大学の教授が研究医として歩みだした頃のことを回顧します。 | |||||
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『研究を始めた頃』 東北大学大学院医学系研究科・医学部長 山本 雅之 (医化学分野教授) |
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左が筆者 |
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私が東北大学医学部を卒業したのは、Tom Maniatis 先生が遺伝子クローニングに成功するなど、分子生物学に大きな革命が起きていた頃でした。私は、卒業後すぐに医学研究科に進みましたが、そこでの研究を通して、脊椎動物の遺伝子発現がどのように制御されているかを解明したいと強く望むようになりました。そこで、菊地吾郎先生とDavid
Shemin先生にお願いして、大学院修了後すぐにManiatis 博士直系のDoug Engel 先生の研究室に留学させて頂きました。 その時は、Engel 先生は35 歳の新進気鋭の研究者で、朝早くから夜遅くまで、自ら実験に取り組んでいました。もちろん私の実験に問題があれば、すぐに相談に乗ってもらえました。研究室には新しいことを発見しようという気運が満ちていて、充実していました。私はcDNAクローニングを簡便かつ効率良く行う方法の確立を目指して、ラムダファージ発現ライブラリーの構築に取り組みました。ほとんどの試薬を手作りしながらの実験でしたが、トリ赤血球cDNAライブラリーの作製に成功した時にはとてもうれしかったのを覚えています。 1985 年に、このライブラリーから赤血球特異的5−アミノレブリン酸合成酵素のcDNAをクローン化しました。これは、脊椎動物ではヘム生合成系の酵素群がハウスキーパー型と赤血球特異型の2つのイソ酵素からなること最初に実証した仕事であり、動物のヘム合成の根幹を解き明かした、今考えても心が躍る実験でした。その後、この赤血球型イソ酵素の変異が遺伝性鉄芽球性貧血を惹起することが明らかになり、病気の原因に迫る仕事ができたと医学系の学生に自慢しています。 Maniatis先生が1987年に、遺伝子発現を制御する様式として、組織特異的エンハンサーと誘導的エンハンサーがあると整理した頃から、脊椎動物の遺伝子発現制御研究が活性化したように思います。その頃、衝撃的だったのは、Harold Weintraub らのグループが、転写因子MyoDを未分化細胞に導入するとその細胞が骨格筋に分化することを発見したことです。すなわち、一つの転写因子が細胞の運命を決定できるのです。私は大学院のころから赤血球を研究していましたので、赤血球系分化を誘導する転写因子を見つけ出したいという思いが募り、1989年に2度目の渡米をし、Engel 先生と協力してこのテーマに挑戦しました。結果的に、新しい転写因子ファミリーであるGATA 因子群を同定することができました。 その後、東北大学に5年期限付き講師で戻り、GATA 因子群の解析を続けました。その過程で、赤血球の特異性を決めるのはGATA因子だけではなく、幾つかの転写因子の組み合わせではないかと考えるようになりました。そこで、第2の因子であるNF-E2 に着目したのですが、なかなかその実態がわかりませんでした。そんな折、西澤誠博士に出会いました。NF-E2について話したところ、彼が見つけた癌遺伝子Maf と結合配列がよく似ていることがわかりました。そこで、共同研究を行い、NF-E2のp45サブユニットをMaf関連の小Maf 因子と混ぜ合わせてみると見事に結合することがわかりました。細胞の正常分化と癌化が、同じような転写因子によって行われるという事実に驚きました。 さて、東北大学での5年任期の終了が迫ってきたころ、筑波大学先端学際領域研究(TARA)センターの教授公募がありました。そこでは、流動的な組織運営、競争原理の導入、学際的かつ先端的な研究推進、外部評価の導入、研究成果の社会還元、などが謳われていました。また、すべての研究者は7 年間の期限付き採用で、クビをかけて研究することになっていました。ただし、「審査を経ての再任」は可能でしたので、頑張ればかえってインセンティブ(飴玉)が頂けると期待できました。私はこの制度が気に入ったので応募し、幸運にも選ばれて、同センターに赴任しました。しかし、赴任してみると現実は厳しく、当初は初代の自分たちで研究環境を整えて行くことが仕事でした。一方で、緊張感を持って研究の推進に当たったことも事実です。 私は、上述の任期付き講師になってから、筑波大学での任期制教授、そして、現在東北大学でも任期制教授を勤めています。我が国の大学改革の潮流の中で、ずっともまれてきたようにも思います。後半の2つは再任有りの任期制ですので、良い評価がインセンティブに結びつくようになれば、審査を受ける楽しみが出てくるように思います。この制度が、基礎医学の研究室に医学系学生を引きつけるような制度に脱皮できないものか、思案のしどころかとも思います。 【私の履歴書】
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