*第21回*  (H25.12.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は富山大学での取り組みについてご紹介します。

富山大学医学部における地域医療人育成の取り組み
文責 : 富山大学医学部 医学部長 村口 篤 先生
  富山大学附属病院総合診療部 教授  山城 清二 先生 
             

 

 富山大学医学部では6年間一貫した医学教育カリキュラムを行っている。また、入学前からの地域の中学、高校へ医療人への意識付けとして、出前講座やキッズセミナー(附属病院)、オープンキャンパス(医学部)も行っている。さらに、卒後臨床研修ではキャリアパス創造センターを中心に、一般学生も含めて地域枠・特別枠学生に対してキャリア支援を行っている。特に地域医療人育成には、地域医療支援組織として医学教育学講座・地域医療支援学講座・総合診療部が連携して取り組んでいる。
I. 医学部カリキュラム
(1)1年次:医学準備教育(臨床前教育)early exposure
 1年次からの医療人教育として医療系学生を対象とした学部横断型授業および早期介護体験実習の「医療学入門」を行っている。「医療学入門」では介護体験実習、「医学概論」での地域医療テーマを取り上げている。平成20年度からは医薬看護学生によるグループ実習を40以上の地域医療・介護福祉施設で行い、early exposureとして地域医療への意識の醸成を図っている。
 医療学入門TBL(Team Based Learning)授業の風景

(2)3~4年次:地域医療の講義、課外研修
 基礎・臨床医学のための統合型カリキュラムにおいて地域医療に関する授業、PBL(Problem Based Learning)型授業を行っている。正規の授業以外では、医学教育学講座・地域医療支援学講座・総合診療部が合同あるいは単独で課外研修を行っている。

(3)5年次:地域連携型臨床実習
 5年次には関連教育病院実習として地域病院臨床実習が行われている。 平成25年度から診療参加型臨床実習として、地域5病院へ1名ずつ1週間(宿泊込み)とする地域医療病院実習プログラムを開始した。大学病院外の実習では、地域の医療の実態に触れるとともにその医療機関での活動を体験して、地域社会で求められている地域包括ケアにおける地域の人たちとの繋がりを理解し、地域のヘルスケアへの貢献のために地域医療人の役割を習得する。
 進行中の5プログラムは、1.神通川プロジェクト(地域医療支援学担当)、2.万葉プロジェクト(地域医療支援学担当)、3.南砺市民病院プログラム(総合診療部担当)、4.かみいち総合病院プログラム(自治医大プログラムに準ずる(へき地巡回診療、訪問診療、介護福祉施設実習を重点にしたプログラム)、総合診療部担当)、および5.糸魚川総合病院プログラム(医学教育学担当)である。

(4)6年次:選択制臨床実習
 選択制臨床実習は平成25年度までは8週間、平成26年度からは4月~6月にかけて12週間の臨床実習期間を設けて、4週ずつ3クールの実習を行う。大学病院の診療科のadvance臨床実習に加えて、県内外の関連教育病院、教育協力病院・施設、および海外病院での臨床実習の選択が可能である。尚、海外での選択制臨床実習の参加者は、年々増加傾向にある(平成23年度11名、平成24年度10名、平成25年度18名)。

(5)特別枠・地域枠学生:キャリアパス創造
 キャリアパス創造センターは地域枠(平成19年度より)・特別枠学生(平成21年度より)の卒後研修キャリア支援およびマッチング支援(県内病院)を主たる目的として、平成24年7月に医学部・附属病院のセンター委員会として発足した。地域枠・特別枠学生の入学前から卒業後まで富山県の医療に関わる医学教育、臨床実習および卒後臨床研修を整備し、将来のキャリアパスを提示している。
 具体的な取り組みとして、入試合格発表後に入学前オリエンテーションと地域病院での医療活動紹介と病院見学を実施している。また、入学後の医学教育カリキュラム内容は一般学生と同一であるが、NPO法人富山地域医療教育支援センターの支援を受け、地域枠・特別枠学生には選択的な地域医療プログラムや課外活動、地域医療セミナーなど地域医療教育支援活動を行っている。
 さらに、卒業後の臨床研修の支援として、附属病院臨床研修部と連携して富山県や県内公的病院臨床研修協議会、県医師会などと包括的キャリアプログラム協議会を開き、具体的なキャリアモデルケースを作成し協働調整している。

II. 地域医療支援組織
(1)医学教育学講座:廣川慎一郎
 本講座は、医学生の指導を入学から臨床研修まで一貫して行い、富山の地域社会・保健・医療を守り、担い支える医療人の育成と定着支援を目的として、平成21年1月に開設された。
 講座の役割として、卒前医学教育から地域医療に繋がる医学教育システムを構築するため、優秀な学生の確保(地域枠入学を含む医学部入試)、医学教育カリキュラム、講義・実習など医学教育の推進、教務・学務など学生の学習支援、教員の指導力向上、卒後臨床研修、専門医養成、生涯研修などが担当となっている。

 本講座では、1.医学・医療カリキュラムの在り方および改革推進、2.学生・研修医の医療人教育/プロフェッショナリズム教育、3.指導者/教員の指導能力向上、4.次世代の医療人教育指導者養成、の4項目を柱として広く地域社会を通じて学ぶコミュニティ志向型医学教育を推進し、教育成果として医療プロフェッショナルとして豊かな人間性を持ち、そして実践的な臨床能力を持つ医師の育成を目指している。
 地域医療教育に関しては、地域医療マインドの向上のために入学時から段階的・有機的な医学教育方略プログラム(診療参加型医療体験、患者中心のチーム医療・職種間連携、コミュニティ志向型医学教育・医療教育、医療安全、ヘルスプロモーションなど)の開発と実践を進めている。

(2)地域医療支援学講座:有嶋拓郎
 平成22年4月、地域医療再生特別交付金を財源として富山県寄付講座(平成22年~28年)地域医療支援学講座が設置された。富山県の人口10万人当たりの医師数は223人(平成20年)で全国平均213人より多い。しかし、医師数以上に医師偏在が問題となっている。寄付講座の最終的な目標も富山県内の医師偏在の緩和による、地域医療の活性化である。現在、次のプロジェクトを施行している。
地域医療を教育や修練とする事業:

1)神通川プロジェクト
 岐阜県の飛騨市民病院を中心に隣接する介護・福祉施設を一体の教育機関と考えて、医学生や教官の往来を密にして地域医療を8年(医学部6年+初期研修2年)一貫型の学習や修練の場とするものである。飛騨市民病院に対して専用研修室、専用宿舎、教材等の整備をして平成24年度より開始した。県境地域は医療過疎に陥りやすいが、コンパクトなコミュニティを医療圏にしていることが多く地域医療を学ぶには適している。また県境地域の病院では隣接県の大学の相互協力が図られると複数の大学の学生が同時に臨床実習できるのは特色の一つである。
2)万葉プロジェクト
 社会保険高岡病院において、5年次の地域臨床教育および看護師に対して実践看護実習コースを開催している。


(3)総合診療部:山城清二
 附属病院総合診療部は平成16年3月に設置され、この10年間は診療と教育に重点的に取り組んできた。最近の5年間では、社会貢献として地域崩壊が進んだ南砺市の地域医療再生に取り組み一定の成果を上げた(南砺市モデル:地域医療再生マイスター養成講座、南砺の地域医療を守り育てる会)。学生および研修医に対する地域医療人育成では、4年次の地域医療の講義、5年次の2週間の臨床実習の中で富山型デイサービスの1日実習および地域連携型臨床実習の指導、6年次の選択制臨床実習で近隣診療所実習および海外臨床実習のサポートを行っている。さらに、地域医療/家庭医療志向の学生や研修医に対して家庭医療勉強会、そして卒後の後期研修での南砺市民病院と連携して家庭医療専門医育成プログラムを実施している。
 平成25年には、文部科学省の「未来医療研究人材養成拠点形成事業」で“地域包括ケアのためのアカデミックGP養成”事業が採択された。また、富山県から住民参加型のシステムとしての地域医療再生/健康まちづくりマイスター養成講座の推進を依頼され、さらに富山市からの寄附講座“富山プライマリ・ケア講座”が開設された。総合診療部に対して、地域医療人育成とともに地域包括ケアシステムの構築への期待がますます大きくなってきている。


Ⅲ. 終わりに
 今後の充実した地域医療人育成のために、5年次の連携型臨床実習での参加病院を増やすこと、一般学生も含めた地域枠・特別枠学生に対するキャリア形成の支援強化、看護学科や薬学部と連携した多職種連携教育、および地域の医療機関や市町村と連携した地域包括ケア教育などが課題となっている。