*第37回*  (H28.10.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は鹿児島大学での取り組みについてご紹介します。

鹿児島大学における研究医養成の取り組み
文責 :  鹿児島大学医学部医学科 統合分子生理学教授  桑木 共之 先生

【概要】
 鹿児島大学医学部医学科では、リサーチマインド涵養の1つの方法として「自主研究」授業を行っている。平成22年度までは卒業の要件外の単位として正に学生の「自主」選択に任せてきたが、平成23年度からは2年次前期〜3年次前期の一年半の間に6単位を必修化し、研究室所属先の選択のみを自主とした。但し、いきなり自主研究先を選べと言われても困惑してしまう学生がいる可能性にも配慮し、1年次に「研究開発基礎」という授業科目を設け、大学あるいは医療・医学における研究の意義と研究倫理を教えるとともに、自主研究受入側の研究室紹介を行っている。平成28年度の新入生からはカリキュラムの変更に伴って自主研究の必修期間は4年次に変更されたが、研究の意義・倫理・紹介を含む導入授業を行ってから配属先を自主選択させる基本的考えに変更はない。新カリキュラムではこれに加えて研究で必要となる医学統計も導入授業に組み入れられた。更に、研究に興味のある新入生を4年次まで待たせることなく1年生のうちから研究に触れてもらう目的で、自由選択の自主研究A〜F(1年次はA、2年次はB、・・・、6年次はF)という授業科目を設けた。単位として認定して学生にも教員にも周知することによって、研究に興味はあるけれど具体的な方法論がわからないという潜在的研究医を発掘し、その指向性を伸ばしてもらうことを期待している。

【私の経験】
 選択必修の自主研究授業としては平成23年から平成28年の6年間で25人の学生を受け入れた。各々の学生にはこちらで用意した複数のテーマの中から興味の持てるテーマを自由に選んでもらい、マンツーマンで大学院生への実験研究指導と同様の形で最前線の研究の一端を担ってもらった。大学院生との唯一の相違は、比較的短期間で結果が得られそうなテーマの中から研究内容を選択してもらっていることぐらいである。関連知識は教室にいる先輩に教わったり、資料を提示する形で自習してもらったりした。毎週行っている教室のジャーナルクラブや研究の進捗報告会にも出席してもらい、毎回必ず発言することを義務付けた。知識の総量では先輩の大学院生等に敵うべくも無いが、初めは戸惑っていた2年生が半年も経つと一人前の発言をするようになる。研究に重要なのは知識よりも好奇心や情熱だと痛感する瞬間である。授業期間の最後には発表会を開催して1年半の成果をプレゼンすると共に、その内容はレポートにもまとめてもらった。
 選択必修で受け入れた25人の学生は総じて熱心に実験を行った。2年目以降は先輩からの情報で、特に実験動物を用いた研究に強い関心を持った学生のみが当教室を自主研究先に選んだ為であると思われる。選択理由を全員に質問したわけではないが、少なくとも聞いた数人は口を揃えて「興味がある」と断言した。基礎臨床を問わず医学の進歩には研究が必要であるという認識を入学間もない2年生がしっかりと持っていることは正直驚きであった。教員側は研究医の減少を嘆く前に自らの教育方法をしっかり反省すべきであろう。
 自由選択の自主研究としては平成22年、24年、28年に各1人が研究に参加してくれている。選択必修と異なり自由選択では授業時間がカリキュラムに設定されていないので、他の授業の合間を縫っての参加であり、正に熱心に研究している。指導方法は選択必修の自主研究と同じであり、当研究室の最前線の研究を分担してもらっている。
 さて、上記の合計28人の内で幸運にも恵まれた5人の研究成果は、2編の学術論文発表とのべ10回の学会発表に結びついた。中でも3人は米国神経科学学会でポスター発表をした。その先駆けとなった石川そでみさんの経験については別項「プロフェッサーのヒヨコたち」をお読み頂きたい。海外学会は必ずしも自主研究の授業期間中に開催されるとは限らないので、その際は欠席せざるを得ない授業の担当教員にも協力を仰ぎ、欠席が成績評価に不利にならないようにお願いした。
 最後に、1年生に自主研究授業の紹介を行う際に私が強調していることを紹介したい。1)研究は患者さんを診るのと同じぐらい人々の役に立つ。2)研究は知識や経験を沢山得てからで良いと思うのは間違いである。James WatsonがDNAの2重螺旋を発見したのは23歳の時で今の君たちと大差ない。3)研究は一部のエリートだけのものではない。iPS細胞発見の山中伸弥先生や相対性理論のアインシュタインはいわゆるエリート校出身ではない。4)結論:研究するなら、今でしょう。

最近の学会発表から  
  1)赤星里佳さん@札幌 
 

  2)井上恵理さん@札幌