徳島大学2005年入学の黒川憲と申します。私は、医学部4年次を修了後、MD-PhDコースを選択し、大学院医科学教育部へ進学しました。大学院では主に選択的スプライシング調節因子SRSF3による細胞周期とアポトーシスの制御機構について3年間研究し、医学博士号を取得した後、2012年4月に医学部5年次に復学しました。まだ医学部卒業後にどのような進路に進むか決まっていない私がこのような場に寄稿するのは大変恐縮ですが、MD-PhDコース等の研究医養成コースに興味を持つ医学生にとって何かの参考になればと思い、これまでの経緯を具体的に振り返ってみることに致します。
研究との出会い
研究との出会いは、大学1年次に受講した生物学の講義でした。大学入学前から、工学や生物学などの分野で何か新しいものを発見する・開発するという研究職に強い憧れを持っていました。そして当時は医学部に入学直後で色々とワクワクしていたものの、一年次は一般教養科目が多く、どうも煮え切らない感じがしていました。そうした状況で、生物学の講義を担当する教授の研究室へ遊びに行く機会があり、実験室を案内して頂いたり、研究内容を紹介して頂いて、非常に好奇心が刺激されたのを覚えています。その後、時間があれば研究室に遊びに行き、簡単な実験などをさせて頂くことになりました。あのタイミングで当時の教授・スタッフ・大学院生と出会ったのが、数年後にMD-PhDコースを志望する大きな契機であったと思います。
MD-PhDコースへ進学した経緯
その後、実習・部活等でほとんど研究室に行かない時期もありましたが、徳島大学では3年次に研究室配属があり、そのまま同じ教室を選択しました。ちょうど私の学年から配属期間が3ヶ月間から半年間へと延長され(現在はさらに1年間へ延長)、新規non-coding
RNAの機能解析を行いました。そして、分子細胞生物学や生化学の基本的な実験手技を学ぶと共に、半年間で得た結果をスライドやポスターでまとめて初めて研究発表を行いました。当時は純粋に実験が面白く、研究室配属が終わる頃には、もっと本格的に研究してみたいと思うようになっていました。
また、4年次では、5月から7月にかけてテキサス大学医学部ヒューストン校のサマーリサーチプログラムに参加しました。留学中は、Milewicz教授の教室(内科、Medical
Genetics)に配属され、解離性大動脈瘤とvasa vasorum(血管の栄養血管)の関連について研究を行いました。Milewicz教授はテキサス大学のMD/PhDプログラムの出身であり、現在は本プログラムの責任者であるため、実際に活躍している多くの現役のMD/PhDプログラムの学生と交流・意見交換することが出来ました。彼らの大部分は臨床医志望でしたが、難関を突破したエリートであり、強い刺激を受けました。そして帰国後、色々と悩んだ末、最終的に徳島大学のMD-PhDコースへ進学することを決心致しました。
いよいよ大学院
さて、実際に大学院に進学した当初は、どのように研究を展開して行けば良いのかよく分からない、とても不安な時期がありました。研究室配属等で基本的な実験手技は学んでおりましたが、自分で仮説を考え、研究計画を立て、それを実際に実行に移すトレーニングをする機会はなかなか学部学生の頃に無かったためであると思います。しかし、当時の指導教官の熱心なご指導のお陰もあり、徐々に研究が動き出し、次々と新たな疑問・課題も湧いていき、いつの間にか研究に没頭していました。研究過程では、数ヶ月間ネガティブデータが続いたり、仮説を否定するデータが出たり、落ち込むことも何度もありましたが、それを一つ一つ乗り越えていった経験は貴重な財産となっています。そして、ある程度データが溜まって来ると、米国消化器病学会やEMBO
meetingなど、臨床や基礎の国際学会にて発表させて頂く機会もありました。2年次の後半頃からは徐々に学位論文を作成していきました。論文を書くという作業も全く初めての経験であり、自分の研究の正確な立ち位置や周辺知識の整理から始まり、実験と平行した執筆作業は膨大な時間を要しました。投稿後、毎朝ネットで論文のステータスをチェックする緊張感や、アクセプトに到達するまでの厳しさなども実感し、まだまだ圧倒的に経験・実力は不足していますが、3年間の全力投球を終えてようやく少しは研究過程の全体像が見えてきたような気が致します。
MD-PhDコースを終えて
MD-PhDコースは、若い時期に大学院で3~4年間研究だけに集中してトレーニング出来る非常に魅力的なプログラムだと思います。但し、医学部5年次に復学してからは臨床実習が始まり、以前のように朝から晩まで毎日好きなだけ実験・討論・執筆等を行うことは難しくなりました。私の場合、卒後臨床研修も行う予定ですので、さらに2年間以上研究の最前線から遠ざかる可能性があります。こうした点からMD-PhDコースは、既に卒後は基礎研究者になると100%決心している方には賛否両論あるとして、なんとなく研究に興味がある方をはじめ、研究に興味があるが具体的な進路が決まらない方、臨床/臨床研究・基礎研究などどの分野に進むか迷っている方、トランスレーショナルリサーチやphysician
scientistに興味がある方など、多くの方にとって研究の世界への比較的ハードルの低い入り口として魅力的なプログラムなのかもしれません。そして、様々な方がおっしゃるように、やはり研究には一度ハマってしまうともう止められない魅力があります。私自身もMD-PhDコースを終え、どのような分野に進んでも将来的には医学研究に携わっていきたいと改めて強く思うようになりました。
最後になりましたが、MD-PhDコースへ進学するにあたり、六反教授、玉置医学部長をはじめ、多くの先生方に大変お世話になりました。この場をお借りして、深く御礼申し上げます
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