島根大学医学部は、入学前から卒前卒後の一貫した地域医療教育を推進し、「地域医療人の養成」を特色とした医学部づくりを目指しております。地域の医師不足が深刻な島根県において、地域医療を担う人材の養成に資することは、地域社会が大学に期待する取り組みであり、また、大学の地域社会に対する責務であります。このような理念のもと、地域で活躍する優れた医療人育成に取り組んでおります。
地域枠等推薦入試
本学医学部医学科では、平成18年度より地域医療を担う人材の養成を目的に、全国でもユニークなへき地出身者を対象とした地域枠推薦入試を導入しました。本入試は、島根県の都市部である松江市や出雲市以外の医師不足地域で育ち、将来、故郷のへき地医療に貢献する強い意欲と使命感を持った人材を発掘し、選抜するものであります。志願者は、故郷の医療機関と社会福祉施設での計8日以上の医療福祉体験活動を実施するとともに、市町村長等による面接評価を受け、その上で、大学の学力試験・面接等を受けることとしております。平成19年度には、学士入学地域枠(3年次編入)選抜を、平成21年度よりは、緊急医師確保対策枠推薦入試を導入しました。緊急医師確保対策枠は、志願者の出身地は問わないものの、卒後の早い時期から県内へき地における地域医療に貢献する医師を養成することを目的としているため、本県のへき地医療に貢献する強い意志を確認するために、県内の医療機関での医療体験活動(5日以上)と県担当者等による面接評価を実施した上で、選抜しております。また、平成23年度よりは、一般入試(前期日程)において、地域医療再生計画に基づく県内定着枠を導入しました。本入試は、奨学金制度を活用し、将来、県内の地域医療に貢献する医師を養成することを目的としております。現在、これら地域枠等の入学者定員数は1学年25名(地域枠10名、学士地域枠3名、緊急医師確保対策枠5名、県内定着枠7名)であり、県下の地域医療を担う熱意と使命感をもった学生の受け入れとそれらの人材育成に精力的に取組んでおります。
なお、島根県と連携した奨学金制度の導入や、県内高校の進学指導担当教員との懇談会、小中学校並びに高校への出張講義、医療体験学習(手術部体験学習等)受け入れ等小中高生徒へのアプローチなど、本県の地域医療に資するべく取組を積極的に推進しております。
地域医療教育の展開
本学医学部では、上記のように、地域医療へ対する動機付けの高い学生の選抜を実施する一方、全入学者が全学年を通じて地域医療を体験できる地域医療教育システムを取り入れております。これにより、地域医療への関心・動機付けを高める教育の充実を図り、地域に根ざす医療人の育成を進めております。
臨床実習における地域医療実習は、平成14年度より、大学附属病院のサテライト診療所と位置づけた中山間地の診療所(乙立里家診療所)で開始しました。地域枠推薦入試を導入した平成18年度よりは、実習の規模を全面的に拡大し、県下約50のへき地(松江・出雲など都市部以外)診療所・病院における3週間の泊まりがけの実習にしました(図1)。その後、松江・出雲地域での地域医療実習も導入し、現在では、約70の医療機関において地域医療実習を展開しております。これら地域医療実習は、大学病院では学ぶことが難しいプライマリ・ケアの実際を体験でき、また、自らが地域のニーズを肌で知ることができるため、医学生の地域医療に対する動機付け向上に重要な役割を担っております。
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地域医療関連講座による教育指導体制の強化
平成19年に臨床系講座として「地域医療教育学講座」を設置し、学部教育を実施するとともに、地域医療実習の企画運営を強化し、地域枠等学生の指導(メンター)を開始しました。また、平成22年に島根県寄付講座「地域医療支援学講座」を、平成23年には、島根県大田市からの寄付講座「総合医療学講座」を設置し、これら各関連講座と卒後臨床研修センター等が連携して、地域医療人養成の充実を図っております。
また、総合医・家庭医養成を充実させるために、地域の医療機関及び亀田ファミリークリニック館山等を一定期間循環して初期研修を行うことを可能とし、後期(専門)研修では、後述する文部科学省未来医療研究人材養成拠点形成事業を活用して連携する関連医療機関や他大学を循環しながら研修を行うプログラムを構築しました。
一方、平成21年度より、大学院修士課程に「地域医療支援コーディネータ養成コース」を、平成22年度より、「医療シミュレータ教育指導者養成コース」を新設し、地域で活躍する医師をはじめとした医療人を支援する人材の育成を進め、包括的な地域医療人育成体制の構築に努めております。
更に、平成26年3月よりは、県市町村、関連医療福祉機関、医師会等との連携による地域包括ケア推進体制を整備し、かつ、超高齢者社会の複雑化多様化したケアニーズに対応できるリサーチマインドを持った医療人育成を図るために、新たに「地域医療政策学講座」を設置いたしました。これにより、今まで以上に、地域医療人育成の活性化を図っていく予定であります。
地域医療教育の発展と文科省GP
平成17年度に採択された地域医療等社会的ニーズに対応した医療人育成支援プログラム「夢と使命感を持った地域医療人の育成-日本版WWAMIプログラム-」では、海外研修等を通じて、指導医の地域医療教育への意識改革を図り、医学生や若手医師に地域医療へ夢と使命感を持たせるための取組を展開してきました。また、平成18年度採択の現代的教育ニーズ取組支援プログラム「地域医療教育遠隔支援e−ラーニングの開発」では、離島や中山間地などのへき地を含む県内の地域医療病院や保健福祉施設と大学との間の双方向通信を活用した医学・看護学統合型e-ラーニングの教育モデルを構築し、地域によるギャップを感じさせない教育効果を実現してきました。平成20年度には、大学病院連携型高度医療人養成推進事業に、本学が申請し、神戸大学・鳥取大学・兵庫医科大学と連携する「山陰と阪神を結ぶ医療人養成プログラム -地域医療と高度先進医療の融合による新たな教育システムの構築-」、及び、東京医科歯科大学が申請し、島根大学・秋田大学が連携する「都会と地方の協調連携による高度医療人養成 -「付加価値」を身につけるテーラーメイド研修-」が選定されました。本事業により、若手医師に対するキャリア形成支援の充実とプログラムの可視化を実現することができ、大学病院を軸とした魅力的な地域医療人育成を図ってきました。更に、平成25年度には、本学が申請し、神戸大学、兵庫医科大学の3大学が連携する未来医療研究人材養成拠点形成事業「地方と都会の大学連携ライフイノベーション」が採択され、本学においては、総合診療医・内科総合医育成コース、総合診療医指導者育成コース(大学院博士課程)、地域包括ケア人材養成コース・医療経営重点(大学院修士課程)及び地域包括ケア連携人材養成コース・インテンシブを設置致しました。今後、更に進行する高齢化社会において大いに力を発揮し、地域包括ケアのリーダーとなれる人材の養成を強化していくこととしております。
地域医療の指導者養成
地域枠等学生・卒業生が漸次増加する現状に対応して、地域医療人育成を強化・活性化し、地域医療を担う人材の継続的かつ安定的な確保と地域定着を図るためには、地域医療を担う若手医師が、多様な地域医療のニーズに応える臨床能力を修得することができ、かつ、地域医療に対する探究心や学術的魅力の涵養を通じて、地域医療に対する意欲や使命感が向上できる教育・指導環境の構築・充実が不可欠であります。そのためには、今後、地域医療を担う若手医師の育成に資する指導者を養成し、指導者を核とした魅力的な教育支援体制を築いていくことが必要であります。この理念を具現化するために、この度、新設した大学院博士課程「総合診療医指導者育成コース」において、地域医療のフロンティアを拓くことができる卓越した資質と国際的視野を備えた地域医療の指導者の養成を開始しました。地域医療を担う若手医師の充実した教育指導体制を構築することは、若手医師の意欲・使命感の向上と研究マインドの涵養に資するとともに、若手医師に対する魅力と安心の環境を提供することとなります。今後、地域医療の指導者の養成と、指導者が地域に定着して後進の指導を実践できるキャリア支援体制の整備を図り、また、地域における研究拠点形成も同時に進めていく予定であります。
キャリア形成支援
平成20年度大学病院連携型高度医療人養成推進事業の採択に伴い、病院長直属の組織で、各診療科代表とコーディネータ、プログラム実施責任者より成るキャリア形成支援部門を構築しました。更に、平成22年には、卒前卒後・生涯を通じた学習・研修環境の充実及びキャリア形成支援体制の充実を図る目的で、地域医療教育学講座、地域医療支援学講座、卒後臨床研修センター、クリニカルスキルアップセンター及び病院医学教育センターが連携し、病院長を部門長としてキャリア形成支援部門を再編・拡大しました。また、平成23年度には、地域医療に従事する医師のキャリア形成支援と医師不足地域における医師の派遣や配置調整等を行うことで、地域の医師不足の解消を図ることを目的に、大学と県を中心に「しまね地域医療支援センター(一般法人)」を設置しました。本センターは、島根県と島根大学医学部及び地域医療機関が協力して運営するもので、センター専任医師が、地域枠医師、奨学金貸与医師等に対する個人面談や研修支援等の実施など、キャリア支援に関する取組みを実施しております。今後は、本学修士課程で養成し、県知事より認定を受けた「地域医療支援コーディネータ」を有機的に連動させ、地域医療を担う医師個人と大学、地域医療機関又は行政間との調整を行い、地域で働く医師をはじめとする医療従事者を取り巻く諸問題にきめ細かく対応できる包括的キャリア形成支援体制の構築を目指しております(図2)。
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