*第50回*  (H28.9.20 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は旭川医科大学での取り組みについてご紹介します。

国立大学医学部の役割
文責 : 旭川医科大学教育センター 教授  蒔田 芳男 先生
  旭川医科大学学長  吉田 晃敏 先生
.はじめに
 国立大学医学部長会議のHPでの「地域医療を支える国立大学医学部の役割」であるが、本学は第11回(平成25年1月21日)を担当させていただいた。当時を振り返ってみたい。

① 入試改革
 本学では、平成20年に第2学年後期編入学に5名の地域枠を導入し、平成23年には推薦入試(道北・道東特別選抜)10名、AO入試(北海道特別選抜)40名を加え地域枠を55名とし、少なくとも入学定員の45%が北海道出身者となる改革を行った。

② 高大病連携によるふるさと医療人育成の取組
 医師の地域偏在を背景とする医療過疎の増大には、地域大学単独の学部教育の改善だけでは解決しない要因を含んでいる。地域に医師が残る条件としては、奨学金の有無よりも、「地域で生まれ育った」、「地域で生活したことがある」などの要因が大きく関与しているとの自治医科大学の報告1)や、北部ノルウェーでの実践の結果として「人的資源の少ない地域で専門的職業人を育成するには、その地域を良く知っていて、そこに居住勤務することが自然で居心地がいいと思う若い人を教育すること」との報告2)がある。本学は、この発想に基づいて地域社会が地域の医師を育む視点を導入した「高大病連携によるふるさと医療人育成の取組」(平成20年文部科学省教育GP)を展開してきた。

 本学における上記二つの取組は、独立したものではなく互いに連携補完している関係にあることも前稿で触れさせていただいた。例えば、高大病連携によるふるさと医療人育成の取組は、北海道地域における医学部進学者の掘り起こしにも役立っており、入試改革における地域枠受験者の充足率の確保にもプラスに働いていることも事実である。
 前稿では、「地域医療教育重視の「2009カリキュラム」の最高学年は4年生でありCBT・OSCEを受けクリニカル・クラークシップに入る。地域枠充足率100%の学年は2年生になっている。今後の本学の課題は、地域枠学生への適切な初期臨床研修の提供とキャリアパスの構築の援助である。」と記載させていただいた。今回は、卒業生の進路選択(主に初期臨床研修の選択)についての経過を報告したい。


.入学定員における道内出身者、地域枠の割合と本学卒の初期臨床研修医の推移について
 表1に入学定員における道内出身者、地域枠の割合と本学卒初期臨床研修医の推移を示す。横軸は入学年度、縦軸左は本学卒初期臨床研修医数(人)(棒グラフ)、縦軸右は入学定員における道内出身者、地域枠の割合(%)(折れ線グラフ)である。初期臨床研修医数は、当該年度のものではなく当該年度の入学者が卒業時に残った人数を示す。つまり、平成19年のところには、6年後である平成25年卒業時の初期臨床研修医数を示している。
   表1
 
 このグラフの中で注目していただきたい点は、まず初期臨床研修医が一桁となった平成17-19年入学者における道内出身者の割合である。それまで辛うじて40%を維持してきたものが、この3年間だけ40%を切っている。道内出身者の割合40%が閾値としての効果を発揮し、道内出身者の道外への流出を引き起こしたものと考えられる。これには、道外勢が多いことによる研修病院の選定の話題が、クラスの雰囲気を変えるなどのhidden curriculum(隠れたカリキュラム)が働いていると推測される。
 次に注目していただきたい点は、地域医療教育重視の本学「2009カリキュラム」開始と初期臨床研修医数との相関である。平成20年入学者での初期臨床研修医の状況をみると前年度からのV字回復を示している。しかしながら、この学年での地域枠設定数は15名であり、本学「2009カリキュラム」は平成21年からの導入である。つまり、卒前のformal curriculum(正式なカリキュラム)よりも前述のhidden curriculumの効果が大きいという傍証となろう。

.今後の検証
 本学卒の初期臨床研修医の採用数には学年における道内勢の占める割合が閾値として作用しており、ある一定の割合(本学の場合40%)より低下すると道内勢が道外に流出することが示唆される。本職のような教育職にとっては、卒前のformal curriculumよりhidden curriculumの方が大きな影響を持つという残念な結果になった。
 しかしながら、前稿「今後の本学の課題は、地域枠学生への適切な初期臨床研修の提供とキャリアパスの構築の援助である。」と書かせていただいたように、適切な初期臨床研修の提供という意味において、本学病院卒後臨床研修センターの多大な努力により学生に選ばれる初期臨床研修病院となった事実もある。その意味で卒後のformal curriculumの整備は、学生の選択行動に影響を与えている可能性も大きいと思われる。
 このあとは、「キャリアパスの構築の援助」が残ることになる。初期臨床研修後の選択(大学院生の増加、専門医取得者数の増加など)が評価の対象になると思われる。前稿から3年6か月の経過で今回の文章を書かせていただいた。今後も卒業生の動向に注意を払いつつ同様の期間程度で本学の状況を分析したいと考えている。

1) Matsumoto M, Inoue K, Kajii E. A Contract-Based Training System for Rural Physicians: Follow-Up of Jichi Medical University Graduates (1978-2006). The Journal of Rural Health 24:360-368(2008)

2) Magnus JH, Tollan A. Rural doctor recruitment: does medical education in rural districts recruit doctors to rural areas?  Med Education 27:250-253(1993)