を対象とした外科手術体験セミナー(写真2)も青森県との共催で県内各地で行っています。

 
  写真1:中学生と医師との交流会

 
  写真2:高校生に対する外科手術体験セミナー

 地域医療の充実は地域医療機関への医師派遣だけでなく、包括的に行ってゆく必要があります。特に青森県は全国一の短命県であり、短命県の返上は県民全体の悲願でもあります。平成25年度に弘前大学が採択された革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)事業における「認知症・生活習慣病研究とビッグデータ解析の融合による画期的な疾患予兆発見の仕組み構築と予防法の開発」拠点は、医学研究科を中心として4年目を迎えました。本事業は青森県の短命県返上に向けた取り組みであると同時に、社会実装をも目指す大きな事業です。