*第38回*  (H27.7.13 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は三重大学での取り組みについてご紹介します。

三重大学医学部における医学科第1-2学年対象
地域基盤型保健医療教育
文責 : 三重大学医学部医学・看護学教育センター長 堀 浩樹 先生
             

 三重大学医学部医学科では、平成18年度より地域枠推薦制度を導入し、その後に入学者定員と地域枠定員の段階的な拡大を行いました。現在、一学年の定員は125名で、そのうちの35名を地域枠関連の定員として受け入れています。地域枠関連定員の内訳は、三重県全域の出身者を対象にする地域枠A推薦25名、県内の医師不足地域出身者を対象にする地域枠B推薦5名、前期日程合格者のうち5名を対象にする三重県地域枠選抜(県外者の応募も可)です。地域枠学生の受入れと同時に、卒業生が地域に定着し、地域医療に貢献する医師を育てる教育の実施が必要になっています。そこで、本学における医学教育の統括組織である医学・看護学教育センターが中心になって、三重大学、三重県、県内全29市町の協力による第1、2 学年学生を対象にした地域基盤型保健医療教育を導入しました。本学の方針として、地域枠学生が経験すべき地域医療教育をすべての学生に提供するという方針をとっています。
 この教育では、1グループ4-5人で構成する学生グループが、県下29市町のいずれかの市町にある一地区を2年間継続して担当し、第1学年次には、地域の方達へのインタビューによる「地域調査」を行い、第2学年次には、その結果に基づいて「地域貢献」を目指した健康関連活動を実践するというものです(図1)。

 


 この教育活動の基盤となっているのが、2008-2009年度国際協力イニシアティブ教育協力拠点形成事業として実施した三重大学、タイ・コンケーン大学、タンザニア・ムヒンビリ大学、アラブ首長国連邦・シャルジャ大学による国際共同研究「持続発展教育(ESD)の理念に基づいた途上国における地域医療教育モデルの構築(http://library.criced.tsukuba.ac.jp/event/pdf/100302/01.pdf)」での事業成果です。この事業では、国際汎用性のある地域医療教育モデルを提案し、学生・教員それぞれへのガイド(英語版・日本語版)を作成しました。この教育モデルは、「7 community tools」と名付けた文化人類学的手法による地域調査とその調査結果に基づく栄養改善や生活習慣に関する啓発活動などの地域貢献活動に学生が主体的に取り組む(調査・解析・企画・準備・実践)ことで、学生の地域保健医療への理解と地域社会の持続発展を支援する意識の獲得を目指すというものです。本学での活動においてもこの調査手法を踏襲し、教育、学生双方に対するガイドを実習書として使用しています。

 学生達は、実習のなかで各市町村の保健師を中心とする行政担当者、地域医療機関関係者、民生委員・児童委員・食生活改善推進員などの地域を支える人達との関わりを通じて、社会人に求められるマナーを身に付け、コミュニケーション能力・問題探索能力・問題解決能力を高め、地域保健医療と医師に求められるプロフェッショナリズムを理解していきます(図2)。また、私達教員は、学生が自己効力感や地域からの期待を実感することで地域への愛着を醸成してくれることを期待しています。

 
  保健師から保健行政について学ぶ 担当地区を歩く  放課後児童クラブで
地域の子どもと触れ合う 
   
  地域の方へのインタビューを行う  
  図2. 第1学年学生の活動  

 実習参加前後のアンケート調査による短期的教育効果の評価では、「地域保健医療の課題の理解」、「面接技術の向上」など知識・技術面での有意な向上がみられ、また、自由記載欄には、「実際に地域に行くことで知らなかった多くのことを学び、地域への愛着がわいた。このようなことの繰り返しから地域に従事したいと思うようになるのかなと思った」、「実際に地域住民の方々とお話ができたことは有意義だった。今まで保健師の方々の活動がどのようなものなのか知らなかったが、実習をする中で、地域と密接な活動を行っていることがよく分かった」などの肯定的意見がみられています。一方、「地域医療への貢献意識」、「医療過疎地域での医療への貢献」などの態度面での評価が、入学時に比べ実習後に低下する例もあります。その理由として、厳しい保健医療の現場を実体験することで、地域医療への貢献意識が後退する場合があると推測されます。ただし、これまでも、入学時の高い意識が入学後に急速に後退する状況は多くの教員が感じているところであり、本実習の実施によりその意識の後退を抑制できている可能性について検討する必要があると考えています。
 平成26年度に本稿で紹介した地域基盤型保健医療教育初年度履修学生が卒業しましたが、地域枠関連卒業生全員が県内の研修病院での卒後臨床研修を選択しました。さらに、県内で初期臨床研修を開始する初期臨床研修医数も初期臨床研修制度開始直後の56名から平成27年度115名まで回復しています。

 本プログラムの実施にあたっては、学生・教員旅費、指導教員の確保、地域貢献活動に使用する備品の購入などの予算が必要になります。この費用については、三重県市町村振興協会と本学との「地域医療教育に関する協定」に基づく財政支援を活用しています。