*第47回*  (H28.6.15 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は信州大学での取り組みについてご紹介します。

信州大学医学部における地域医療教育
文責 : 信州大学医学部地域医療推進学講座 准教授  中澤 勇一 先生

● はじめに
 長野県は、長年にわたる保健予防活動により、長寿で医療費支出が少なく地域医療の先進モデル県として知られている。信州大学医学部の長野県の地域医療に果たしてきた役割は大きいと考えられ、実際に、県内で医療を担う医師の60%以上が信州大学と関連のある医師(卒業生、および、信州大学で初期研修、専門研修を受けた医師)となっている。
 地域包括ケアシステムの構築などの今後の医療供給体制の変化に伴い、地方国立大学医学部の地域医療に果たす役割は人材を供給し結果的にその地域の医療に貢献する、といった受動的なものから、自ら診療科に関わらず地域のニーズを考え診療の場にあった医療を能動的に実践できるような人材の養成へ変革すべきと考えられる。卒前の地域医療教育の最大の目的は、この能動的な人材の育成にあると考えられる。

● 信州大学医学部における地域医療教育の始まり

 信州大学医学部に、長野県寄附講座としての地域医療推進学講座が医師不足を主たる原因とする長野県の地域医療の崩壊を少しでも阻止すべく「県内病院の特に医師不足が深刻な診療科における医師の養成・確保を図るため、医師が不足する特定診療科の効率的な医師の養成等に関する実践的研究を行い、信州大学医学部を中心とした即戦力医師等の供給システムの構築を図る。」を目標に、平成21年度から平成23年度の3年間の予定で設置された。
 平成24年度からは、長野県寄附講座としての地域医療推進学講座が解消され、新たに信州大学医学部講座としての『地域医療推進学講座』が開設され、高校生、医学生、若手医師を対象とした、主に医師の相対的不足(医師の地域偏在・診療科偏在など)の解消のための事業と活動の他に平成23年10月より長野県の医師確保等総合事業の柱として併設された信州医師確保総合支援センター信州大学医学部分室として長野県医学生修学資金貸与者(学生・医師)の進路相談ならびにキャリア形成の支援を行っている。
 この地域医療推進学講座が、平成25年度から以下にあるような地域医療教育を担当している。

● 信州大学での地域医療教育

  ➢ 「地域医療」講義
 3年次生の必修の講義である。県内の医療施設で地域医療に従事する4名の医師(診療所勤務1名、地域中核~中規模病院勤務3名)を講師に迎え、それぞれ「地域医療って楽しい?」「在宅医療の現状と課題」「地域に根差した医療の実践」「地域医療再生の取り組み」の4つのテーマで講義が行われる。講義についての感想の一部が以下の通りである。
      地域医療は地方における医療全般をさすものだと考えていたが、地方に限るものだけでなく、いわゆる都会でも見られるものだと分かった。 
      医師に求められるのは完璧さではないけれども、あらゆることを受け入れて人を思いやれる寛容さかもしれないと思った。自分が医師を目指す原点や理想とする医師像について思いをはせられる時間であった。 
      地域医療の対義語が何なのかと考えると、そこに当てはまる言葉はないと思った。以前だったら先端医療とか考えていたかもしれない。 
       大病院で働くにせよ、地域の中小病院や診療所で働くにせよ、どんな形の医療であれ地域を見る(診る)という視点は必要であり、地域医療という枠組みは医療そのものなのではないかと感じた。
  ➢ 「自主研究演習」
 3年次生は、解剖学、生理学、薬理学、病理学など基礎医学の学習のほか、基礎ならびに臨床の研究室で個別に指導を受ける自主研究演習が必修となっている。地域医療推進学講座には毎年4名の3年次生が約2か月配属され、『地域の医療のニーズを知る』をテーマとした住民の皆さんとのグループワーク、住民の皆さんの関心があるテーマに関してのミニレクチャーからなる地域医療のフィールドワークと、診療所実習・中規模病院実習を行っている。以下に参加学生のレポートの一部を示す。  
      治療だけでなく様々な問題を改善して行くためには、医学の知識以外に医療制度や他の職種の仕事内容など、幅広いことに関心を持っていなくてはならないのだと分かった。 
      大学生活を送るなかであまり考える機会のなかった自分の理想の医師像について見つめ直すことができた。
      医師だけでなく、看護師、ケアマネージャー、介護士、患者さんや患者さんの家族など様々な立場の人から意見を聞くことができ連携の大切さを学ぶことができた。 

● まとめ
 始まったばかりの信州大学医学部における地域医療教育は、地域医療という枠にとどまらず今後どのような医師が求められているのか、患者さんや地域に医療者として人としてどのように関わるのか、そして人としてどう生きるのかとまでに及ぶ学びの機会になっている。医学を詰め込まれる中学年においては、医療そのものについての理解を深める貴重な機会とも言える。
 より高学年での継続的な学習の機会の確保が今後の課題である。

 
 

自主研究演習での、学生と地域の皆さんとの「地域で求められる医療」についてのグループワーク

   
 

自主研究演習での、学生が行う地域の皆さんを対象としたミニレクチャー