*第34回*  (H27.2.27 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は香川大学での取り組みについてご紹介します。

香川大学医学部における地域医療人育成の取り組みについて
文責 : 香川大学医学部長  今井田 克己 先生
  香川大学医学部附属病院
地域医療教育支援センター長・卒後臨床研修センター長
松原 修司 先生 
             
状 況
 香川大学医学部における地域医療人育成には、学部のみならず医学部附属病院との連携が重要であり、本稿には医学部附属病院の状況・取り組みについてもあわせてご紹介いたします。


【医学部附属病院】
 平成16年度からの卒後臨床研修必修化により、地方大学病院における研修医確保は低迷し、本院においても平成17年度マッチング結果は全国最下位となり平成18年度採用研修医数は10名と、困難を極める状況に陥った。当時の病院長(現学長)の判断により卒後臨床研修センターに専任医師のポストおよび事務職員の増員配置を行った。これにより、本院のマッチングは回復し、図1のように研修医数・入局者数が推移している。
 図1
【医学部】
 学部においては、平成19年度より、在学生に対し「香川県医学生修学資金貸出制度」(香川県医務国保課)が創設され、在学生3名(当時医学科3年生)が応募し修学生制度が始まった。修学資金は、将来、県内医療機関等の医師として勤務し、地域医療を志す医学生に対して、資金を県が貸付ける制度である。対象の医学生は卒業後、貸付期間の1.5倍に相当する期間(義務年限)を県内指定医療機関等で勤務した場合、修学資金の返還が免除される仕組みになっており、同様の制度は他県においても開設されている状況である。現在、66名(1年~6年)が在学中である。
 この制度により、一定数の地域医療を担う人材育成が確実であり、本学においては卒業後の修学資金返還による離脱者はなく、卒業後の義務年限配置もトラブルなく順調である。要因としては、香川県の修学生運用方針が医師のキャリア形成に配慮した規定となっており、修学生・本院・香川県行政の3者にとって有用な制度となっている。また、地域医療教育支援センターおよび卒後臨床研修センターにおいては、在学中からの修学生との交流を密にすることで信頼関係の構築に努めている。

【自治体支援により設立された地域医療教育支援センター】
 全国の医師不足と、地域間、診療科間での医師の偏在による地域医療の崩壊を受けて、香川県の地域医療再生計画に基づき、地域医療を担う人材育成を主な目的として平成22年に「地域医療教育支援センター」が設置された。そのセンターは、他大学では学部としての寄附講座の設置が多い状況であるが、本学の場合は医学部附属病院のセンターとしての位置づけでスタートしたことも大きな特徴である。
 同センターの理念としては、地方自治体、関係医療機関等と連携し、医療人(医師、看護師等メディカルスタッフ)の育成を目指すこと、地域医療人の生涯にわたる医療技術の向上を支援するため、入学から卒前・卒後臨床研修、専門医資格取得までの流れの中で、地域医療を担う医療人の教育・研修に資することを目的としている。


特 色

 学部教育においては、医学教育モデルコアカリキュラムに掲げられた「地域医療教育の項目」(地域医療臨床実習)の到達目標達成のために5、6年次生の医学実習(臨床実習)の時期に、地域医療の実地体験を中心とした院外実習システム(図2)を実施している。
 また、スキルスラボラトリーを整備しシミュレーターを用いた学生教育および医療人育成に寄与することを目的に積極的に運用している。

 図2

 
在学中は医学教育センター、地域医療教育支援センターが地域医療マインドの醸成を担い、卒業後は卒後臨床研修センター、卒後臨床研修修了後は各診療科が医師育成・教育を担っている実情を鑑み、さらなる連携が必要と考え、臨床教育研修支援部(図3)を設立(平成26年4月)し、相互に情報共有し、卒前・卒後・専門医資格取得までをシームレスにフルサポートする体制が整いつつある。
 図3

課 題
 地域医療人育成には、新専門医制度下での専門医資格取得が最重要課題であり、本院として、マネジメントセンター等の立ち上げ・充実に努力している状況である。新専門医制度に則した魅力ある専門医育成プログラム整備を急ぐ必要があると強く認識している。

問題点
 本院での卒後臨床研修修了後の本院診療科への入局率は、80%以上で推移しているが、他臨床研修病院での研修修了者の本院への帰学率(入局者数)は低迷しており、全体として医師の充足は厳しい状況であることは否めない。
 また、本院としては魅力ある関連病院が少ないことも問題点であり、自治体・行政への働きかけを行い、拡大を図る必要性を認識している。
 香川県においては、今後さらなる医師不足が想定されており、地域医療人育成は重要な課題である。特に、島嶼部では高齢化が進んでいることもあり、医師不足は深刻である。この問題を少しでも解決できるようにするためにも、地域医療に貢献できるような医師、医療人を養成することが、当大学医学部および医学部附属病院にとって極めて重要である。

経費捻出
 地域医療教育支援センターについては、香川県からの寄附を原資に運営しているが、スキルスラボラトリー機器整備・維持管理には多額の費用を要するため、医学部附属病院からも予算配分がある状況である。

 上記のように、地域医療を支えるため、地方国立大学として使命を果たすべく、学部・医学部附属病院が団結し、地方自治体とも十分連携しながら成果を挙げるため努力している状況である。