*第17回*  (H25.7.31UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は金沢大学での取り組みについてご紹介します。

金沢大学医学部の地域医療人育成の取り組みの紹介
文責: 金沢大学医薬保健研究域医学系医学教育研究センター 准教授 松村 正巳 先生
             

 金沢大学医学部の地域医療人育成の取り組みについては、まず本学の歴史から紹介させていただく必要があります。金沢大学の源流は、今から約150年前の、1862(文久2)年に開かれた加賀藩公認の「種痘所」にあります。それ故、本学の発展とともに、長い年月をかけて能登地区、白山麓の地域医療を支える一次、二次医療機関、金沢地区の高度先進医療を行う三次医療機関が発達してきた歴史があります。患者の病態・疾患に応じた各医療機関の役割が明確に整備され、施設間の連携もきわめて円滑である点に大きな特徴があります。いわゆる患者のたらい回しは石川県内には皆無です。このシステムを支える地域医療を担う人材を、本学は永きにわたり輩出してきました。また、過去30年以上、石川県出身の自治医科大学卒業生のリサーチマインドの涵養、研究指導もおこなっており、本学において学位を取得した自治医科大学卒業生は少なくありません。そのため、9年間の義務年限後も石川県に残り、地域医療に従事している医師が多いことも特徴として挙げられます。
 一方、能登地区住民の現在の年齢構成は、2050年のわが国の予測年齢構成とほぼ一致しており、40年後に到来する日本の超高齢社会を先取りしていると言われています。その能登地区の医療を守るために、本学は石川県とも緊密に連携をとりながら対策を講じています。
 平成21年度からは金沢大学医学類特別枠(地域枠)を設け、卒業後に地域医療に従事する医師の養成を開始しました。特別枠の医学生には地域医療への関心を高めてもらうため、毎年、春休みと夏休みに「地域医療研修in能登」を実施し、地域医療を実地体験してもらっています。さらに、義務年限後も継続して北陸に定着してもらうための生涯キャリアの基本デザインとして、金沢大学附属病院における2年間の初期臨床研修はもちろん、義務年限内に地域の基幹病院における2年間の後期研修も確保することになっています。各診療科の専門医、総合診療医を問わず、若手医師の生涯キャリアを考慮するときに、基幹病院での専門的・先進的な研修を欠かすことはできません。さらに、義務年限中から本学の大学院に入学し、地域医療を実践しながら予防医学を含むリサーチマインドの涵養も可能になっています。本学は真の疾患予防を目指したスーパー予防医科学に関する3大学(千葉・金沢・長崎)革新予防医科学共同大学院を平成28年春に開講する予定です。また、本学の寄付講座である「周生期医療専門医養成学講座」では、本学医学生に実用医学英語の教育や、米国・豪州での実地医療研修のコーディネイトを実施し、家庭医、プライマリケア医を目指す医学生への教育・支援を行っています。

 先に触れたように、本学は近未来の日本の医療モデルとなる能登地域の病院群と既に連携体制を構築しています。能登地域の病院群は卒後3年目以降に若手医師が貴重な臨床経験を積む現場でもあります。そのため、「能登北部地域医療協議会」・「能登地域総合診療強化研究会」を設置し、地域の医療機関の指導医を対象とした研修会、初期臨床研修医の総合診療能力を高めるためのレクチャー、ワークショップを定期的に開催しています。その結果、初期臨床研修に組み込まれている地域医療研修を選択する石川県内の初期臨床研修医数は、平成20年の7名から平成24年の56名へと、この5年間に着実に増加しています(図1)。

 
 図1:地域医療研修を受けた初期臨床研修医数の推移

 また、本学の地域医療への特色ある取り組みとして、能登地区の小児医療ネットワークが挙げられます。中能登地区にある公立能登総合病院の小児科医を増員し、一人医長として能登北部の医療機関に赴任している小児科医に対して、公立能登総合病院の小児科部長が診療支援を行っています。これにより、遠隔地域の一人医長が疲弊することなく、さらに指導も受けながら診療を継続できる体制を整備しました(図2)
 
 図2:能登地区の小児医療ネットワーク
 
 さらに、今年度(平成25年度)には石川県の予算により金沢大学附属病院に国内屈指のITネットワークであるCPD(Continuing Professional Development:継続的専門職業能力開発)センターが整備されました。本センターのテレビ会議システムを用いた研修会や講演会には、能登北部のような遠隔地においてもリアルタイムの出席が可能になります。さらに、特筆すべきは遠隔地に派遣された医師が、本システムを用いて患者のあらゆる画像情報を派遣元の指導医に直に見せながらコンサルテーションできるようになったことです(図3)。運用はこれからですが、地域の患者さんはもちろん、地域医療に従事する特に若手医師への心強いサポートシステムとして大きな期待が寄せられています。

 
図3:金沢大学附属病院のCPDセンターの機能 
 
 以上、述べてきましたように、本学は石川県・北陸の地域医療を守るべく対策を講じ、着実に実績を積み重ねています。