本学医学部の前身宮崎医科大学が医学部医学科として開学したのが1974年であり、それから約40年を経過しようとしている。看護学科は、2001年に開設し10年以上を経過した。本学は当時、一県一医大の構想の下に生まれた医学部であるため、当然、開学の目的の一つは、宮崎県の地域医療に貢献する医師あるいは看護師の育成を目指したものである。
看護学科では、開設以来、県内に就職する卒業生は、年度により幅があり17.5%から49.2%であるが、県内就職者数が変動する理由に関しては、特徴的な要因は認めない。
医学科における地域枠推薦入学の導入については、全国的な流れからは若干遅れをとり、2006年(平成18年度)から開始された。その後、「緊急医師確保対策」に基づく医師養成の推進により2009年(平成21年度)に入学定員を5名増(入学定員105名)、翌2010年(平成22年度)には「経済財政改革の基本方針2009」に基づき、入学定員をさらに5名増(入学定員110名)とした。2006年(平成18年度)に10名でスタートした地域枠推薦入学であるが、2009年(平成21年度)に地域特別枠(入学定員5名)を新たに設けたことにより、地域枠推薦入学定員は合わせて15名となった。さらに2011年(平成23年度)には地域特別枠は10名となり、合計20名となった。
地域枠推薦入学者が卒業する以前の10年間(2001年から2011年)における医学科卒業生が県内で就労する割合は卒業生の10.8%から28.8%(10名から28名の範囲)であり、卒業生の県外流出は止められない状況であった。しかしながら、卒後研修制度の見直しの機運や大学の卒後研修制度における多様化したシステム・カリキュラムの改善などで大学に残る卒業生は2012年(平成23年度)は38名(36.2%)、2013年(平成24年度)は27名(34.3%)と若干増加した。一方、地域枠推薦入学者については2013年3月の時点で、2012年(平成23年度)卒業生7名のうち1名が、2013年(平成24年度)は12名のうち4名が県外での卒後研修を希望し宮崎県を離れていった。これらの卒業生がそう遠くない将来に宮崎県下で診療に従事してくれることを願うばかりである。また、同推薦枠で入学した学生のなかでは留年する者が散見され、なんとも表現しがたい悲しい現象である。これらの事実は、地域枠推薦入学制度の運営の難しさを露呈している現象である。今後、全国医学部の様々な制度を参照しながら、地域医療を担う医師確保を確実に履行できる制度を模索し、確立しなければならないと考える。
地域枠推薦入学者は当然のことその他の学生に対しても卒業後地域医療を担う人材を確保するため、地域医療学講座(宮崎県の寄附講座)の主導の下、一年生から地域医療学I及びIIの教育カリキュラムを立案し、Iは必須科目として、IIは選択科目であるが地域枠推薦入学者に対しては必須科目とするほか、入学時から6年間を通して日常的に地域医療に関する情報提供を行い、地域医療に携わる意義、喜び、生き甲斐を教授している。
2011年には、地域医療診療医育成を目的として附属病院に地域総合医育成センターを設置し、院内各診療科の協力を得ながら地域医療学講座を中心に地域根ざした医師の育成に取り組んでいる。また、2012年から新たに初期臨床研修を修了し地域医療に携わる医師の地域総合診療医育成の臨床研修の場として、県立日南病院内に『地域総合医育成サテライトセンター』を設置した。この組織は、大学と自治体、地域の医療機関が三位一体となった組織であり、地域総合診療医の育成体制を構築している。ここには、地域医療学講座の医師が出向して教育指導体制を確立し、一次医療から三次医療までを日常的に経験し総合診療医としての研鑚を積むことができる。また、学部学生、初期研修医及び後期研修医が実習や実践の場として活用することができる組織でもある。一方、総合診療医を育成するとともに、本人が専門医の取得を希望すれば研修指定施設への派遣も視野に入れており、特定の領域の専門医で、かつ総合診療医の育成も大切な要素であると認識する。また、自治医科大学の卒業生についても、地域総合医育成サテライトセンターあるいは附属病院の診療科に研修の場を提供し、総合診療医としてのレベルアップに繋げたいと願っている。
また、地域特別推薦枠の学生には宮崎県より奨学金の貸与制度が確立されているが、今年度より県が、後期研修医に対する奨学金制度(月額15万円)を創設したところ、6名がこの制度を利用することとなった。今後とも、行政、地域医療機関、及び大学が連携して地域医療者の確保のための環境作りを推進する覚悟である。
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