<背景>
筑波大学は、開学当初より「筑波方式」と呼ばれる先進的な医学教育カリキュラムを全国に先駆けて導入し、多くの実績を挙げてきたが、昨今の医療を取り巻く環境の変化にいち早く対応し、時代の要請に応えられる医療人を養成するために、平成16年度より新しいカリキュラムを導入した。これは、既存のカリキュラムの部分的修正ではなく、基本的な枠組みからすべてを見直した全く新しいカリキュラムであり、①知識伝達型講義の大幅削減と問題基盤型テュートリアルの全面的導入 ②本格的な参加型臨床実習 ③信頼される医療人として必要な知識・技能・態度を継続して学習する医療概論 を3つの柱としている。地域医療教育は、この医療概論の大きな一つの柱として位置づけられており、教育カリキュラム、教育フィールド、指導体制ともに大幅な強化が図られてきた。
また、地域で活躍する人材を養成するべく、平成21年より茨城県地域枠入試を導入し、定員枠は初年度である平成21年度の5名から毎年2名ずつ増員し、平成25年度には13名の地域枠定員を設けている。
<教育カリキュラム>
地域医療を学び、現場に触れ、その魅力を感じるための教育カリキュラムとして、学生の能力に合わせて低学年から高学年まで繰り返し地域医療の現場で繰り返し学ぶことができるようにコーディネートされている。その概要は以下の通りである。
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医療福祉現場でのふれあい実習 |
1年次
早期体験実習(2日間)
入学直後のモチベーションの高い時期に、さまざまな地域医療の現場(診療所・小病院、介護福祉施設)を訪問する。地域医療の現場を体験し、またそこで働く医療者の姿を実際に見ることで、将来地域で活躍するキャリアをイメージする。
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主治医・ケアマネとの質問タイム |
2年次
テュートリアル「在宅ケア」(1週間)
地域医療研修ステーションの教員が実際に診療を担当している在宅ケア症例を呈示する。
学生はテュートリアル形式で症例について議論し、限度額の範囲に収まるようケアプランを作成して発表する。途中で、実際の主治医、ケアマネから情報収集できる質問タイムを設定している。
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小学校での食育教育 |
3年次
地域ヘルスプロモーション(1週間)
最初の基礎コース(1週間)において、学生は自らが選んだテーマ(喫煙予防、介護予防、生活習慣病予防、食育など)について、地域で健康教育を実践している医師・栄養士らによる指導を受けて企画・準備を行い、県内の地域・学校で行う健康教室に参加してその一部を担当する。
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混成グループによる小グループ討論 |
ケアコロキウム(チームワーク演習)(1週間)
医学類・看護学類・医療科学類、東京理科大学薬学部(約300名)合同で1週間実施する。
各学類の学生で混成されたグループで、チーム医療・患者のケアをテーマとした討論(模擬多職種カンファレンス)を行い、全体発表を行う。テーマの一つとして、地域医療における多職種連携を取りあげている。
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水戸協同病院での教育回診 |
5年次
地域クリニカルクラークシップ(病院)(6週間)
大学病院を中心とした臨床実習を約1年行った後に、県内の市中病院(地域医療教育センターおよびその他の関連病院)において6週間の臨床実習を行う。大学病院とは疾患構造の異なるセッティングで、common
diseaseを中心とした豊富な症例を幅広く経験できる。
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無医地区での巡回診療 |
地域クリニカルクラークシップ(診療所・小病院)(1週間)
いばらき地域医療研修ステーションに指定されている診療所・小病院および協力施設で1週間の実習を行う。外来診療、在宅医療(看取りを含む)、無医地区の巡回診療、ヘルスプロモーション、地域包括ケア、多職種連携実習など、地域医療についてさまざまな視点から学ぶ。
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住民対象の高血圧教室 |
地域クリニカルクラークシップ(地域滞在型実習)(1週間)
顕著な医師不足地域である神栖市または北茨城市のどちらかで実施する。学生は、外来や訪問看護などの医療に触れるとともに、現地に1週間泊まりこんで、健康教室、健診、住民体験、地域診断などを通して地域社会を実際に経験し、地域医療の特性と重要性について学ぶ。
<教育フィールドと指導体制の確保>
効果的な地域医療教育には、充実した指導体制の下で、実際の地域医療の現場で学ぶことが必要不可欠である。そこで本学では、大学の持つ教育機能を、地域医療教育に最適のフィールドに展開することをコンセプトとして、地域医療教育センター・ステーション制度を導入している。これは地方自治体・企業・団体が寄附講座等で教員の人件費や教育費を負担し、大学が教員を採用して県内の医療機関に派遣して教育を行うシステムで、上記の地域医療教育プログラムはこれらの医療機関を中心に実施されている。
最初に導入されたのは、「いばらき地域医療研修ステーション事業」(2006年)である。この事業は、茨城県が指導医の人件費を大学に委託し、大学が指導医を雇用して地域診療所・小病院に派遣することで、在宅ケアを含む地域医療の理想的なフィールドと充実した指導体制の両立を実現したものである。
2009年には、医学部定員増に基づく茨城県の寄附講座として地域医療教育学寄附講座が開設され、県内有数の医師不足地域である神栖市で地域滞在型の実習を開始した。また同じ年には、水戸協同病院に筑波大学附属病院水戸地域医療教育センターが設置された。同院では、総合診療科を設置して診療教育体制を大幅に強化し、市中病院でありながら大学病院の教育機能を持つ先進的なモデルとして注目を集めている。
その後、同様の試みが県内各地の医療機関と連携して導入され、現在では現在12の病院・診療所に50名を超える教員・指導医が配置されている。この地域医療教育センター・ステーション制度は、大学と地域住民、自治体、地域医療機関等が一体となって「地域で働く医師は地域で育てる」システムを実現したもので、地域医療教育の先進的なモデルとして大きな成果を上げている。
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