*第49回*  (H28.8.10UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は大分大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療人育成・地域医療確保に向けた大分大学の取り組み
文責 : 大分大学医学部地域医療学センター内科分野 教授  宮﨑 英士 先生
  大分大学医学部長  守山 正胤 先生

 大分大学医学部とその前身である大分医科大学(昭和51年10月開学)はこれまでに数多くの地域医療人を輩出し、地域医療の向上に寄与してきた。しかし近年、大分では医師の地域偏在が顕著で、さらにここ数年、県内で初期臨床研修を受ける医師が減少し、大分県の地域医療を確保するうえで深刻な事態が生じつつある。その地域課題の解消に向けて大分大学は平成22年2月に医学部長をセンター長とする地域医療学センターを設置し、内科分野(教授1名・准教授1名・助教2名)と外科分野(教授1名・准教授1名・助教1名)の教員7名と事務補佐員2名が学内および地域医療機関・医師会・行政等と強固な連携体制を敷き、様々な活動を行っている。平成23年には地域医療支援センターが大分大学内に設置され、さらに県との連携を深めて、地域枠医師のキャリア形成、県内の医師確保・地域医療確保に繋げる事業を展開している。地域医療確保の一丁目一番地は「人を育てること」であり、地域医療人育成のキーワードは「連携」と「教育」であると信じ、医学教育改革と連動させて医学部全体で取り組んでいる。

1.大分県と連携した取り組み

 大分大学では地域枠入学制度を平成19年に導入した。学士入学(定員3名)からスタートし、その3年後にAO入試に地域枠(定員10名)を追加、そして平成27年度に学士枠3名をAO入試地域枠に振り替えた。AO入試受験者には夏休み3日間のへき地病院実習を義務付け、その記録や実習評価、および指導医のコメントは入試の際の参考資料としている。入学後のカリキュラムは一般学生と同様であるが、夏休みに2泊3日でへき地病院・へき地診療所での研修を行う。この研修は自治医科大学生と合同で実施し、最終日に全員で発表会(ワークショップ)と親睦会を行う。地域枠学生は全員が奨学金貸与を受けており、卒業後には地域貢献の義務を有する。すでに22名が卒業し、初期研修(15名)、後期研修(7名)中であるが、キャリア形成に不安を抱く学生も少なくない。そこで1年次生より同門会「大分の地域医療の明日を拓く会(写真1)」に籍を置き、地域医療学センター教員はもちろん、上級生や地域枠医師への進路相談ができるようにしている。大分県医療政策課と協議の結果、地域枠卒業医師のキャリアプランは以下のようになっている。

・ 初期研修は大分大学初期臨床研修プログラムで行う
・ 全員が大分大学医学部地域医療学センターに所属する
・ 地域医療学センターが中心となり地域医療への従事と専門医の資格取得を支援する
・ 本人の希望により大分大学の専門診療科(医局)に併せて所属することができる

 
  写真1 : 地域枠学生・医師の同門会である「第3回大分の地域医療の明日を拓く会」 


2.地域と連携した取り組み
 地域医療教育は医学生全員を対象として段階的に体系的に行うことが望ましい。大分大学では平成23年に地域医療実習を開始した。当初は6年次生(時期は4月~7月)を対象としていたが、その後、5年次生(時期は9月~11月)に前倒しした。学生24~26名を14地域に振り分け、地域に泊まり込んでの実習としており、毎回、学生による実習評価、実習施設との意見交換を重ね、実習のブラッシュアップを行っている(写真2)。6年次は、総合内科・総合診療科を選択した学生(毎年18人程度)が再度、へき地病院・診療所で実習を行うことができる。平成24年度には3年生全員を対象とする1週間の地域医療講義・実習を開始し、そのうち2日間は街中・へき地・離島・在宅診療所など多様性をもった55施設で実習を行っている。共用試験前のため、医学生としての態度、コミュニケーション、プロフェッショナリズムを学ぶ機会としている。1年次生では早期体験実習(介護福祉施設)を行っているが、さらに在宅医療など社会ニーズを知る機会として、カリキュラム外で春休み1泊2日の「地域医療セミナー」を実施している。昨年は「家庭医療サークル」の1年生5名が実行委員となり、姫島村(離島)の住民と企画したプログラムで実施した(写真3)。実習において交通費は原則として学生の負担、宿泊費は実習病院の負担(大学からの謝金内で)としている。カリキュラム外の活動は地域医療学センターの予算で実施している。

 
  写真2 : 地域病院・診療所指導医と共に実施した「地域医療教育を考えるワークショップ」

 
 
  写真3 : 姫島村で実施した「第5回地域医療セミナー in 大分」 


3.大分県医師会と連携した取り組み
 初期臨床研修医の大分県への定着を促進するために、医師会・県・大学が協働して「大分県臨床研修医合同研修会」を開始した。これは各臨床研修病院の研修担当者の情報交換の場にもなっており、研修の質向上に寄与することが期待される。また今後、社会ニーズに応じた医療人育成に県医師会の協力・助言が必要であり、昨年より県医師会理事と本学医学部教授との情報交換会を開催し、顔の見える関係の構築に努めている。

4.大分県教育委員会と連携した取り組み
 地域医療学センターの企画で、大分大学の各講座の協力のもと、高校2年生を対象とした高大連携事業「ふるさとドクター育成セミナー」を夏休み期間に実施している。県内高校から優秀な受験者の増加を期待しての事業であり、例年100名の参加がみられている。

5.総合診療医の育成
 総合診療の卒前教育・研修医教育としては、5年次生(2週間、全員)、6年次生(4週間、選択18名)、初期臨床研修医(4~8週間)に対して外来を中心とする参加型実習を行っている。“地域を診る専門医”としての総合診療専門医育成において、基幹施設としての大分大学の役割は地域をフィールドとする総合診療専門研修カリキュラムの開発・運営・オーガナイズである。総合内科・総合診療科は、地域病院・診療所とともに「総合診療医養成プログラム策定委員会」を組織し、協議を重ね、オール大分での研修プログラムを作成し、すでにプログラムを日本専門医機構に提出している。