*第15回* (H25.5.24UP) | 前回までの掲載はこちらから |
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今回は山形大学での取り組みについてご紹介します。 |
山形大学医学部の地域医療への取り組み | |||||||||||
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Ⅰ. 概要 山形大学医学部医学科は昭和48年(1973年)の開学以来、平成24年度までで3,559名の卒業生を輩出している。現時点での山形県内の医療機関での常勤医師のうち57.3%が山形大学医学部医学科の卒業生で占められており(平成20年現在)、県内の医療機関での医療支援はその総数の85.3%(平成23年現在)に及んでいる。文字どおり山形大学医学部は山形県の医療を支えている。それを支える人材も平成16年度から義務化された初期臨床研修制度においても毎年22~40名の初期臨床研修医の採用、そして入局者が毎年25~38名を数えている。 山形大学医学部が地域医療を支える理念は、地域に最高の医療を提供することである。これを可能にするための戦略は嘉山孝正教授(現:山形大学学長特別補佐、国立がん研究センター名誉総長、全国医学部長病院長会議相談役、国立大学医学部長会議相談役)が医学部附属病院長(平成14年~15年)および医学部長時代(平成15年~22年)に確立され、現在も実行されつつあるが: 1.山形大学医学部附属病院を世界最高レベルの医療を提供するメディカルセンターとすること:例えば、山形大学医学部がんセンターを中心に最先端のがん医療を中心に地域に提供し、さらには重粒子線がん治療センター導入を企画している。 2.山形大学医学部及び附属病院と地域の医療関係者が医療ネットワーク構築:地域医療の維持・向上及び将来計画の策定等に中心的な役割を演じる山形大学蔵王協議会が平成14年、当時附属病院長であった嘉山孝正教授により設立され、活発な活動を行っている(現会長嘉山孝正教授)。 3.医療人育成のための知的環境の整備:山形県の地域医療を支え、高度な医療を地域で行う体制を推進するための人材を輩出するために、山形大学医学部では生涯にわたる医師育成の中心となる機関として医局制度を強化する。地域に優秀な医師が定着するように、上記の蔵王協議会を中心に、医師循環型の人事、地域での医療活動とともに医師としての勉強が継続できるための知的環境の整備などを行っている。 本稿では以上の戦略、とくに2および3について紹介する。 II. 山形大学蔵王協議会について(図1) 山形県の医療及び日本全体の医療に貢献する有為な人材を輩出するため、地域(行政、病院、医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会)との連携を行う蔵王協議会を設置し、運用を行っている。その活動は、医師の育成(卒前・卒後)、研究、診療のネットワークを構築して、山形県の地域医療を支える、というものである。 山形大学蔵王協議会では、エビデンスに基づいた医療資源の適正配置を実現するため、山形県健康福祉部などとも密接な協力の下、山形県内の全ての医療機関を対象として、診療機能や経営状況、患者の受療動向、医師・看護師等の医療スタッフの人数やその勤務実態等について、各種調査研究を継続的に実施している。一連の調査は医療政策学講座(村上正泰教授)が中心となり実施し、医療提供体制の全県域的な現状把握を行っている。調査を通じてそれぞれの地域における診療科別の必要医師数等も明らかとなり、それらのエビデンスが医師適正配置委員会での審議にも活用され、「医師不足」と言われる中にあっても、山形県内において医師の配置に公平性や合理性を担保することが可能となっている。さらに、これらの調査結果に基づきながら、山形大学医学部を中心として医療提供体制のグランドデザインを描き、それが山形県における医療行政にも反映され、医療機関の機能分化と連携を通じて、質の高い効率的な医療提供体制を実現することに貢献している。 診療のネットワーク構築に関しては、蔵王協議会の緊密なネットワークを基盤としながら、ICTを利用して県内の医療機関の間での全県域的な患者情報の相互参照・共有の実現に向けた取り組みを山形県健康福祉部と連携して進めている。山形大学医学部を「ハブ」とした全県域的な医療情報のネットワークが構築されていることで、患者に対して継続して適切かつ質の高い医療提供が実現でき、医療者の負担軽減にもつながる。今後、相互参照・共有システムで山形大学医学部附属病院と結ぶ医療機関数を増やしていくとともに、山形大学医学部を中心として診療情報のデータベースを構築する予定にしており、そうすることで山形県内の医療水準の更なる向上と医師の知的環境の整備に寄与することが期待されている。 III.医師育成 山形大学医学部における医師育成の根本理念である山形県の医療に貢献しつつ同時に日本全体の医療に貢献する有為な人材を輩出するために上記の蔵王協議会が大きな役割を果たしている。医師の育成に関しては卒前・卒後の教育に一貫して関与する仕組みが構築されている。これが地域における「知的環境整備」である。 (1)卒前教育:卒前からの優れた臨床医の育成臨床実習は病院の実際の医療チームの中で行う「Student doctor」制度を全国に先駆けて考案し(平成22年度嘉山孝正医学部長(当時))、遂行している。卒前の臨床実習を地域病院と連携して行っており、実習期間72週を平成26年より開始する。 (2)卒後教育:上記の医療ネットワークを、卒前教育と連続的に行うために大学医局を中心として教育制度の確立、卒後の医師育成のプロセスを(初期臨床研修、専門医研修、生涯教育)総合的におこなうために蔵王協議会とならんで山形大学医学部総合医学教育センター(詳細な説明は後述)をおいている。山形大学医学部総合医学教育センター(図2.http://www.id.yamagata-u.ac.jp/yufm_gmec/index.html)では、医師が医療のニーズに合わせた教育がタイムリーに受けられるように、山形大学医学部卒後臨床研修センターと協力しながら、卒前、卒後の医師育成プログラムを多様に準備して、山形大学医学部附属病院の全面的な協力のもとに実行している。これにより、初期臨床研修において、蔵王協議会の医療機関とのたすきがけの研修プログラムをほとんどの研修医がとっているが、大学病院と地域の病院の両方で研修がうけられ、将来の専攻分野にあわせた研修が可能となっている(87%の医師がたすきがけプログラムを採用)。さらに地域で診療を担当している医師が専門医取得などより進んだ医療の勉強をしたい、学位取得など多くの要望にこまめに応えるため、山形県寄附講座地域医療システム内に高度医療人研修センターを設置した(平成22年)。当センターは総合医学教育センターと共同で、これまで山形大学医学部が独自に行ってきた東北がんEBM人材育成・普及推進事業等と連携して地域医療を担うスペシャリストの養成を目指している。ちなみに東北がんEBM人材育成・普及推進事業は、e-learningのシステムを活用することにより、最新のがん診療の情報を東北全体にわたり地域の医師に提供し、さらには多くのがん専門医の育成やがん治療に貢献する医師、医療スタッフの育成を行っている、全国の医学部初の試みである。(http://www.id.yamagata-u.ac.jp/Tebm/index.html) 前述の山形大学総合医学センターは、地域医療へ大学医学部が貢献できる方法を研究し、新たな生涯教育システムを地方自治体(県)と共同で創設することを目標に、文部科学省の競争的資金平成16年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム:生涯医学教育拠点形成プログラム -包括的地域医療支援機構創設-」を基に開設した(図3)。センターは、地方自治体及び関係機関との密接な連携により、地域の医師の教育ニーズに呼応した生涯教育支援及び医師等の再就職のためのリフレッシュ医学教育を行うことで、医師の定着を図り、医師の偏在解消も含めた地域の医療環境の充実、医療レベルの向上、地域住民の健康増進を通して地域社会の活性化も目指している。リフレッシュ医学教育とは、専門医として長年勤務後に定年退職した医師、基礎医学・社会医学を専門としてきた医師、あるいは定年前であっても地域医療への貢献を望まれる医師に、総合診療を研修する場を提供し、地域医療を担う“一般医(general physician)”としてご活躍いただくものである。我々の調査によると、平成18年度東北地方で定年退職した病院医師の8割は再就職を希望しているが、これまでは、専門医として再就職先を探さざるを得なかった。そこで、山形大学では、地域病院でfirst aid及びprimary careを行いうるgeneral physicianとしてご活躍いただくための教育研修システムを構築した。平成19年度に開始し、平成24年度までに15名の医師がリフレッシュ医学教育を経て地域医療に貢献している。リフレッシュ医学教育は、山形大学独自のユニークな医師不足対策として、マスコミにも多く取り上げられ、全国の注目を浴びている。さらに平成22年度からは、潜在看護師の復職支援事業も開始した。本事業では、復職希望のある潜在看護師に、経済的な心配なく研修が行えるよう研修期間中は非常勤職員として給与を得ながら大学病院でOn the Job Trainingを行なってもらうというものである。研修後の再就職先は、大学病院だけでなく、地域の診療所など多岐にわたる。このような潜在看護師復職支援事業は、きわめてユニークな取り組みで、これも大学病院では初めての試みである。 |