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「新医学専攻(平成7年〜)」
筑波大学は、昭和48年(1973年)に開学され、平成23年度に第38回生を迎えました。医学類(医学部に相当します)の教育目標として、「卒業の時点で基本的な臨床能力を備え、良好なコミュニケーションを通して、患者の立場を配慮した医療の行える人間性豊かな良医を養成するとともに、将来優れた臨床医、医学研究者、行政官として医療保健福祉の様々な分野で社会に貢献する人材を養成する」ことがうたわれ、これまでに3,153名の卒業生を輩出してきました。この間、優秀な臨床医を養成してきた一方で、医学研究者の育成が十分に行われてこなかったという議論があり、平成7年、医学類の履修課程の中に「新医学専攻」という新しいコースが設立されました。
「新医学専攻」は、低学年の「入門・準備」と、5年次から6年次にかけての「実践」の2段階から成ります。前者は、当初、基礎医学科目の履修が終わった3年次と4年次に「研究室演習」という形で実施されていましたが、「新筑波方式」が導入されて基礎科目の履修が早まったことから、2年次と3年次に実施するように変更されました。この段階では、まず学生が自ら興味をもった研究室に赴いて、教員の指導を受けながら実験に従事し、論文抄読会で原著論文の読み方や最新の知識を身につけていきます。実際に実験を体験し論文を読むことにより、医学研究を身近に感じつつ実験技術と知識を習得していくことを目指します。毎年、30近い研究グループが学生の受入を表明していますので、学生は、基礎医学、社会医学、臨床医学にわたる幅広い医学研究分野から自分の興味に合った研究室を選択することができます。ここで、学生の意欲、能力、個性と指導教員の研究テーマ、研究活動をマッチングさせ、5年次に進級する時に後半の段階(実質的にはこの部分が「新医学専攻」です)を選択するかどうかを学生が決定します。
「新医学専攻」を選択した学生は、5年次の12月から6年次の6月にかけて、一般の学生が地域クリニカル・クラークシップ(C.C.)と選択C.C.(筑波大学附属病院および大学病院以外の病院で希望する診療科を選んで行うC.C.)を行っている期間に、本格的に実験に取り組みます。(筑波大学では4年次の夏休み後からC.C.が始まりますので、「新医学専攻」学生も、期間は短縮されますが、一般的なC.C.を履修します。)所属した研究室では、一般の大学院生と同じ様に扱われ、教員の指導のもと、実験の計画、実行、成果の取りまとめなどを実践的に経験していきます。講義や実習などがないことから、学生は自分の計画に従ってフルに研究に没頭することができます。「新医学専攻」を終えた学生は、一般の学生が選択C.C.の発表を行う時に合わせてポスター形式で研究成果を発表するほか、平成22年度からは独立して開催される「新医学専攻研究成果発表会」で口頭発表を行っています。このコースを履修した学生の中には、その成果を卒業前に筆頭著者の原著論文として発表したり、国際学会の発表で表彰される学生もいます。
「新医学専攻」を修了した学生は、卒業後直ちに大学院博士課程に進むことが推奨されます。医学研究科(現在は人間総合科学研究科・医学系専攻)は4年間の履修課程が一般的ですが、優秀な成績を収めた学生は3年で博士の学位を取得する早期修了制度があります。「新医学専攻」を専攻した学生は学類に在籍している時から独自の研究テーマを持って研究を進めていますので、大学院の早い時期に論文を発表できる可能性が高く、「新医学専攻」履修生の中には、この制度を活かして3年で学位を取得した学生がいます。
これまでの16年間で計53人(平均3.3人/年)の学生が「新医学専攻」を専攻しました。まだ臨床研修中、あるいは大学院在学中の者が多く、進路に関してハッキリした数を示すことは困難ですが、卒後5年以上が経過した30名の進路を見ると、大学院を修了した(あるいは在籍中)の者の割合が高く、博士取得後も筑波大学病院、その他の大学病院、医療センターに勤務している者が半数を占めます。さらに、筑波大学の教員、もしくは他大学の教員、海外の大学の研究員として活躍している者も6名いることから、医学研究者を育成するという当初の目標はある程度達成されているものと思われます。「新医学専攻」は16年前に開始された制度ですが、現在議論されているMD-PhDコースや研究医育成コースを先取りした先進的な研究医育成コースであったと言うことができます。
しかしながら、いくつかの課題も存在します。先ず、「新医学専攻」を選択する学生の数が少ないことです。多くの学生は、自分に研究能力がある、あるいは自分が研究に向いているとは思わず、潜在的な能力や適性があるにも関わらず、それを自覚しないために研究者への道を選ばない可能性があります。現行の制度は、学生の自主性に任せていますが、医学類在学中に学生全員が一定の期間どこかの研究室に所属して実験を体験するようなカリキュラム(他大学で実施されている研究室配属)を実施すれば、研究に興味を持つ学生を発掘できる可能性が高まるかもしれません。また、これとも関連しますが、現行のカリキュラムは大変密度が高いため、低学年の「研究室演習」は時間割には組み込まれず、放課後や休日、夏期休暇などを利用して行っていますが、実際には、講義、実習、部活動などで忙しいため、「研究室演習」を選択した学生でさえ十分に研究を行うことができない場合があります。一定の研究期間を保証することは、学生が集中して実験に取り組むことの助けになる可能性が高いと思われます。
「研究者育成コース(平成23年度〜)」
このような課題の解決を模索している中で、平成23年度より、研究者育成コースに入学定員が1名措置され、「新医学専攻」をブラッシュアップした新しいコースが始まりました。基本的には「新医学専攻」の特徴を活かしつつ、将来医学分野で研究者として活躍できる人材を確保することを目指しています。今までの「新医学専攻」コースとの違いは以下の通りです(図も参照してください)。
まず、「研究室演習」を1年次から開始して4年次まで行うこととし、早期エクスポージャーと継続性を確保しました。これにより学生が幅広い医学分野を見渡して自分の適性を見つけるチャンスを増やすことと、研究に取り組む時間を増やすことを期待しています。次に「新医学専攻」を専攻した学生の中から2名を選抜して「研究者育成コース」へ進ませることとしました。選ばれた学生は、6年次に奨学金を授与されますので、インセンティブによりこのコースを選ぶ学生が増えるかもしれませんし、多少なりとも学生の生活の支援につながると考えられます。また、これまで通り大学院の3年次早期修了を目標として学類在籍時から指導を行いますので、最短の時間で博士(医学)を取得できることとなります。初年度である今年、このコースを選択し、卒後直ちに大学院に進学することを決意した学生がいたことから、順調なスタートをきったと言えるのかもしれません。(この学生の紹介文も掲示されると思いますので、合わせてご覧頂ければ幸いです。)
しかしながら、この制度には不十分な点が多く、今後の改善が必要です。まず、大学院に進学後の奨学金制度が確立していません。大学で実施しているティーチングアシスタント、ティーチングフェロー、リサーチアシスタントなどの制度を活用して学費相当額の支援を行うことを計画していますが、より継続的でこのコースに特化した支援体制をつくることが望まれます。一方、現行の制度では、大学院修了後に臨床研修を開始することになりますので、卒後直ぐに大学院に進学することを希望する学生がどれほどいるかが疑問です。研修を遅らせてでも研究に従事したいと学生に感じさせるような研究環境(ハードウェアだけではなく研究の魅力も含めた環境、学類教育で研究に興味を持たせる動機付け、指導体制などを含む)を準備することも必要です。研究指導を所属研究室の教員のみに任せず、幅広い知識、発表力、英語力など研究者としての総合的な能力を育む制度をつくり、学類在学中から学類一体として研究者を育てる仕組みを作ることも必要かもしれません。まだ始まって間もない制度で解決すべき課題が山積みですが、全国の医学部、医科大学と共同しながら、今後さらにこの制度をブラッシュアップして少しでも研究者の育成に努めていきたいと考えています。
筑波大学医学類HP: http://www.md.tsukuba.ac.jp/md-school/education.html
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