*第24回*  (H26.3.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は熊本大学での取り組みについてご紹介します。

熊本大学医学部における地域医療人育成への取り組み
文責 : 熊本大学医学部附属病院 地域医療システム学寄付講座特任教授 黒田  豊 先生
  熊本大学医学部長 竹屋 元裕 先生
             
 熊本大学医学部医学科では、平成21年度より、一般入学および一般推薦入学の学生を対象(一般枠)として熊本県医師修学資金貸与制度(定員5名)を開始した。さらに平成22年度から推薦入試において地域枠推薦入試(定員5名)を導入した。地域枠入学は、一般枠と同様に熊本県医師修学資金貸与制度を受けうることを条件にした。この制度は地域に必要な医療を確保するため、県内の医師が不足する地域の病院において医師として業務に従事しようとする学生に対して修学資金を貸与する制度であり、入学料相当額と毎年の授業料相当額に加えて毎月の生活費として75,000円が熊本県から貸与される。卒業後の一定期間(貸与期間の1.5倍に相当する期間)を知事が指定する病院等で勤務すれば返済債務の全額が免除される。現在、この制度によって貸与金を受けている学生は、合計33名(辞退の1名を除く)である。各年度の採用数は表のとおりである。

表 これまでの熊本県医師修学資金貸与制度採用者数

年度

地域枠(定員5名)

一般枠(定員5名)

平成21年度

未実施

5(後に1名辞退)

平成22年度

5

1

平成23年度

5

2

平成24年度

5

2

平成25年度

5

4

      ※平成22~25年度の一般枠の採用者数は、応募者が少なかったため定員を満たしていない

 平成26年度からは熊本県から事業委託される地域医療支援センターの活動が開始する。現在、熊本県医師修学資金貸与を受けている学生は5年生が最高学年であり、平成26年度末に卒業するため、地域医療支援センターが貸与生のキャリアアップの制度設計をする予定である。
 地域医療人育成については、熊本県の寄附によって、平成21年1月に熊本大学医学部附属病院に開設された「地域医療システム学寄附講座」が地域医療教育や地域医療支援にあたっている。
 地域医療教育に関しては、1年次に公衆衛生学講座のもとで必須科目として学年全員を対象として早期社会体験学習が実施される。これは入学早期に医療・保健・福祉の現場を体験することにより、医学を学ぶためのモチベーションを獲得し、患者や住民の側から医療・福祉を見る体験を積み、患者と接する態度を学び、医師、スタッフ、患者のチームワークのあり方を考える機会を提供するものである。3年次には地域医療システム学寄附講座が公衆衛生学講義の枠で必須科目として地域医療に関する講義を行っている。4年次には救急・総合診療部による総合診療学の必須科目として熊本市内診療所の見学実習が実施されている。5年次および6年次には地域医療クリニカル・クラークシップを選択必須として実施している。地域医療クリニカル・クラークシップ3週間を1タームとして、へき地医療拠点病院を含む地域医療を実践している1病院を1週間、合計3病院をローテートで巡り参加型臨床実習を行うものである。平成25年度は6年生4名、5年生4名が選択して実習を実施した。今後は地域医療クリニカル・クラークシップ実施地域医療病院の数を増やし、更に多くの学生が地域医療クリニカル・クラークシップを受けられる様にする予定である。
 以上の必須科目に加え、地域医療システム学寄附講座独自の取り組みとして、医師修学資金貸与学生に対して1〜2ヶ月に1回の割合で地域医療ゼミを提供し、教員によるレクチャー、学生による地域医療に関する発表会を実施している。また夏季休暇を利用し、自治医科大学学生と合同の地域医療実習を毎年2泊3日の日程で県内各地にて開催している。初年度の平成21年は蘇陽で実施し、その後、小国(写真1)、上天草、多良木、天草と毎年実習地区を変えて実施している。更に医師修学資金貸与学生以外の一般学生に対して、春季休暇期間を利用して少人数による地域医療実習を阿蘇や天草(写真2)にて実施している。

 
 写真1 平成22年8月に小国町で実施された自治医科大学と合同の夏期地域医療実習の参加者と
    スタッフ。前列右から4人目が北里耕亮小国町長、その隣が筆者(黒田)。
 
 写真2 平成23年3月に上天草市松島町教良木診療所で撮影した「地域医療セミナー2011春 in天草」
    の参加者とスタッフ。中央が筆者(黒田)。

 以上の取り組みの中での問題点は地域医療教育に連続性が欠ける点である。この点に関して、現在検討中の新カリキュラムでは、上記の1年次早期社会体験学習、3年次地域医療講義、4年次診療所見学実習、5・6年次に行う選択必須の地域医療クリニカル・クラークシップに加えて2年次の地域医療見学実習、5年次の必須科目として医学部医学科学生全員への地域医療実習などが検討されており、地域医療教育の連続性維持に取り組む予定である。