*第46回* (H28.5.17 UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は東北大学での取り組みについてご紹介します。 |
未来の地域医療の舞台を作りつつ、未来を担う地域医療人材を育成 ~東北大学の取り組み~ |
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1915年に東北帝国大学医科大学として設立されて以来、東北大学医学部は継続的に東北地区の地域医療を支えてきた。現在も東北大学関連医療施設(NPO法人艮陵協議会加盟病院)は公的病院を中心に宮城県内だけでも57施設、東北6県全体では121施設に及び、東北大学はこれらの施設と定期的な人事交流を行いながら東北地区の地域医療を今も支え続けている。 2011年の東日本大震災では、沿岸部の医療施設はその多くが傷ついた。しかしながら、特に宮城県沿岸部の主要な医療施設の大半は2017年までに新築/増築/改築の竣工を予定しており、「設備面」整備のめどはほぼついている。しかしながらその主要なコンテンツともいうべき医療スタッフの不足は続いている。 地域や診療科による医師偏在・医師不足を解消することを目的とした国の「緊急医師確保対策」により、東北大学においても、平成21年より漸次定員を増やし、平成27年度の入学定員は135名としている(ちなみに平成20年度は100名)。これに伴い、貸与者に対し一定期間の指定医療機関への勤務を義務付ける「宮城県医学生修学資金貸付制度」が設置された。この貸付制度は修学資金貸付一般枠(東北大学を含む全国の医学生対象)と東北大学枠(東北大学医学生対象:3年次から4年間貸与を受ける)から成り、2017年度には新卒修学資金貸与者募集数は一般枠20名、東北大学枠33名と計53名に達している。しかしながら、これら修学資金貸与者が、義務年限償還後も宮城県へ定着するシステムでなければ、効果は一過性にとどまり恒常的な地域の医師確保は望むべくもない。被災地の医療復興を見据え、長期的展望に立った政策的医師配置の仕組みつくりが急がれている。 「医師の偏在」を是正できるような継続可能な地域医療体制は、プレイヤーとしての医師が納得するような医療提供・配置体制、すなわち個々の医師の「犠牲心」に頼らない魅力的な仕組みであることが重要である。「医者とは人々に奉仕する職業である。従って、人々の幸せのためなら自分を顧みず僻地へも行くのは当然である」的議論は、非現実的であるし、医師の家庭や私生活へも配慮したシステムでないと継続は不能であると思われる。若手医師の地域定着を図るためには、専門医資格取得/維持や自分の専門領域についてのup to dateな知識や技術の吸収といった「キャリア形成・継続可能な環境」であることが必要であると思われる。 以上のことを踏まえると、今後増加していく修学資金貸与者の政策的医師配置を活用した地域医療体制が最も現実的である。加えて、2017年から開始される「新たな専門医の仕組み」に対応した制度設計も求められている。すなわち、東北大学病院は全基本領域の基幹型専門研修プログラムを設置する予定であるが、修学資金貸与者が宮城県の定めた政策的医師配置に従い指定施設で「義務履行」を果たしながら、同時に新たな専門研修プログラムに専攻医登録可能なシステムにする必要がある。そのようなシステムであれば、修学資金貸与者の義務年限修了後の宮城県定着、あるいは東北大学への帰学/入局が期待され、これにより東北6県にまたがる関連施設へ効果的な人材配置が可能になると思われる。加えて、専門研修プログラム内で専攻しつつ、プログラムが許容する範囲内で一定期間小規模の地域医療施設をローテートするいわば「循環型医師配置」を行う制度にすれば、これまで医師不足に悩んでいた中小医療施設への医師配置も可能になる。しかしながら、この「循環型医師配置」システムのみでは中小の医療施設を責任持って運営することは困難であるので、地域包括ケア調整をできるような地域に根ざす、「施設長」となりうる総合診療医も一方で育成する必要がある(図1)。 課題解決に向けた 東北大学の取り組み これらの課題解決を目的とした部署として、東北大学では2012年10月に「総合地域医療教育支援部」を、2013年1月には「地域医療復興センター」を東北大学病院内に設置した。 地域医療復興センターは、東北大学医学部グループ(東北大学病院、大学院医学系研究科、医学部、東北メディカル・メガバンク機構)の所掌する地域医療充実・支援のための施策を統括する部署で、地域医療の実態に則した医療支援や地域医療提供体制を整備するとともに、入学定員増を受けて地域医療を担う医師を育成する。同センターでは、病院長、医学系研究科・医学部長、副院長、東北メディカル・メガバンク機構長など、医学部各部門の幹部から成る「運営委員会」が意思決定を行う仕組みになっており、地域医療充実に向けて大学をあげての体制を敷いたといえる。総合地域医療教育支援部は、同センターで決定された方針を具現化するための実務調整を担当する。 まず応急的対応として、2012年10月より、東北メディカル・メガバンク機構及び宮城地域医療支援寄附講座の事業として、前述した地域医療復興センター調整のもと、医師3人が一組(ライン)となり、1人4ヶ月間宮城県の被災地沿岸部を中心とした医師不足の地域の施設に派遣する地域医療支援を行っている。2016年4月現在6ラインを形成し、計5施設に派遣している(これまでの累計80名、派遣施設:気仙沼市立病院、気仙沼市立本吉病院、公立志津川病院、女川町地域医療センター、石巻赤十字病院、南郷病院、宮城県立循環器・呼吸器病センターなど)。これらの調整を行いながら、以下に述べるような地域医療体制構築を図る。 循環型医師配置を可能にする専門研修プログラムの構築 内科、外科、総合診療科以外の基本領域に関しては、プログラム構築要件が厳しく、宮城県においては東北大学病院のみが基幹型専門研修プログラムを設置する予定である。従ってそれ以外の基本領域の専門医資格取得を志す修学資金貸与者は必然的に東北大学病院専門研修プログラムに登録することになるが、その義務履行についてはプログラム所掌各診療科にマネージメントを委任することになる。これらの診療科は、これまでも総合的観点から東北地区の医療全体を考えながら医師配置や修学資金貸与者の義務履行マネージメントを行ってきた実績があるので問題ないと思われる。内科、外科、総合診療科領域の専門医資格取得を志望する修学資金貸与者は、東北大学病院プログラムまたは自ら基幹型専門医研修プログラムを立ち上げると思われる少数の病院基幹型プログラムの中から義務履行指定医療機関のプログラムに登録することになる。いずれのプログラムに登録しても、一定期間小規模の地域医療施設のローテートを行い、義務履行しながら専門研修する「修学資金貸与者コース」を設置し、これにより上述した循環型医師配置システムの整備を図る。 総合診療医の育成 (図2) 先に述べたように、地域包括ケア調整をできるような地域に根ざす、「施設長」となりうる総合診療医も一方で育成することを目的として、東北大学では、文部科学省事業「コンダクター型総合診療医の養成」プログラムを2014年度より開始した。具体的には、学外の日本プライマリ・ケア連合学会認定の家庭医療後期研修プログラムを有する宮城県内の5施設(東北大学病院も含む)を「東北大学連携地域教育拠点施設」として認定し、これらの施設に勤務する医師や後期研修医を受講者とし、ICTを活用しながら大学と地域が一体となって専門医療や医療マネージメントに関する専門知識・スキルおよびリソースを提供し、かつ地域発の臨床研究を指導・サポートする教育プログラムである。受講生は地域医療に従事しながらも家庭医専門医や学位取得、論文発表などのキャリア形成が図れる従来にない教育システムで、受講生総数は現在21名である。この家庭医療後期研修プログラムは、2017年度からの新たな専門医の仕組みとしての「総合診療科専門研修プログラム」に随時移行していく予定である。こうして育成した人材をプールし、5-6年のスパンによる長期循環型で、地域医療の現場へ適切に派遣する体制構築を目指す。 |